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宝くじが当たったのでレベル1から聖剣を買ってみる 作者:羽田遼亮

第三章

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鏡の中のクロア

 さて、再びヴァイクの鍛冶屋まできたが、先ほどの顛末を見ているので、容易に扉は叩けない。

 無策に飛び込めば、貴族の従者と同じ運命をたどる恐れがあった。
 なにか妙案はないものか、考えているとリルさんはこんな提案をしてくる。

「そう言えばあの従者、こんなことを言っていたぞ。『もう男の冒険者の装備は作らない』と。逆に言えば女冒険者の装備ならば作ってくれるのでは」

「なら、リルさんが訪ねてくれますか?」

「馬鹿を言うな。私が鎧を作ってどうする。少年に合わせたものを作らないと」

「ですよね。ならばその方法は却下で」

「却下はまだ早い。こんな秘策がある」

 にやつきながら言うので聞きたくないが、一応、訪ねる。

「その秘策とは?」

「少年、化粧はしたことはあるか?」

 と、リルさんは懐から化粧道具を取り出す。

「まさか、僕は男ですよ」

「そうか、ならばスカートをはいたことはあるか?」

「あるわけないじゃないですか」

「これを機会に両方試してみる気はないか?」

 どうしてですか? とは問わない。
 彼女の秘策とやらが分かったからだ。
 リルさんはどうやら僕に女装をさせて『女』冒険者に仕立て上げる気らしい。
 無難というか安直な作戦である。
 もちろん、その提案は断らせてもらう。

 リルさんは、
「なぜだ?」
 と、問うたが、理由はふたつある。

 ひとつは女装をしたことが姉にばれれば、切腹ものだからだ。
 姉が静かに怒る姿が浮かぶ。

「……クロム、私はあなたを優しい子に育てたつもりだけど、軟弱な子に育てたつもりはありません。死んで一緒にご先祖さまに謝りに行きましょう」

 と、白装束を着て腹を切るだろう。介錯なしに。
 もうひとつの理由は女装などしてもすぐにばれるからだ。

 僕なんかが女装しても女の子に見えるわけがないし、仮に見えたとしても身体をまさぐられればばれる。

 鎧を作るとき、寸法を測られるのだ。
 そのとき、胸がぺったんこならばさすがに気付かれるだろう。
 そのことを話すと、リルさんは己の腰に手をやり、胸を突き出しながら笑った。


「はっはっっは!」 


 と――。
 彼女は続ける。

「それについては安心だ。少年はまだ子供だから知らないだろうが、この世界には大人になっても胸がない娘など山ほどいる」

 例えば私とかな!
 と偉そうに続ける。

「しかし、誤解するなよ。私の胸が小さいのは脂肪が戦いの邪魔になるからだ。がんばればもっと育つ。まだポテンシャルは秘めているのだ」

「…………」

 たしかリルさんは御歳数百歳になられるはずだが。まだ諦めていないのだろうか。

 限りなく平坦なリルさんの胸を見つめると胸はなんとかごまかせるかもしれないな、と思った。

「少年、今、私の胸を見ていけるかも! と思っただろう」

 !マークが付くほどの確信はないが、たしかに思ったので、僕はリルさんの提案を断れなくなる。

 こうして僕は鍛冶屋街にある婦人服店に連れて行かれる。
 そこで僕はリルさんに着せ替え人形にされ、女性物の服を買ってもらう。

 彼女が買ってくれた服は真っ白なワンピースで、裾や縁にレースが付けられたひらひらのものであった。

 どこぞのご令嬢かな、という感じである。
 結構な値段がしたが、リルさんは気にした様子もない。
 店員に銀貨を十数枚払うと、そのまま化粧台を借り、メイクアップに入る。

「少年、私がいいというまで目を開けるなよ。少年が目を開けたとき、そこに素敵な美少女がいるから」

 いにしえの物語のように自分に恋に落ちるなよ、という言葉もくれるが、それは吹かしすぎである。

 男の僕が化粧をしても美少女になれるわけがない。

 アヒルがどんなに努力しても白鳥になれないように、ペンギンが大空を夢見ても飛べないように、僕がどんなに努力しても美女には慣れないのだ。

 かろうじて暗がりならば女に見えないこともないクリーチャーが出来上がるだろう。

 ある意味、楽しみであるが、それでもヴァイクさんの娘さんの目をごまかせるくらいになればいい。

 そう思いながら目を開けた。
 リルさんが目を開けてもいいと言ったからだ。
 僕は笑いを抑える準備をしながら目を開けたが、その努力は無駄に終わった。

 きょとんした目で鏡に映っている少女を見つめる。
 そこには可愛らしい女の子がいた。
 年の頃は16歳くらいだろうか。
 ニアと同じ年頃だ。
 色素の薄い髪と肌を持っており、とても透明感あふれる少女がそこにいた。

「あ、あの、これは?」

 と鏡の少女を指さすと、少女も同じように指を指してくる。

 その動作を見るまでもなく、その少女が自分であると気がついていたが、それでも認められない僕がいた。

 リルさんは嬉しそうに僕のかつらをとかしながら、

「なかなか可愛いではないか、やはり少年には才能があったのだ。女装のな」

 と、嬉しくないことを言う。

 一方、壁に立てかけていた聖剣もここぞとばかりにはやし立ててくる。

「ごいすー! ごいすー! クロムには冒険者としての才能がある、と思ってたけど、こっち方面も行けたんだね。そっち方面の趣味がある貴族のところにいけば可愛がってくれると思うよ。取り入ってそっち方面からお家再興するのもありかもね」

「……うるさい聖剣と神獣さまだなあ」

 と漏らすが、それでも僕は鏡に映った自分に見とれていた。
 リルさんが言っていたいにしえの物語を思い出す。
 鏡に映った自分に恋をしてしまった神様の物語。
 自分はそれほどナルシストではないが、それでも鏡から目を離せない。
 その理由をリルさんは話す。

「ちょっとだけニアを意識してメイクアップしてやったぞ」

 ……なるほど、だから既視感を覚えたのか。
 納得したが、それと同時にこうも思った。
 麗しのユーフォニア姫が今の僕の姿を見たらどう思うであろうか。
 姉のように男らしくない、と怒るだろうか。
 それとも神獣さまや聖剣と同じようにはやし立てたり茶化してくるだろうか。
 それだけが気になったが、その答えが判明することはないだろう。
 女装をするのは、今、ここだけ。

 名工ヴァイクの娘さんから鎧を作ってもらえれば、二度とこのような真似はしない。

 そんな誓いを立てたが、それでもなんだか胸がドキドキした。
 その動悸を押さえると、リルさんに言った。

「さあ、リルさん、さっさとヴァイクさんのところに行って防具を作ってもらいましょう」

 リルさんはにやにやと僕の姿を眺めながら、こう言った。

「分かったよ、『クロア』」
 と。

 どうやらそれが今の僕の名前らしい。クロムの女性名称である。

 性別を偽るならばその呼称は正しいので、文句は言わないが、彼女は最後にこんな冗談を言う。

「クロア少女よ、やる気満々なのはいいが、淑女はそんな大股開きに歩かないものだ。見た目は完璧だが、細かな所作で正体がばれるかもしれない。以後、気をつけるように」

 そんな注意をしながら、彼女は最後にこう結ぶ。

「もしも女らしく歩けないなら、下着も女物にするからな」

 さすがにそれは最後のプライドまで打ち砕かれるので、つとめて女性らしく歩くことにした。

 といっても女性らしく歩く方法など分からなかったので、リルさんの真似をしただけだが。

 ただ、彼女の闊達な歩き方は女性らしさがなく、教師として不適当、とエクスに言われてしまった。

 ともかく、僕とリルさんはそのままヴァイクの鍛冶屋へ向かった。

『宝くじが当たったのでレベル1から聖剣を買ってみる』

今月2月28日発売予定です。なにとぞ、よろしくお願いいたします。

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