その覚悟、あっぱれ
こうして僕はこの短期間で、ドラゴンと悪魔を倒すという偉業を達成した。
冒険者になったばかりの駆け出しとしては有り得ない戦果だ、と神獣のリルさんはいう。
もっとも、ドラゴンを倒したというのも何十人がかりだし、悪魔もそうだ。
多くの人々の協力、支援の上で倒したに過ぎない。
たまたま僕がとどめを刺しただけで、すべてが自分の実力だと慢心すれば、僕の成長はここで終わり、三流冒険者どまりで終わってしまうのだろう。
姉さんは常日頃から言っていた。
「実るほどに頭を垂れる稲穂かな」
要はレベルと実績を積み上げても慢心せず、初心を忘れるな、ということだ。
それに実際、僕がドラゴンスレイヤーでもデーモンスレイヤーでもないことは、そのステータスに如実に表れている。
クロム・メルビル 16歳 レベル9→レベル11 冒険者 Dランクギルド フェンリルの咆哮所属
筋力 C
体力 C→C+
生命力 C+
敏捷性 C
魔力 D→D+
魔防 D→D+
知力 C
信仰心 D+
総合戦闘力 1480→1853
武器 聖剣エクスカリバー
防具 旅人の服 トリネコの木の円形盾
固有スキル 【なんでも装備可能】
隠しスキル 【英雄の証】
戦闘関連スキル 【剣術C】→【剣術C+】 【火魔法F】→【火魔法E】 【対槍術E】 【対ゴーレムE】 【万能武術F】new 【基礎魔法G】new
武具スキル 【自動回復小】 【成長倍加】 【耐火C】
日常スキル 【日曜大工C】
このようにステータスには、スレイヤーの称号は表示されない。
ただの冒険者のままである。
ただ、数週間前と変化がないといえばそれは違う。
各種ステータスはほんのりと上がっていたし、新しいスキルも得た。
まずは火魔法のスキルがFからEになっている。
これはカチュアに懇切丁寧に魔術を教わったたまものだ。
火魔法に関する魔術書ももらい、暇があれば読むようにしている。
今では《火球》魔法くらい放てるようになった。
それと【万能武術F】【基礎魔法G】というスキルも新しいものだ。
万能武術はあらゆる武器が使いこなせるようになるすごいスキル。
これもカチュアの《武器創造》魔法で槍や金槌を作り出してもらったおかげだろう。
【なんでも装備可能】との相性は素晴らしく、今後、育てていきたいスキルのひとつだ。
【基礎魔法G】、これは魔法の万能武術版。これさえあれば各系統の魔術を一通りこなせるようになるらしい。
器用貧乏といえば器用貧乏だが、僕の場合、どの魔術が得意なのか定まっていないので、このスキルを伸ばした方が有意義であるとカチュアは語っていた。
魔法に関しては素人なので、素直にその指導に従っている。
さて、このように着実にレベルが上がり、成長も遂げた僕であるが、ステータス表記にあるとある文字に気がついた人はいるだろうか。
僕は見逃さなかった。
いつの間にかフェンリル・ギルドのランクがDになっていたのである。
リルさんはなにも言わないから、ステータスを見て初めて気がついた。
いったい、なにがあったのだろうか。
リルさんに事情を聞くため、それとお祝いの言葉を述べるため、執務室にいるだろうリルさんのもとに向かった。
リルさんは執務室の机に顔を伏せ、昼寝をしていた。
だらーん、と彼女の銀髪が机に広がっている。
本当によく眠る人だ。
「寝る子は育つって迷信だよね、リルさんはちっこいし、それにおっぱいもちっぱい」
失礼なことを言う聖剣。
幸いと聖剣の言葉は僕にしか届かないが、リルさんはむくりと起き上がると、
「今、とても失礼なことをいわれた気がする」
と、つぶやく。
さすがは神獣様、地獄耳である。
「……気のせいですよ」
エクスをかばうためにそう言うと本題に入ることにした。
「リルさん、おめでとうございます!」
元気よく言う。
「おめでとう? ……ああ、ギルドランク昇格の件か」
気のない返事のリルさん。
「あまり嬉しそうじゃないですね」
「嬉しくないわけじゃないが、Dランクなど、通過点に過ぎない。早くAランクに復帰して、このギルド、【フェンリルの咆哮】の名を迷宮都市中に響かせたい」
「がんばりましょう。近いうちに実現できますよ」
と言うが、自分でも大言壮語かな、と思った。
しかし、リルさんはやる気満々だ。
「今回も姫様の差配でDランクに推挙してもらったからな。次からは実力のみで評議会と協会をぎゃふんと言わせてやる。このギルドをFランクに落としたやつらに目にもの見せてくれるぞ」
「そのいきです」
と、応援すると、リルさんは問うてきた。
「それにしても少年、やけに嬉しそうだな」
「そりゃそうですよ。リルさんにとっては通過点でも、僕にとってはスタートラインみたいなものですから」
「どういう意味だ」
「前に話したでしょう。僕は田舎の姉さんに育てられたって。その姉さんは超厳しくて、僕がEランク以下のギルドにいるなんて知ったら、田舎からすっ飛んできて、一緒に切腹させられます」
「それは冗談か比喩なのだろう」
まさか、と僕は首を横に振り、服をめくる。
そこには短刀の傷跡があった。
「…………」
思わず沈黙するリルさん。
「これは僕が修業を投げ出して家出したときの傷です。もしもあのとき、祖父がとめてくれなければ、僕は今、この場に立っていなかったでしょう」
ちなみに姉さんのお腹にも似たような傷があります、と言う。
「……恐ろしい姉上だな」
ぼそりとつぶやくリルさん。しかし、と続ける。
「しかし、これで姉上の求めるスタートラインに立てたわけだ。姉上に近況でも知らせたらどうかね」
「それはいいですね。そう言えば手紙から現状が発覚するのを恐れてしばし筆を執っていませんでした。いい加減、手紙を送らないと姉が田舎からやってくるかも」
「それはそれでいいではないか。一度、姉上とお話したい」
「まあ、それも悪くないんですが……」
言葉を濁す。
姉の強烈なキャラクターや思い込みの激しいところはあまり知られたくないというか、紹介しにくい。
それに迷宮都市にやってきてから一年も経っていないのに、姉を呼び寄せるとはいかにもシスコンぽくて嫌だった。
「え? クロムってシスコンじゃないの?」
腰の聖剣は皮肉を言うが、例えシスコンでもシスコンにはシスコンの意地があるのだ。
せめてもう少し立派になってから姉と再会したかった。
その意志をリルさんに伝えると、彼女は大きくうなずきながら言った。
「その覚悟、あっぱれである!」
と――。




