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デーモンスレーヤー

 僕がディアブロを足止めしていると、その間にニアたちが現れる。

 彼女たちの姿を視界に収めた瞬間、安堵の吐息をする。

 その理由をエクスが茶化す。


「最初からフルスロットルだったもんね。この調子じゃ、あと5分で息切れしていたかも」


「かも、じゃなく、していたよ。後先考えずに打ち込んだからね。……はあ、はあ」


 事実、僕は肩で息をしていた。

 全身が肺になった気分だ。


「奥の手の剣閃もすでに2発打ってしまった。体力の配分も考えてないし」


「だから僕みたいなのでも悪魔と互角に戦えたんだよ」


 エクスに返答すると、それを盗み聞いていた悪魔は嘲笑を漏らす。


「ゴカクだと? ワラわせる」


 多重に響き渡る野太い声だった。

 僕は驚く、その声質にではなく、悪魔に知性があり、人間の言葉を解すことを。


「ゴカクなどとはフソンな。ワレ、もっともザンニンにしてキョウジンな悪魔ディアブロだ。コワッパごときとゴカクなわけがなかろう!」


 悪魔はそう叫ぶと、手から魔法を放つ。

 無詠唱で放たれたその魔法は《衝撃》の魔法であった。

 低級な魔法だが、強力な使い手が使えば、十分な殺傷力を秘める。


 事実、もしもその一撃をまともに食らっていれば、僕の内蔵は破裂し、死んでいたかもしれない。


 咄嗟、ほんのコンマ数秒の差で悪魔の衝撃魔法を聖剣の腹で受ける。


 衝撃の大半はエクスに吸収されたが、それでも僕は10メートル近く吹き飛ばされる。


 受け身を取ると、悪魔の第二撃に備えたが、それは無用の準備に終わった。

 増援に駆けつけたニアたちが間に入ってくれたからだ。

 悪魔のかぎ爪はクライドの槍が押さえていた。

 悪魔の身体にはニアの矢が数本刺さっていた。

 魔術師の魔法が炸裂し、僧侶の神聖魔法が悪魔を苦しめていた。

 ただ、それでもディアブロは倒れる様子はない。


 ダメージは着実に与えられている。肉は焦げ、傷は開き、絶え間なくどす黒い血を流していたが、すぐに傷口は癒え、皮膚が再生される。


 その姿を見てニアはつぶやく。


「く、これが太古の悪魔の再生能力」


 てごわい、と続ける。


 賢者エイブラムからディアブロの再生能力を聞かされていたが、まさかこのように強力だとは。


 聞くと戦うでは大違いであった。

 ただ――、

 実際よりも強力であっても、こちらには奥の手がある。

 僕はカチュアの方へ振り向くと、こう言った。


「カチュア、その眼鏡でやつの弱点を探してくれ!」


 その言葉をきたカチュアはこくりとうなずくと、眼鏡をかけ直し、悪魔を注視する。


 5秒ほどだろうか。

 それほど長い時間は掛からなかった。

 彼女は魔術師で眼鏡の使い方を心得ていたのだろう。

 すぐに弱点を発見すると、それを口にする。


「やつの弱点は右のすねよ。そこに刺突武器で攻撃すれば一撃で倒せるはず」


「すねか」


 命中範囲が狭く、普段は狙わないような箇所だ。厄介ではあるが、それでも弱点が露見した瞬間、明らかにこちらの士気は上がった。


クライドは、

「うおおおお!」

 と叫び、その豪槍ですねを狙う。


 ニアも不敵に微笑み、矢を足下に放ち始めた。


 一方、悪魔の方も自分の弱点が露見したことに気がつき始め、右足を晒さないように注意を始めた。


 こうなってくると、人間と悪魔の知恵比べ、我慢比べである。


 人間たちは一撃を加えるため、あの手この手で攻撃を加え、悪魔はそれをさえぎる。


 状況不利とみて撤退しないのは、悪魔が誇り高いためか、それともまだ余裕があるためか。


 それは分からないが、ともかく、弱点が分かった今、この場で処理したい相手だった。


「ならどうしてクロムは参戦しないのさ」


 聖剣はそう尋ねてくるが、僕にも事情はある。


「というか、エクスは斬属性の武器で刺すのは苦手だろう」


「そうだけど、一応、先も尖っているからいけるよ」


「まあ、そうだけど、僕も疲れている。決めるなら一撃で決めたい」


「なるほど」


「それで相談なのだけど、君が放っている剣閃、あれを斬属性から、刺突属性に変えることはできる?」


「できるよ。もちろん、使い手の技量次第だけど」


「じゃあ、僕がやるしかないわけか」


「剣閃でとどめを刺す気だね」


「僕の使える技で最強の一撃だからね」


「それはそうだけど、問題はどうやって当てるか、だね」


「たしかに。悪魔の動きは素早い」


 さすがに悪魔ディアブロは人型だけあり素早い。


 竜のように巨大ならばどこに撃っても命中するが、目の前の悪魔を竜と同類と見なすのは危険だろう。


「ならば隙を突いて当てるしかないか」


 そうするしかないのだが、なかなか隙は訪れない。


 クライドとニアが間断なく攻撃しているが、それでも悪魔は不死身のような頑健さでよろめきさえしなかった。


 ただ、あと一撃、どこか急所に当たればなんとかなる、そこまでは追い詰められるのだが、そのあとの一撃が出ない。


 この場にいる刺突武器の所有者がふたりしかいないことが今さらながらに悔やまれる。


 悔やまれるが、悔やんだところで改善されるわけではなかった。

 口を真一文字に結ぶが、そんな僕にささやきかけるものがいた。



「そんなことはないぞ、少年。辛いときは嘆いてもいい。困ったときは助けを求めてもいい」



 聞き慣れぬ声であった。

 男の声だ。

 柔和で柔らかい声質で、聞いているだけで心が安らぐような声だった。

 その声の主はこう言った。


「君は娘のために尽力してくれた。おれのような馬鹿者のためにこんな深い階層までやってきてくれた。その恩は今返す」


 彼がそう言うと、次いで弓を絞るような音が聞こえてきた。


 ぎゅう、と弓弦を絞る音。そしてそれが解き放たれる音がこだますると、僕の目の前の時空が割れ、その中から突如、矢が現れた。


 その矢はまっすぐに悪魔のもとへ飛び、悪魔の右目に突き刺さる。


「ギャア」


 という叫び声が聞こえる。

 悪魔は右目に刺さった矢を取り去ろうとするが、それが命取りとなった。

 僅かな隙も見逃さないと集中していた僕が、その隙を見逃すわけがなかった。

 とどめを刺すため、剣に力を込める。



「剣閃!」

 


 僕はそう叫ぶと、聖剣から力を解放した。


 刺突属性となった剣の閃きは、まっすぐに悪魔のもとへ飛び、悪魔の右足に突き刺さる。


 そのまま悪魔の右足をえぐり刺すと、青白いエネルギーは消え去った。

 致命傷ではない。


 人間ならば行動不能になる程度の威力であった。しかし、右のすねが弱点の悪魔にとってはそれが命取りとなる。


 悪魔はこの世のものとは思えない叫び声、いや、咆哮を上げる。

 内蔵が震えるほどの雄叫びは一分近く続いたが、それが最後の抵抗となった。

 ディアブロはやがて叫び声をやめ、塵芥(ちりあくた)となっていく。

 原子に分解され、消えていく悪魔。

 その光景は奇妙なほど綺麗だった。

 こうして僕たちは古代の悪魔ディアブロを倒すことに成功した。

 それぞれに喜びを分かち合う。


「すごいです。クロムさん、あなたはドラゴンに続き悪魔を倒した英雄です」


「まさかドラゴンスレイヤーだけでなく、デーモンスレイヤーにもなるとは、少年、貴様はいったい、どこまで強くなっていくのだ?」


 僕はしばしニアたちから称賛を受け取ると、彼らの健闘を称えた。


「これもニアたちが悪魔を引き留めてくれたおかげだよ。――それにこれはカチュアのお父さんのおかげでもある」


 その言葉を聞いたニアは不思議そうな表情を浮かべたが、深く尋ねてくるようなことはなかった。


 僕は歓談を終えると、そのまま、まっすぐにカチュアのもとに向かった。

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