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集う仲間

 大梟ギルドに集まり、対応を協議する。


 カチュアのことはひとまずおき、迷宮に現れた悪魔をどうやって倒すか協議することにしたのだ。


「評議会に報告して増援を依頼する、という手段は使えなくなったことを明記しておこう」


 と、議長であるリルさんは言った。

 なぜに?


 とはエイブラムは言わなかった。事情は把握していたし、彼もまたことを大事にするのは反対なのだろう。


 ただし、と付け加える。


「ディアブロは、前日現れた火竜にも劣らない化け物、それ相応の戦力がなければ倒せない、と専門家として主張させてもらおうか」


「それについては全面的に信じる。信じるので増援を頼むことにする」


 と、リルさんはさらさらと手紙を書き始めた。


 先日、一緒に戦ってくれた【蒼角のユニコーン】と【セイレーンの歌姫】のギルドマスターに救援を依頼するのだ。


 もっとも冒険者協会を通さない非公式の依頼、彼らがやってきてくれるかは、リルさんの人徳に掛かっていた。


 数刻後――、

 彼らはやってきてくれた。

 全員ではないが、それでも精鋭たちをかき集め、やってきてくれた。

 ユニコーン・ギルドの代表者である双剣使いのジュカは言う。


「我が主はリルさんには返せない恩義があるそうです。これで10分の1ほどは返せるかも、とおっしゃっていました」


 リルさんの顔を見る。


 どんな恩義をユニコーンギルドの長に貸し付けたのかは知らないが、さすがである。


 尊敬度がほんのり上がった。

 一方、セイレーン・ギルドの代表である。

 リリカという女戦士は無表情にこう言った。


「今、ここでフェンリル・ギルドに潰れられたら、貸し付けていた債権を回収できない、と我が主は言っていた」


 リルさんの顔を見る。

 いったい、この人はどれくらい借金をしているのだろうか、呆れた。


 今回の一件も私費で冒険者を雇うので、またフェンリル・ギルドは債務超過に陥るかもしれない。


 しばらく一日一食の生活が続くかな。

 憂鬱になったが、それはニアが解消してくれた。


「ご安心ください、クロムさん、リル様、今回のディアブロ討伐費は、わたくしがすべてまかないます。フェンリルのみなさんはもちろん、ユニコーンやセイレーンのみなさんも、思う存分、働いてください」


 それを聞いて冒険者たちは喜ぶが、それ以上に喜んだのはカレンかもしれない。

 フェンリル・ギルドの家計を預かるのは彼女である。

 これ以上の借金はまずいと一番肌で感じているのは彼女であった。

 我が家の財務大臣が一息つくと、女戦士のリリカが挙手をする。


「質問。ディアブロなる悪魔は、どの階層におり、どの程度の強さなのだ?」


 的を射ている上に的確な質問だ。


 そういえば僕もそれを知らなかった。真っ先に確認すべき事項なのに聞き忘れていた。


 答えを口にしたのは大賢者エイブラムだった。

 彼は言う。


「悪魔ディアブロ。その姿は変幻自在。貴殿らが想像するような悪魔の姿をしているとは限らない。最初にそう忠告しておく」


 まず、姿に惑わされないよう注意勧告されると、悪魔の生息範囲に言及された。


「やつは第四階層に封印されていたが、その階層に留まっているわけではないと思う。ただ、まだ力が完全に解放されていない。封印の地からそんなに離れてはいない、と予測はできる」


 そうじゃの、と続ける。


「第二階層~第八階層のあたりをうろついていると推察される」


 ニアは間髪いれずに報告する。


「本日、1~2階層の間で死亡事故の報告はありません。浅い階層は除外してもいいかもしれません」


「ならば3~8かな」


 ジュカは言う。


「わたくしが仕入れた情報に寄りますと、帰還予定になっても帰ってこない冒険者は、第六階層に一組、第八階層に二組います」


「第九は異常なしと?」


 こくりとうなずくニア。


「ならば第八が怪しいな」


「第八……」


 ぼつりと言葉を漏らしてしまう。


 第八階層にはおそらく、カチュアがいる。彼女の父親がいる緊縛の森があるエリアだからだ。


 これは偶然なのだろうか? そう言った視線をエイブラムに向ける。

 エイブラムは、僕にだけ聞こえるように、《念話》の魔法を唱える。


(偶然ではないだろうな。悪魔ディアブロの弱点は『霊視の眼鏡』でしか見えぬという。その眼鏡の所有者が第八階層にいる。悪魔はその眼鏡の存在を感知できると見た方がいいだろう)


(ならばカチュアが狙われている可能性があるわけですね)


(そうなるな)


(ならば彼女を助けないと)


(こちらもそうしたい。情ではなく、利として)


(利?)


(ディアブロの弱点を探るには霊視の眼鏡がいる。今、迷宮都市中に当たっているが、なかなか手に入りそうにない。ならば確実に持っている娘から借り受けた方が早いだろう)


(となると、まずはカチュアを救い出してから、その後、ディアブロと対峙すると?)


(そうなる)


 その言葉を聞いた僕はほっと胸をなで下ろす。

 その表情を見たわけではないだろうが、エイブラムは間髪いれずにこう言った。


「リリカくんの質問にあった悪魔ディアブロの戦力であるが、古代魔物事典によれば火竜三匹分とある」


 その言葉を聞きざわめきが起こる。


 ここにいる冒険者たちは前日、火竜と戦った猛者ばかり、その実力は一番よく知っていた。


「だが、安心せよ。蘇ったばかりのやつにそのような力はない。また、ディアブロには弱点がある」


「弱点ですか?」


 ジュカは尋ねる。


「弱点だ。ディアブロは強力な再生能力を持っているが、とある一点を突けば、一撃で倒せる。それこそ幼児の腕力でも」


「なるほど、してその場所とは?」


「その場所は、毎日、いや、毎時間変わる。ゆえに全身をくまなく突き刺すか、とあるアイテムでその弱点を看破するしかない。そのアイテムは、丁度、迷宮の第八階層にあるはず」


「丁度いいというか、できすぎですな」


 と、ジュカたちは笑うが、事情を知っているものはそれに追従しなかった。

 挙手をし、提案する。


「提案があります、みなさん」


 一同の視線が僕に集まる。


 僕のような若輩が提案をするのは珍しいのだろう。しかし、彼らは真面目に僕の話を聞いてくれた。


「その眼鏡を持っているのは僕の友人です。僕が説得すればその眼鏡を借りることも可能でしょう」


「ならば部隊をふたつに分けるか? ひとつはクロムを中心とした霊視の眼鏡捜索隊、もうひとつは悪魔ディアブロを捜索する隊。このまま悪魔ディアブロを野放しにすれば被害が増えるし、見つけ出すことに成功すれば、いつでも襲撃できる」


 女戦士リリカの提案である。

 誰も拒否しなかった。

 ふたつのことを同時にやった方が、効率的である。

 ただし、とエイブラムは付け加える。


「ディアブロ捜索隊はあくまで捜索のみにとどめる。悪魔を見つけても本格的な戦闘には入らないように。クロムたちが霊視の眼鏡を手に入れるまで無駄な死人は出したくない」


 冒険者たちも同意する。


 ディアブロに負けるつもりなどさらさらない。冒険者たちは意気込むが、彼らは熟練の勇者たちで、勇気と無謀をはき違えることはなかった。


 また荒野の大賢者エイブラムのことも尊敬しており、彼の献策を無視するような愚かものもいなかった。


 こうしておおむねの方針は決まった。

 僕を中心とするカチュア捜索隊とディアブロ捜索隊が組織された。


 僕のチームには、ニア、クライド、その他の人物が編成され、ディアブロ捜索隊には双剣使いのジュカや女戦士リリカが編成された。


 戦力はややディアブロの方へ傾ける。

 悪魔と交戦する可能性がある方に戦力を傾けるのは当然であった。


 僕たちはなるべく早く霊視の眼鏡を手に入れ、彼らと合流するようにつとめるつもりだった。

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