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スケルトンの洗礼

 女魔術師カチュアの依頼の詳細を話す。


「詳細と言っても依頼書に書いてあるとおりなのだけど」


「迷宮第四回層に眠る古代魔法文明の遺物(アーティファクト)、『霊視の眼鏡』を探してくればいいんですよね?」


「基本はそうね。ちなみに君ひとりに行かすなんて薄情な真似はしないから。このあたしも一緒に行くわよ」


 と、彼女はかたわらに立てかけてあった樫の木の杖をかざす。


「最初に言ったけど、あたしは魔術師。冒険はしないけど、正直、そこらの冒険者なんて目じゃないわよ」


 と、自分のステータスを晒す。

  


カチュア ??歳 レベル10 魔術師 


筋力 F+

体力 E+

生命力 D

敏捷性 D

魔力 C+

魔防 C+

知力 B

信仰心 C

総合戦闘力 892


武器 樫の木の杖

防具 魔術師のローブ とんがり帽子



「おお、すごい」


 と、素直に賞賛する。


 レベルは僕とほぼ同等だけど、装備がかなりしょぼいということを考慮すれば、素の戦闘力はそんなに変わらないかも知れない。


 彼女はあまり冒険するタイプではなく、この前まで魔術師ギルドに籠もっていたというから、そう言った点も将来性を感じさせる。


 もしも冒険を重ねれば、総合戦闘力はどんどん伸びていくだろう。

 僕は一応、フェンリルのギルドメンバーとして、冒険に興味がないか尋ねた。

 カチュアは答える。


「そうね、ないと言ったら嘘になるわね。もしも冒険に興味がないなら、同行なんてしないもの」


 それに、と彼女は続ける。


「あたしが霊視の眼鏡を欲するのは目的ではあるけど、単に通過点でしかないの。その眼鏡を使って確かめたいことがあるのよ」


「確かめたいこと?」


「それはもっと好感度を上げてから尋ねてきなさい。例えば恋人同士(ステディ)な関係になるとか」


「はあ……」


「なにをそんなに顔を真っ赤にしているの。冗談よ、冗談」


「それは分かっています。僕の回りにはカチュアさんみたいなタイプが多いので免疫はあります」


「免疫はあるけど、抗体はなさそうね。顔が真っ赤よ」


「リルさんも同じ台詞を言いそう……」


「あら、そうなの。ならば気が合うかも」


「でしょうね」


 リルさんと共闘して僕をからかってくるカチュアの姿が浮かぶ。


 あまりよろしくない未来だが、彼女を冒険者ギルドに誘うかは今後の課題だろう。まずは彼女がフェンリル・ギルドに入りたいかそれが問題である。


 僕は彼女がフェンリルギルドにきてくれるように今回の依頼で大車輪の活躍を見せるつもりだった。


 フェンリルの冒険者のすごさを見せつけてアピールするのだ。


「さて、それではカチュアさん。当ギルドはカチュアさんの依頼を受け入れることにしました。これからギルドに帰り、荷物を持ってきます。それと通行許可証も」


 その言葉を聞いてカチュアは目を輝かせるが、すぐに何かに気がついたようだ。


「ねえ、もしかして、一緒にダンジョンに潜るのってあなたなの?」


「……僕ですよ」


 と答えるが、彼女は「ふうん」と微妙な表情をした。

 どうやら頼りなく見えるらしい。

 まあ、気持ちは分からなくない。


 腰に聖剣をぶら下げてはいるが、魔術師の彼女にはただのロングソードにしか見えない。


 リルさんたちが買ってくれたトリネコの木の円形盾も玄人が見ればその素晴らしさに気がつくが、知らない人がみれば鍋のふたに見えなくもない。


 一張羅の旅人の服は言わずもがな。

 僕は依頼人であるカチュアを安心させるため、ステータスを開く。



クロム・メルビル 16歳 レベル9 冒険者 Eランクギルド フェンリルの咆哮所属


筋力 C

体力 C

生命力 C+

敏捷性 C

魔力 D

魔防 D

知力 C

信仰心 D→D+

総合戦闘力 1411→1480


武器 聖剣エクスカリバー

防具 旅人の服 トリネコの木の円形盾


固有スキル 【なんでも装備可能】

隠しスキル 【英雄の証】

戦闘関連スキル 【剣術C】 【火魔法F】 【対槍術E】【対ゴーレムE】

武具スキル 【自動回復小】 【成長倍加】 【耐火C】

日常スキル 【日曜大工C】



 あらためてみるとなかなかに成長している。

 戦闘力も1480ともう冒険者の卵ではなく、新米冒険者の称号を得てもいいくらいだ。


 自画自賛していると、僕のステータスに見入っていたカチュアがこんなことを言ってくる。


「たしかにステータスは立派なものだわ。でもそれが実践で役立つかは別。少しだけ試してもいい?」


 いいですよ、と言うと、彼女は会計を済ませ、店の外に出た。

 どんどん人気のない場所まで行くと、地面になにかを書き始める。


「それは?」


「これは人払いの結界魔法。これを地面に書けば、周囲の人間はしばらくこの裏道の存在を忘れる」


「便利な魔法ですね」


「そうね、借金取りに追われているときとか、ちょっと頼りないボーイフレンドの実力を見るときとかには重宝するわ」


 よっと、と魔方陣を書き終えると彼女は、懐から骨を取り出す。

 なにかの生き物の大腿骨に見えた。

 たぶん、ほ乳類だと思うけど。

 人間のそれではないことを祈る。

 そう見つめていると、カチュアは軽く笑った。


死霊魔術師(ネクロマンサー)は人間の骨も合法的に持ち出せるけど、これは動物の骨よ。それも犬の骨」


「カチュアさんって死霊魔術師なんですか?」


「まさか、そんな陰気くさい格好に見える?」


 彼女はローブの裾を持ち上げ、くるりと回る。

 ふわりとローブのスカート部分が舞う。まるで森の妖精のようだった。


「見えませんね。エルフの精霊使いのようだ」


「それ半分正解」


 と微笑むカチュア。

 彼女は帽子を取ると、大きな耳を見せてくれる。

 なんとカチュアさんはエルフだったのだ。僕は驚く。


「エルフの魔術師は珍しいでしょう? エルフは大抵、弓使いか精霊魔法使いになるから」


 でも、と続ける。


「中には魔術を極めんとがんばっている女の子もいるのよ」


 彼女はそう説明すると、


「あたしは何年も修業を重ね、魔術師になったわ。エルフにとっては禁忌の炎魔法も使える。それに死霊魔術もかじったわ。要はオールラウンダーってことね」


 と、拳を握りしめ、言い切った。


「それはすごいですね」


 素直に賞賛する。できれば彼女の弟子になって、【火魔法F】のスキルを向上させ、《火球》の魔法くらい使えるようになりたいが、それは今後の課題。


 今は彼女が手にしている骨の方が気になる。


「それにしても犬の骨にしてはでかすぎませんか?」


「そうね、これは大型犬だから」


 彼女はそう言うと、その骨になにか液体をかける。

 そして聞き慣れない呪文を詠唱するとその骨が光り輝き始める。


 紫色の魔力を帯びたそれは、不足していた他の骨を増殖させると、やがて骨格を形作った。


 スケルトン・ウォーリアーならぬ、スケルトン・ドッグといったところだろうか。

 骨犬はかくかくと震えながらこちらを睨み付ける。

 くぼんだ瞳からは、魔力の力とたしかな殺意を感じた。

 それについて横にいるエルフの魔女に尋ねると、彼女はすました顔で言った。


「依頼先の実力を計るのに、手加減してどうするの?」


 道理であり、説得力もあったが、試される方は貯まったものではなかった。

 腰の聖剣に言う。


「僕は動物好きなんだよね。特に犬は大好きなんだ」


「ならば黙ってかまれる?」


「それは遠慮したい」


「ならぶった切りモードで行くよ。こっっちも手加減なしだ!」


「そうしよう」


 腹をくくると僕はエクスのつかを握りしめた。

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