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魔術師は珈琲がお嫌い

 依頼人との待ち合わせ場所は、ギルドの近くにあるカフェであった。


 王都の目抜き通りのあるような立派でおしゃれなカフェではないが、それでも田舎者である僕には華美でお洒落に見える。


 実際、綺麗にめかし込んだ貴族や商人もお茶と会話を楽しんでおり、サロンめいた雰囲気を醸し出している。


 その窓際の席、大きな帽子をかぶり、アンニュイに香草茶を飲んでいるのが依頼主である、とリルさんから聞いていたが。


 僕は店内に入ると、依頼人を探した。

 幸いと依頼人はすぐに見つかった。

 ひときわ大きな帽子をかぶっていたからである。


「あれって魔女帽子だよね?」


 とは腰の聖剣の言葉である。


 窓際の席に座っている女性――、依頼人かと思われる女性は、大きなつばひろのとんがり帽子をかぶっていた。


 ただし、彼女は魔女ではない。

 鼻は尖っていなかったし、意地の悪い老婆でもない。

 妙齢の綺麗な女性だった。

 もっとも、魔女が老婆の姿をしているとは、おとぎ話による刷り込みらしいが。

 そんなことを思っていると、依頼人と思わしき女性が話しかけてきた。

 流麗で綺麗な声の女性だった。

 ほのかに森の香りも漂ってくる。

 美人というのは声も香りもいいものなのだな、と月並みの感想を抱いた。


「あなたがフェンリル・ギルドの人?」


「そうです。フェンリル・ギルドの冒険者です」


「若いわね」


「この前、成人の儀を済ませたばかりです」


「なるほどね、つまり固有スキルは持っているというわけね」


「はい、一応」


「どんなスキルか聞いていい?」


「かまいませんよ」


 と、ふたつ返事。

 通常、この世界の人間、特に戦いに身を置く人間は、自分のスキルを隠す。

 特にひとりひとりに割り振られた固有スキルはなかなか明かさない。

 なぜならば、固有スキルを知られる=そのものの能力を把握されるからだ。

 自分の手の内を知られるということは、それだけ危険がともなう。

 だが、それは普通の冒険者であって、僕は違った。

 結構、誰彼かまわず話してしまう。

 僕の固有スキルは珍しくはあったが、特別凄いわけでもない。

 また隠しておいたからといって土壇場で役に立つものでもない。


 そもそも腰に分不相応な聖剣をぶら下げてる時点で、半分ばれているようなものである。


 なので正直に彼女に話す。

 案の定、僕の固有スキルを聞いた彼女の反応は、ごく普通のものであった。


「へえー、珍しいけど微妙なスキルね」


「自分でもそう思います」


「だけど、使い方によっては役に立つわね」


「といいますと?」


「例えば甲冑を身にまとった騎士と戦うとき、打撃武器を用意すれば有利に戦える。あるいは刺突武器しか効かないようなモンスターと戦うときにも役に立つわ」


「そうですね。問題なのはそんな状況下に置かれたとき、とっさに用意できるかですが」


「君ってひょろそうだものね、ふふふ」


 軽く口元を手で押さえる依頼人。

 悪意はないし、事実なので傷つかない。

 重い武器を持ち運ぶには、筋力と体力ステータスが高くなくてはならない。

 あるいは従卒を雇って荷物持ちをさせるという手もあるが、それは不可能だ。

 なぜならばそんな金銭的な余裕はない。


 自分と食いしん坊の神獣さまの食い扶持を稼ぐだけで精一杯なのが、現状であった。


 僕は生活費を稼ぐため、依頼人の話を聞くことにする。


「ひょろそうに見えますが、役に立って見せますよ」


 依頼人を安心させるためにそう言うと、依頼人の対面の席に着いた。

 すると給仕の女の子がやってくる。

 メイド服を着ていたので一瞬ぎょっとする。


「こ、こんなところにカレンが?」


 と思ってしまったが、どうやらこの店の制服はメイド服らしい。

 カレンのとは違ったタイプのメイド服だったが、なかなかに可愛らしかった。

 僕はこの店の名物がなにか尋ねる。

 香草茶がオススメです、と言われたので、僕もそれを注文する。

 それを見ていた依頼主は軽く頬を緩ませる。


「よかった。君が香草茶を頼んでくれて」


「といいますと?」


「あたし、コーヒーが大嫌いなの。君はコーヒー好き?」


 好きと言えば好きだが、ここはお茶を濁しておくに限るだろう。


「僕もあまり好きではないですね」


 と言うと、彼女はにこりと笑う。


「よろしい。コーヒー好きなら依頼を断ろうかと思ってたの」


 それほどのことなのか。よかった、日和(ひよ)って。


「そもそも、コーヒーなんて泥水みたいな飲み物は野蛮人とドワーフだけが飲んでいればいいのよ。文明人は香草茶か紅茶が基本ね」


「肝に銘じておきます」


 メイドが持ってきたかぐわしい香草茶に口を付ける。

 確かに文明の香りがしたような気がした。

 軽く紅茶で喉を潤すと、目の前の女性は自己紹介を始めた。


「初めまして、あたしの名前は魔術師カチュア」


「綺麗な名前ですね」


「ありがとう」


「僕の名前はクロムです。よろしくお願いします」


「君も素敵な名前ね」


「そんなことを言われたのは初めてです」


「そう? 格好いい名前だと思うけどね。でも、やっぱりちょっと軟弱かな。冒険者ぽくない」


 それは一応、実家が騎士階級だからだが、まあ、話す必要はないだろう。

 生い立ちから話せば長くなる。

 彼女も僕の生い立ちなど知りたくはないだろうし。


 僕は手を差し出し、彼女と握手をすると、さっそく依頼内容の詳細について尋ねた。


 彼女もまた自分の生い立ちなどは語ることなく、詳細を語り始めた。

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