泥人形討伐
僕とゴーレムの勝負の決着がついたのは、決闘開始から30分後だった。
見事、ゴーレムの背中の文字を消すことに成功した。
僕はゴーレムの攻撃のパターンを読むと、ゴーレムを壁際に誘い、ゴーレムの拳を寸前で避けた。
壁に突き刺さるゴーレムの拳。
その隙を見計らって背中に回り込むと、聖剣の一撃を加えた。
聖剣の一撃を加えた瞬間、青白い火花が飛び散る。
魔法武器同士がつばぜり合いを行なったときによく見られる光景だった。
どうやらゴーレムの背中は魔法によって守られていたらしい。
本来ならば僕程度のレベルの冒険者がその防壁を突破することなど、不可能らしいが、それを可能にしたのが聖剣エクスカリバーだった。
彼女はエイブラムの付与した防御結界をなんなく破壊すると、そのまま泥人形の背中を切り裂いた。
「一刀両断にできなかったのはクロムのステータスが低いからだよ」
とのことだが、それでもその一撃はゴーレムの背中の一部を引き裂くに十分だった。
僕は狙いすましたかのように特定の文字を削り取った。
文字が吹っ飛んだ瞬間、光り輝いていた魔法文字は消え、ゴーレムも活動を停止する。
ゴーレムは動く人形から死んだ人形となる。
その瞬間、賢者エイブラムは言った。
「勝者クロム!」
と――。
その声を聞いた瞬間、歓声が上がる。
決闘を見守っていたニア、ルミナス、エイブラムの弟子たちの声だった。
ニアは、
「すごいです、さすがクロムさん」
と褒め称え。
ルミナスは、
「やはりクロムさんは頭脳派ですね、見事な倒し方です」
と賞賛してくれた。
エイブラムの弟子たちも、
「師の作ったゴーレムを倒すとは、この少年、なにものだ?」
「深紅のゴーレムが倒れるところなど見たことがない」
「あの聖剣の力はすさまじい。……しかし、それを使いこなす少年はいったい、どんな訓練を受けてきたんだ」
と、驚愕の声を上げていた。
あるいはこの場で一番冷静なのはエイブラムなのかも知れない。
彼は理知的な声で言った。
「見事じゃ、少年。その機転、さすがは火竜を殺しただけはある。そしてその聖剣の力を引き出す力も素晴らしい」
素直に賞賛を受け取りたかったが、事情を話す。
「そんなことはないですよ。これはすべて僕の固有スキルのおかげです」
「ほう、件の【なんでも装備可能】のことか」
「はい、本来なら装備できないSランクの聖剣も装備できる。これが僕の強さの秘訣です。もしもこの聖剣がなかったら、僕は一角兎にも苦戦します」
「武器も含めてそのものの強さだと思うがの。それにその固有スキルはおぬし固有のもの。つまりおぬしの強さの源泉じゃ」
「……そうですね。そうかもしれません」
たしかにこの固有スキルを神殿の巫女にもらったときは、がっかりしたものだが、今ではこの固有スキルは最強のスキルではないのか、そんな思いもあった。
貧乏人の僕には役に立たないスキルだと思い込んでいたが、宝くじが僕の運命を変えてくれたのだ。
最強の聖剣エクスカリバーとの出逢いは、決して偶然ではなく、必然だったのかも知れない。
最近、そう思うようになっていた。
物思いにふけているとエクスが話しかけてくる。
「えへへ、やっとクロムも運命論者になったんだね。そう、ボクとクロムの出逢いは運命だったんだよ」
「人の心を読むなよ」
「読んだんじゃないの、感じただけ」
「恋人みたいなことをいうな」
「恋人以上の存在だよ、ボクたちは」
だって、と彼女は続ける。
「今も30分に渡って生死を一緒にしたんだよ。クロムはずっとボクのつかを握りしめて離さなかった。汗をにじませながら絡み合ったんだ。クロムは30分以上、女の子と手をつないだことはある?」
「……あるよ」
「どうせお姉さんでしょ」
正解である。しかし、馬鹿正直に応える必要はないだろう。
「ボクたちは寝るときも一緒、ご飯を食べるときも一緒、お風呂だってボクが盗まれないように近くに置いているでしょう」
「トイレも一緒だね」
「デリカシーないことは言わないの」
エクスは続ける。
「ともかく、そんなの恋人でもあり得ない関係じゃん。つまり、ボクたちは魂で結ばれたソウルメイトなんだよ。ずっともだょ、ってやつ」
「ずっとも?」
「ずっと一緒の友達。家族よりも恋人よりも大切な存在のこと」
「大切な存在か。まあ、たしかにそうかも。僕は君を手放したくない」
正直に告白したが、エクスは茶化してくる。
「今の言葉、もう一度言ってくれる? 魔法で記録して、既成事実にするから」
いやだよ、と言うと、僕は彼女を鞘におさめた。
彼女の刀身は美しいが、抜き身の剣というのはあまりよろしくない。
本当によい剣は鞘に収まっているものだ。というとある剣豪の格言もある。戦闘が終わった今、鞘に収めない理由はない。
もっとも、彼女は鞘に収まってもなにかわめいているが。
「またボクを物扱いするー! 見てろよー! いつか擬人化してぎゃふんと言わせてやる。ボクが擬人化したらすごいんだぞ! おっぱいぼよん、の腰がぎゅっと締まっている、ぼんきゅっぽんだ。今からボクに優しくしておけば、そんな超絶美女と退廃的で淫らな関係を結べるかもしれないのに、クロムって先見の明がないよね」
そんなあり得ない未来に懸けるほど落ちぶれていないので、その言葉を軽く聞き流すと、ステータスを開く。
「あ、ステータスを開くんだ。激闘のあとだもんね、確実にレベルアップしているはず」
実際、僕のステータスはアップしていた。
クロム・メルビル 16歳 レベル8→9 冒険者 Eランクギルド フェンリルの咆哮所属
筋力 C
体力 C
生命力 C+
敏捷性 C
魔力 D
魔防 D
知力 C
信仰心 D→D+
総合戦闘力 1411→1480
武器 聖剣エクスカリバー
防具 旅人の服 トリネコの木の円形盾
固有スキル 【なんでも装備可能】
隠しスキル 【英雄の証】
戦闘関連スキル 【剣術C】 【火魔法F】 【対槍術E】 【対ゴーレムE】new
武具スキル 【自動回復小】 【成長倍加】 【耐火C】
日常スキル 【日曜大工C】
もくろみ通りというか、予想通りレベルがアップしていた。
ゴーレムを知恵で倒したおかげだろうか。【対ゴーレムE】というスキルも覚えていた。
このスキルは文字通りの意味で、ゴーレムと戦うとき、こちらの総合戦闘力が上がるスキルだ。
迷宮で野良ゴーレムと出会ったときは役立つスキルであろう。
僕は満足すると、エイブラムの誘いを受け、ギルドの食堂に向かった。
そこで食事を振る舞ってくれるらしい。
激戦のあとなのでお腹がぺこぺこだ。その配慮はとてもありがたかった。




