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Eランクギルドへ昇格

 迷宮都市イスガルド、そこはエルンベルク王国の中央に存在する。


 その地下には、広大な迷宮が広がっており、王国中、いや、世界中から冒険者が集まる。


 冒険者たちは、

 地下迷宮に存在するモンスターたちから素材を回収し、

 地下迷宮の奥深くにある財宝を地上に持ち帰る。


 あるいはただ、その最深部になにがあるのか、それを確かめるためだけに迷宮に飛び込むものもいる。


 世は大冒険時代。

 この地下迷宮に挑むものは、名声と富を得るか、絶望と死を与えられるか。

 そのどちらかであった。


 無論、僕ことクロム・メルビルは前者を得るため、この迷宮都市にやってきたのだ。


 果たして僕はそれらを得られるだろうか。

 そんなことを口にすると、腰にぶら下げた聖剣が口を挟んでくる。


「富はともかく、名声の方は得られたんじゃない?」

 と――。


 彼女は言う。


「ちょっと前まで冒険者ギルドに入ることもできず、レベル1をさまよってたクロムが、今じゃ、【フェンリルの咆哮】の冒険者なんだから」


「だよね、無職と冒険者じゃ大違いだ」


「うんうん、Fランクでも冒険者ギルドは冒険者ギルドだよ」


 聖剣エクスカリバーはそう言うが、それは間違っているので訂正する。


「エクスは皮肉を言っているみたいだけど、ちょっと時期をいっしているね」


「どういうこと?」


 エクスは首をひねる。いや、剣なので首はないけど。


「実は我がフェンリルの咆哮は今朝方、Fランク冒険者ギルドから、Eランク冒険者ギルドに昇進したんだ」


「ええ、まじで!?」


 と叫ぶエクス。


「まじだよ」


「あの万年Fランクのフェンリルの咆哮がどんな手を使ったの?」


 賄賂は無理だから、色仕掛け? と無礼なこと言うエクス。

 叱りつけると、事情を話した。

 事情といっても大したものではなく、単純なことであったが。


「僕たちのギルドが、お姫さまを救ったことにより、評議会から格別の計らいを受けたんだよ。本来ならば半年に一回しか昇格のチャンスはないんだけど、特別にランクをあげてもらったんだ」


「ごいすー! 他のギルドもあげてもらったの?」


「それは駄目だったみたい。ただ、感謝状はもらったから、次の昇格査定では有利になるだろうね」


 フェンリル・ギルドだけ昇格できたのは、元々Fランクだったこと、それに恐るべき厄災となっていたかもしれないドラゴンを倒した勇者がいる、ということも考慮されたようだ。


 ちなみにその勇者とは僕のことである。


 そういった意味では確かに僕は名声を得ることができたのかもしれない。

 それに経験も。


 ステータス画面を開く。



クロム・メルビル 16歳 レベル7→8 冒険者 Eランクギルド フェンリルの咆哮所属


筋力 D+→C

体力 C

生命力 C+

敏捷性 D+→C

魔力 D

魔防 D

知力 D+ → C

信仰心 D

総合戦闘力 1336→1411


武器 聖剣エクスカリバー

防具 旅人の服 トリネコの木の円形盾


固有スキル 【なんでも装備可能】

隠しスキル 【英雄の証】

戦闘関連スキル 【剣術C】 【火魔法F】 【対槍術E】

武具スキル 【自動回復小】 【成長倍加】 【耐火C】

日常スキル 【日曜大工C】



  ステータスを見たエクスは、

「おお、ちゃんとレベルが上がってるね」

 と喜ぶが、すぐに「でも」と続ける。


「ドラゴンと戦ったにしてはしょぼすぎない?」


 と、身もふたもないことを言う。


「まあ、そうだけどさ」


 原因は分かっている。

 レベルが1しか上がらなかったのは、ここ最近の急成長のせいだった。


 本来、レベルとは何年もかけてちょっとずつ上げるものなのだが、僕の場合、この数週間で一気に上げすぎた。


 そのため、身体が成長についていけず、目詰まりのような現象を引き起こしているらしい。 リルさんはそう言っていた。


 それにドラゴンにとどめを刺したのは僕だけど、ドラゴンと戦ったのは僕だけではない。


 経験値は役割に応じて分配されただろうし、それにとどめを刺したといっても、最後は木で串刺しにしただけであった。


 剣を突き立てて絶命させるよりは貰える経験値が少なかったのだろう。

 そう考察している。

 しかし、それでもレベルアップはレベルアップ。

 嬉しいことには変わりない。

 またフェンリル・ギルドのランクが上がったのも嬉しい。


 ランクが上がれば、潜れる階層はより深くなるし、依頼されるクエストの質も上がる。


 正直、Fランクギルドに持ち込まれるクエストは、第一階層のゴミ拾い。


 あるいは街の清掃業務、迷宮都市の城壁修復など、およそ冒険とは関係ないものが大半となる。


 Eランクでも大きな違いはないように思えるが、それでもEとFではだいぶ変わる、とはフェンリル・ギルドのマネジメントを一気に引き受けるカレンの言葉だった。



「クロムさまの活躍のおかげで依頼されるクエストの幅が増えましたわ」



 と、諸手を挙げて喜んでくれる。

ただ、と続ける。


「依頼内容はバラエティ豊かになりましたが、目下のところ我がギルドで稼働できる冒険者はクロムさまだけ。すべて依頼をこなすことができないのが惜しいですね」


 と締めくくる。

 エクスもそれには同意のようだ。


「今、僕たちに必要なのは仲間なのかもしれないね」


 と言う。

 それには激しく同意だが、仲間などそう易々と作れない。


 それを証拠にFからEランクに上がっても、ギルド前に貼られた求人広告を持ち帰るものは誰もいなかった。


 ビラは一枚も減っていない。

 もっともこれはリルさんが散々、悪戯をしたしっぺ返しかもしれない。


 リルさんは先日まで、Fランクギルドなのに『元』Aランクギルドという看板を出していたのだ。


 それに騙されて失望した冒険者もさぞ多いことだろう。


 かくいう僕もそのひとりで、もしもフェンリル・ギルドがFランクからEランクに変わっていたと気がついても再び門を叩くか疑問である。


 しかし、悪戯好きの神獣リル様は、そんなことを知ってか知らずか、尻尾の手入れをしている。


 先日、ばっさり切ってしまったので、短くなっているが、それでもすでにかなり生え替わっている。


「換毛期に切ってよかった」


 と安堵している。それよりも過去の悪戯を嘆き、反省してほしいが、それを彼女に求めるのは無駄かもしれない。


 彼女は「ふぁ~あ……」とあくびをすると、ソファーに身を預ける。

 あくびを終えると、彼女はこんなことを言う。


「かつて、この国が戦乱に明け暮れていた頃、とある将軍が戦場で副官にこう言ったそうだ。私はこれから読書をする。もしも他の将軍や国王陛下がやってきても邪魔しないように。ちなみに読書は文字通りの意味でなく、戦場に連れてきた情婦といちゃつくという隠語だ。これについてどう思う?」


「忠誠心もないし、責任感もないですね」


「そのとおりだ。ちなみに私はこれから『読書』をするが、国王だろうが、神獣だろうが、誰がやってきても邪魔しないでくれ」


 彼女はそう言い切ると、犬のように丸まってそのまま寝てしまった。


 彼女の『読書』は『昼寝』の意味があるようだ。本を顔に載せて、光をさえぎっている。


 すぐに寝息が聞こえてくる。

 これは忠告通り、起こさない方がいいな、と思った僕はカレンにこう言った。


「――というわけです、カレン、僕はリルさんが起きるまで、街を散策してくるよ」


 カレンはそう言うと、

「いってらっしゃいませ」

 と頭を下げた。


 メイドさん特有のホワイトプリムがよく見える。

 可愛らしいが、見とれることなく、フェンリルの館をあとにした。


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― 新着の感想 ―
[一言] 時々感じる銀英みがいいですね! にやりとしてしまいます!
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