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ドラゴン討伐の秘策

 走ること数分、僕らはすぐに洞窟を見つける。

 洞窟には黄色い魔力の膜が掛かっていた。

 間違いなくその中にニアはいるだろう。

 僕は大声で彼女の名前を呼ぶ。

 十数秒後、彼女は洞窟から出てくると僕の胸の中に飛び込んだ。


「クロムさん、助けにきてくださったのですね」


 彼女は軽く涙ぐみながらそう言った。

 その姿を見て熟練の冒険者は口笛を吹いて茶化す。


「坊主はもしかしたら、将来、この国の王になるのかな。今からおべっかを使うか」


 そう言うと笑いが漏れる。

 その笑いで自分がなにをしているか気がついたのだろう。

 ニアは一歩下がって距離を取ると、仲間たちの名を呼んだ。


「みんな、応援がきてくれたわ。怪我をしているものを担架で運び出しなさい。今から彼らとともに脱出します」


 さすがは聡明なお姫様だ。なにもいわずとも迅速に指示を出し、脱出を計ろうとする。


 だが、僕は彼女に伝えなくてはならない。

 深呼吸すると彼女に言った。


「ニア、実はここから南西でドラゴンを足止めしている部隊がある。このままだと彼らだけ全滅する。僕はこれから彼らの救援に行こうと思う」


 それを聞いた彼女はまっすぐな瞳でうなずく。


「分かりました。ならば怪我人だけ他のパーティーと協力して脱出を。我々は南西のパーティーの支援に向かいます」


 彼女はそう言うと、背中から弓弦を取り出した。

 無論、彼女の侍女たちはとめるが、それでとまるようなお姫様ではない。

 学者のルミナスは言う。


「今は時間が惜しい。皆、おひいさまの指示に従ってください」


 ルミナスは学者であると同時に侍女長のような立場なのだろう。侍女たちは黙って指示に従う。怪我人を担架に乗せ、南東に逃れた。

 そこで東側のパーティーと合流し、そのまま帰還を目指す。

 ルミナスはそれを見届けると、北を指さす。


「ならば私は北におもむき、北のパーティーに作戦の概要を知らせましょう」


 女性にそのような役目を押しつけるのは気が進まなかったが、今は緊急事態、贅沢は言っていられなかった。


 ルミナスは言う。


「クライドさんが元気ならば彼に任せたのですが」


 そういえば槍使いのクライドが見えない。まさか彼になにかあったのだろうか。


「今、搬送された怪我人の中にいますよ。ドラゴンのブレスをまともに受けてしまって」


 なんと、あの包帯の人がそうだったのか。

 彼ほどの熟練の兵士がやられるなど、ドラゴンはどこまで強敵なのだろうか。


「クライドはわたくしをかばって怪我をしました。なんとか彼の忠義に報いたい。彼の敵を討ちたいのです」


 彼女はそう言い切ると、さあ、参りましょう、と南西に向かって走り出した。

 その姿は勇ましく、神話に出てくる戦乙女のようであった。



 南西の戦場――。

 そこは阿鼻叫喚の地獄であった。

 周辺にあった木々は焼き払われ、火だるまになって倒れている冒険者もいた。

 すでに消し炭となり、蘇生魔法でも蘇生できない死体がいくつも転がっていた。

 危うく全滅しかけのところだったが、なんとか僕らは間に合った。

 すでに消え去った命は救えないが、まだ生き残っている彼らは救うことができる。

 僕はそれを信じながら、腰の剣に言った。


「エクス、この前、放った必殺技、今の僕なら何発撃てる?」


「必殺技って、もしかして最強エクスカリバーアタックのこと?」


「そんな名前だったの?」


「うそうそ、それは今、ボクが考えたんだよ。あのとき、悪漢どもを倒した剣閃のことでしょ? あれならば名前はまだないよ。一緒に考える?」


「それはまた今度、今は使える回数が知りたい」


「そうだね、だいぶボクと馴染んできたし今のクロムなら、二回、無理をすれば三回は撃てるかも」


「そうか、三回か。なら最初に一発決めておくか」

 

 僕はそう言うと剣をかまえた。


 手のひらから魔力をエクスに供給すると、その魔力が満たされた瞬間、それを解き放つ。


 光の塊となった斬撃はそのまままっすぐとんでいき、巨大な火竜の皮膚の一部を切り裂いた。



 グォォォーーン!



 僕の贓物が揺れるほどの轟音が響き渡る。

 それを見た瞬間、僕は思った。

 いける! と。

 それはニアも同じらしく、彼女も弓をかまえる。

 そして弓弦を限界まで引くと、それを解き放った。

 僕の剣閃よりも早いその一撃は的確にドラゴンの腹に突き刺さった。

 苦悶の表情を浮かべるドラゴン。

 それらの攻撃によってドラゴンはこちらの方を敵と認識したようだ。

 西方のパーティーの蹂躙を諦めると、完全にこちらに殺意を向けてきた。

 その怒り狂った瞳を見てジュカが表す。


「これがドラゴンか。聞きしに勝る怪物だな」


「びびっていますか?」


 僕は冗談めかして尋ねる。


「ああ、小便をちびった。だが、その代わり踏ん切りがついた。低レベルの君や女性の姫様でも戦えるんだ。このジュカもやれぬ訳がない」


 彼はそう言うと、腰から二本の短剣を取り出した。

 それを逆手に持つと、彼は舞うように攻撃を始める。


「双剣使い!」


 僕がそう叫ぶと、ジュカはにやりと笑った。


「剣舞という技だ。致命的な一撃は与えられないが、無数の切り傷を与えられる。怒り狂ったドラゴンはさらに怒るだろうな」


 彼はそう言うと、ドラゴンは渾身の一撃の尻尾を振り落としてきた。

 



 ずしん、と小さな地震が起こる。



「私がドラゴンの注意を引く。君とお姫様がこいつにとどめを刺すんだ」


 ジュカがそう言うと、彼の部下であろう【蒼角のユニコーン】のメンバーたちは、決死の勢いでドラゴンに斬りかかった。


 【蒼角のユニコーン】にはひとりとして臆病者はいない。

 彼らは声高に叫び、それを証明する。

 そうなれば姫様の部下たちも黙っていない。


「彼らに後れを取るな」


 あるいは、

「やられた仲間の仇討ちだ」

 と、士気を高めた。


 僕たちはその姿を一歩離れたところから見守った。

 ジュカの進言通りにするためだ。


「ニア、あのドラゴンを倒すには生半可の行動では不可能だと思う」


 ニアはうなずく。


「僕の剣閃を頭部に直撃させても、倒すことはできない。だから、僕は別の方法を考えるよ」


「別の方法ですか? あの火竜を倒す方法があるんですか?」


「なくても探す。そうしないと全滅する」


 冷静にそう言うと、僕は回りの地形を見た。

 姉の言葉を思い出す。


「あなたのおじいさま、伝説の英雄スタム・メルビルはいいました。最後に勝つのは、最後まで考えることを放棄しなかったやつだ、と。いいクロム、どんな絶望的な状況に追い込まれても諦めては駄目。最後の最後まで思考を放棄しちゃ駄目。それだけは覚えておきなさい」


 姉の言葉が反芻される。

 今、僕にできることを考える。

 今、僕にある攻撃力はエクスカリバーの剣閃。

 それにニアの弓。

 そのふたつを組み合わせればなんとかなるんじゃないか。

 なにも攻撃だけで相手を倒す必要はないのではないか。

 発想を転換する。

 ニアの方へ振り向くと、僕は彼女に尋ねた。


 彼女はこの第2階層をくまなく調査した人間だ。この当たりの地形に詳しいと思ったのだ。


 僕はこの辺に谷がないか尋ねた。


「谷ですか? どのような谷でしょうか?」


「なるべく近く、そしてあいつがすっぽり入るような大きさ。絶対必要なのは谷に巨木が生えていること」


 なかなか難しい条件であったが、ニアはあごに手を添えて考え始めると、

「……あります。このまま北へ少し行ったところにそんな地形があります」

 と言った。


 それを聞いた僕は思わず彼女を抱きしめる。


「きゃ、クロムさん、どうされたのですか?」


「勝てるんですよ。僕たちは勝てるんです。あのドラゴンを倒せるんです」


 その言葉を聞いたニアは不思議そうな顔をしたが、それでも僕の言葉を、作戦を全面的に信用してくれるようだった。

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