はじめてのパーティー
僕は最後に結成されたパーティーに入れた。
そこには知り合いのジュカもいた。
あるいは彼は僕が遅れることを見越して、最後までパーティーを組まなかったのかもしれない。
そんなふうに思ったが、そう尋ねても彼ははぐらかすだけだった。
ジュカはそれよりも、と続ける。
「なんだが立派な盾を装備しているね」
彼はさっそく僕の変化に気がついたようだ。
「これはリルさんがプレゼントしてくれた盾です。トリネコの木の盾ですから、耐火性に優れているんです」
「なるほど、ここにきて戦力アップとは心強い」
ジュカはそう言うと、ステータスを見せてくれないか、と尋ねてきた。
僕も見たかったので見てみる。
クロム・メルビル 16歳 レベル7 新米冒険者 Fランクギルド フェンリルの咆哮所属
筋力 D+
体力 C
生命力 C
敏捷性 D+
魔力 D
魔防 D
知力 D+
信仰心 D
総合戦闘力 1136→1336
武器 聖剣エクスカリバー
防具 旅人の服 トリネコの木の円形盾 new
固有スキル 【なんでも装備可能】
隠しスキル 【英雄の証】
戦闘関連スキル 【剣術C】 【火魔法F】 【対槍術E】 【耐火C】new
武器スキル 【自動回復小】 【成長倍加】
日常スキル 【日曜大工C】
ステータスは上がっていた。総合戦闘力が上がり、耐火スキルが付与されている。
これで火竜さえ恐ろしくなくなった、とはいえない。
火竜の総合戦闘力は10000以上と聞く、つまり僕が十人束になっても勝てないということだ。
こちらの戦力は充実していたが、それでも油断できる相手ではなかった。
「なにせあのニアさんの調査団を壊滅に追い込んだんだものな。奇襲とはいえ」
油断どころか綿密に作戦を練らないと駄目かもしれない。
いや、実は作戦はあるのだけど。
僕らは6人ずつ、4つのパーティーに分かれた。今はそれぞれ別に行動しているが、それぞれドラゴンが待ち構えている場所に向かって移動している。
ドラゴンを四方から取り囲むように同時に奇襲を掛ける予定だった。
ドラゴンとはいえ生物、四方から同時に攻撃されれば対処はできない、というのがユニコーン・ギルドの長の説明するところであった。
完璧な作戦とはいえなかったが、僕たちは即席のパーティー。連携を図るにしてもそれくらいが関の山だろう。
それはユニコーン様も承知しているのだろう。
作戦を説明したとき、これは消去法の末に選んだ選択でしかない、と言い切った。
それを証拠に、四方から攻撃を掛けることは決まっていたが、肝心のお姫様を救出するパーティーは定められていなかった。
ドラゴンに攻撃をし、ドラゴンが混乱状態になったら、ドラゴンの横を駆け抜けられそうなパーティー、あるいは個人がその横を駆け抜け、お姫様を救出せよ、というのが作戦の概略だった。
ある意味、その役目をになうものはドラゴンと対峙するよりも危険なことは明白であったが、もしもチャンスが訪れるのであれば、僕は躊躇なくその役目を引き受けるつもりだった。
ただし、どのような展開になるかは予想がつかない。
他のパーティーや冒険者の方がドラゴンの横をすり抜けやすいのであれば、彼らにその役目を任せるつもりだった。
あくまで僕の目的は、ユーフォニアを助けることなのだから。
僕らのパーティーは南側担当となった。
最後に到着したパーティーが一番危険なその位置に陣取ることになっていたのだ。
ある意味僕のせいなので申し訳ないが、ジュカは気にした様子もなかった。
「一番危険といってもこの作戦に安全な箇所はない。それにここから攻撃すれば、一番槍と一番手柄をあげられる」
ジュカは代表してそう言うが、他の冒険者も同じ考えのようだ。
このパーティーは武辺者揃いである。
改めて感謝すると、僕は狼煙を上げる準備をした。
最後に到着したものが狼煙を上げ、それと同時に攻撃を開始する手はずになっていた。
それが一番効率がいいし、一番効果的であった。
僕は心の準備を終えると、狼煙用のホーン・ラビットの糞を取り出す。
この一角兎の糞は燃やすと大量の煙を発することで有名なのだ。
しかも匂いがほとんどしないのも冒険者の間で人気だった。
僕は火打ち石で火を付けると、糞に着火し、そのまま狼煙を上げた。
狼煙が上がれば、ドラゴンがこちらに気がつき、襲いかかってくるはず。
その第一撃に備えるため、僕は円形盾をかまえる。
ドラゴンの強烈なブレスに耐えるため。
……しかし、いくら待ってもドラゴンはやってこなかった。
5分、10分、それ以上の時間が経過してもなにも変化はない。
これはおかしい、と思い始めた頃、西方から爆音が響き渡る。
なにごとか、僕たちはそちらの方を見渡すと、森から大量の煙が上がっていた。
それを見てジュカは言う。
「どうやらドラゴンはこちらの思惑には乗ってくれなかったらしい」
と――。
「つまり、ドラゴンは僕たちではなく、西方のパーティーに襲いかかったのか」
「そうなるな」
ジュカはそう言うと、僕に選択肢を迫る。
「君がお姫様と仲が良いことは知っている。だから今回に限り、選択権を君にゆだねる。今ならばこのまま北に突っ切ればお姫様と合流できる。うまくすればそのままお姫様を逃がせるかもしれない」
「ですね。迅速にやれば」
「だが、その場合、西方のパーティーを見殺しにすることになる」
「後味が悪いですね」
「だが、もとより皆その覚悟はある。我々の最優先事項はお姫様の救出だ」
ジュカはそこで言葉を句切ると、
「さて、どうする?」
と僕に迫ってきた。
「…………」
そんなものは決まっていた。
僕はニアを救うそのためにここにやってきたのだ。
僕はこう言った。
「このまま北へ全力で走ります。そこでニアに話を伝え、一緒に西方におもむき、ドラゴンと対峙します」
「おいおい、我々の任務がお姫様救出だぞ」
「ニアという少女は誰かを犠牲にしてまで生き延びたいタイプではありません。のちに自分が誰かを見殺しにして生き延びたと知れば深く悲しむでしょう。いや、途中でそのことに気がつけば、間違いなく引き返します。そういう娘です。だから、僕は最初から本当のことをいい彼女に力を貸したい」
ジュカは一瞬迷ったが、一瞬だけだった。
「いいだろう。ユーフォニア姫はそういう性格なのだろう。ならば迷っている時間も惜しい、走るぞ!」
僕は、
「はい!」
と、呼応すると、パーティーの誰よりも早く駆けだした。
こういうときは鎧さえないこの軽装が有り難かった。




