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ウィンドウ・ショッピング

 魚市場の隣にある武具市場は、エクスを購入した場所のように賑やかではなかったが、その分、静かに防具を見れそうであった。


 リルさんは説明してくれる。


「少年とエクスカリバーが出会った場所は、この迷宮都市でも一番の武具街だが、その分、質もピンキリだ。ピンの方は聖剣から、キリの方が偽物まで、色々流通している」


「もしかしたら僕はだまされて有り金はたいて偽物買わされた可能性もあるということか」


「そうだな。少年は運が良かった」


 というとエクスは反論する。


「運もいいけど、あのとき、ボクが声を掛けたからクロムとボクは出会えたんだから。それを忘れないように」


 たしかにあのとき、声を掛けてくれたことは運命だったかもしれないので感謝する。


「ちなみにここの武具街は、防具が中心だが、いい防具が集まっている。時折、貴族も買いにくる」


「それは質が高いものが集まっているということですね、リルさん」


「そうなるな。ただし、その分、お値段も高いが」


「ほんとだ」


 ショーウィンドウに展示された防具類の値段を見る。

 そこには目が飛び出るほどの価格が設定されていた。


「ちょ、ちょっと、これは今の僕には手が届かないかな……」


「これを買えるようになるのは数年後かな」


「でも、いつかは装備してみたいですね」


「そうだな。ちなみに少年はどの防具が欲しい?」


 ひとつだけ選んで見たまえ、と偉そうに言うリルさん。

 僕は彼女の提案に従い、武具を見て回る。


「うーん、ひとつだけか。迷うなあ」


「実際に買うわけじゃない。ウィンドウ・ショッピングだ」


 気軽に選びたまえとのことだが、架空のお買い物だからこそ迷う。


「いつかは重装甲の板金鎧(フルプレート・アーマー)をまとうのが夢だけど、今の僕には使いこなせない」


 固有スキル【なんでも装備可能】で装備はできるが、筋力や体力が足りなければ、動きが遅くなりいい的になるだろう。


 というわけで板金鎧は却下。


 ならばここは身の丈に合った革の鎧だろうか。これならば今のステータスでも使いこなせる。


 革の鎧は軽く、筋力や体力が低いものでも装備できるし、機動性は損なわれない。

 僕のようにちょこまかと動くものにはぴったりだろう。


「なるほど、少年が欲しいのは革の鎧か」


 彼女はメモ帳にメモをしている。


「もしかして買ってくれるんですか?」


「宝くじでも当たったらな」


 と、とぼけるリルさん。宝くじならばこの前当たったばかりだ。早々都合良くは当たらないだろう。


 なので僕はウィンドウ・ショッピングを続ける。


「鎧もですが、盾も欲しいですね」


「盾?」


 不思議そうな顔をするリルさん。


「少年の聖剣は両手持ちだろう?」


「いえ、盾を持っていないので両手で持ってますが、エクスは本来片手剣ですよ」


「ほお、それはしらなんだ」


「現在のところ、単独でもぐることが多いので、まずは守備を固めたいかな。そうなると防具よりも盾を持った方が生存率が上がるかも」


 と、口にすると僕は盾が陳列されている一角に移る。


「この前、火トカゲと戦ったんですよ。やはり遠距離攻撃をしてくる相手には盾があると便利だと痛感しました」


「火トカゲは炎の息を吐くからな」


「はい、放射線状に広がるんですが、さすがに避けにくい。盾があれば防げるかな、と」


「対炎となると皮の盾は駄目だな」


「そうですね、火トカゲレベルでも焼け焦げてしまうかも」


 戦場に漂ういい匂いが思い浮かぶ。


「鉄の盾も良くないかもしれん」


「火トカゲレベルでも連続して喰らったら、熱くなって持てなくなってしまいますもんね」


「木の盾は論外か」


「すぐに焼け焦げて使い物にならなくなります」


 僕がそう言うと武具屋の店主が否定してくる。


「お客さん、そんなことはないですよ」


 と、人の良さそうな小太りの店主は言う。


「というと?」


「木だからってすぐ燃え上がるとは限らないんですよ」


 たとえばですが、と彼は言う。


「このトリネコの木で作った盾は防火性がある。もともと、トリネコの木は火に強いですからな。ある森が落雷で焼け落ちたとき、トリネコの木だけは焼け残った、という逸話があるくらいです」


「す、すごい」


「ええ、すごい防火性です。ただ、火に強いのが災いして、加工がしにくい。木の盾は湾曲させて矢をそらす処理をさせるのですが、これは火で曲げるわけにもいかないので、全部削り出しで作っています」


「え、一枚一枚、削って作ってるんですか?」


「はい」


「それはすごいな。じゃあ、お値段もすごいんじゃ――」


 と言いかけてやめる。

 金貨200枚という数字を見てしまったのだ。

 とても僕の経済力で買える代物ではなかった。

 店主は言う。


「防火性でしたら、他にも水精霊(ウィンディーネ)の加護をかけたカイト・シールドなんかもいいですよ」


 と彼は勧めてくるが、それもとても値段が張るものだった。

 それに重そうで今の僕には合いそうにない。


 今の僕ならばもう少し小ぶりで、軽く、扱いが楽そうな盾の方が合うはずだ。

 そう、先ほど見せてもらったトリネコの木で作った円形盾(ラウンド・シールド)などぴったりだと思った。


 ――その値札以外は。

 なので僕は諦めることにする。

 盾を買うにしても、もう少しクエストをこなして安いものから。


 なんの加護もない木の盾や革の盾から一個一個グレードアップさせていった方がいいだろう。


 いきなり聖剣を手に入れて勘違いしてしまったが、それが本来の冒険者の姿なのだ。


 僕たちはそのまま武具売り場をあとにした。

 リルさんは途中、こんな質問をしてくる。


「もしも金貨200枚有ったらあの盾が欲しいかね、少年」


 僕は正直に答える。


「欲しくない、といえば嘘になりますが、それよりも前に買うものが一杯あります」


「というと?」


「そうですね、フェンリルの館の扉は古くなっています。業者を呼ぶと高いから、僕が直してもいいんですが、それでも材料費がいります。それにところどころ雨漏りもしているし、配水管も古くなっているからそれらを交換したいですね」


 それに、と僕は続ける。


「色々と良くしてもらったリルさんとカレンにプレゼントを贈りたいかな。カレンは編み物が好きだといってたから、編み棒と毛糸を。リルさんにはなにがいいだろう? なにが欲しいですか?」


「少年はまったく無欲な少年だな。君は冒険者、まず装備を買いそろえるのが責務だろうに」


 リルさんは呆れながらそう言うと、こう締めくくりながら、僕の頭を撫でてくれた。


「まあ、少年らしいといえば少年らしい」


 彼女はそう言うとほがらかに微笑んだ。

 彼女は尻尾をぴょこぴょこさせながら、陣頭に立ち、フェンリルの館へ向かった。

 僕はそれを見ながら彼女について行った。

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