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火トカゲの群れ

 ドラゴンと遭遇した僕たちは慌てることはなかった。

 冷静に、着実にドラゴンたちを切り伏せていく。

 ドラゴンの吐く炎を避け、爪をかわす。

 隙を見ては攻撃を加え一刀のもとに倒す。

 その様は伝説のドラゴンを倒す英雄の絵物語のようであった。


 もちろん、からくりはあるのだけど。

 出くわしたドラゴンは、通称ドラゴン・パピィと呼ばれる小型のものだった。

 翼もなければ大きな牙も爪もないトカゲのようなモンスター。

 実際に学者からは竜族からは除外され、は虫類の一種として扱われている。

 だからそれほど強い相手ではなかった。

 僕たちは次々と火トカゲを切り捨てていく。

 僕は聖剣エクスカリバーで彼らの鱗を切り裂き、

 クライドは鋼の槍で火トカゲを突き、

 ニアは世界樹の弓で火トカゲを射貫く。


 即興のパーティーとは思えないコンビネーションで僕たちは火トカゲを倒していく。


 そんな中、ニアはつぶやく。


「……おかしいですわ」


 なにがおかしいのだろうか。

 尋ねてみる。


「はい、ドラゴン・パピィ、通称火トカゲはそんなに強い怪物ではありません。しかし、こんなにも浅い階層に現れることも珍しい」


「件のドラゴンと一緒ですね」


「はい、もしかしたら件の火竜がこの火トカゲどもをおびき寄せているのかもしれません。あるいは上層に上がってきたドラゴンから逃げているとか」


「ありえそうだ」


 目の前いる火トカゲたち。


 彼らはいくら切り殺しても向ってくる。普通、これだけ力を見せつければ、逃げ出すはずであるが、それでも火トカゲの抵抗は収まらない。


 まるで背後にいるなにかにおびえているようにも見えた。


「つまり、ニアさんは近くにドラゴンがいるかも、と思っているんですね」


「この近くではないはずです。ドラゴンを感じれば、連れてきた魔術師が感知しているはず。あれほどの質量と魔力を持ったモンスターを見逃すはずがない」

 

 ですが、と続ける。


「このものを見て確信に変わりました。ドラゴンは必ずこの階層にいると。しばらく探求を続ければ出会えるでしょう」


 彼女はそう言うと、弓を絞った。

 そこから放たれた矢は、まっすぐに火トカゲの目に命中する。

 こんなに小さく、はしっこい生き物の目を射抜くなど、名人芸である。

 お姫様とは思えぬ技量だ。

 彼女ならばもしかしたら、ドラゴンの目を射抜けるかもしれない。

 そう思った。

 僕も彼女に負けじと、剣を振るう。

 聖剣エクスは言う。


「女の子に負けたら恥、とかいうつもりはないけど、お姫様には負けないよ。ボクたちは雑草ペア。王宮でのほほんと暮らしてきた王女さまに負けるのは癪だもの」


「生まれは関係ないと思うけどね。それをいえば僕も元々貴族だし」


「え? クロムって貴族なの?」


「前に話しただろう」


「冗談かと思ってた」


「本当だよ。かつては子爵号も持っていた名家だよ。今はとある事情で騎士の位しかないけど、田舎に帰れば猫の額ほどの領地もある」


「あれ? ということはクロムはお姫様の家来じゃん」


「僕の家はエルンベルク王国からなかば独立している公国出身の騎士爵だよ」


「なるほど、ならニアって呼び捨てにしても大丈夫だね」


「場所は選ぶけどね」


 そう言い切ると、5匹目の火トカゲを切り捨てた。

 火トカゲは緑色の鱗を持っていたが、その鮮血は赤く、肉はさらに赤い。

 彼らが口から出す炎のような色をしていた。

 横で槍を振るっているクライドが説明してくれる。


「知っているか、火トカゲはカエルや鶏に似た味がする。これだけ仕留めれば、当分、我が部隊の食糧には困らないだろう」


「ならばなるべく美味しそうな部位は壊さないようにします」


 と、6匹目を倒す。

 6匹目を倒すと、さすがに火トカゲは恐慌状態に陥る。

 これ以上、戦闘をしても無駄である。

 あるいは獣の本能にようやく目覚めたのかもしれない。

 この人間たちには絶対に勝てないと。

 あくまでこちらの勝手な想像だけど、あまり的外れな想像でもないはず。

 火トカゲは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。


「追いますか?」


 一応、司令官であるニアに尋ねる。

 ニアはゆっくり首を横に振る。


「このものたちも好きで襲い掛かってきたのではないでしょう。深追いは禁物です」


「一週間分の食糧は手に入りましたしな」


 と、クライドは茶ばんだ歯をにかっと見せる。

 ふたりがそういうのならば追撃はやめておこう。

 そう思った僕がエクスを鞘に納めた瞬間、一陣の風が舞う。

 そこに現れたのは大きな化け物だった。

 土褐色の体、大きな翼、鋭利な鉤づめ。

 一瞬でそれがとある生き物だと判明する。


「これは竜?」


 僕の問いに答えてくれたのはニアだった。


「たしかにこれは竜です。しかし我々が追っている竜ではありません。これは竜の中でも最下級の竜、ワイバーンです」


「『小』飛竜というやつか」


 ニアはこくりとうなずく。


「こいつも倒したほうがいいかな」


 そうつぶやくと彼女は僕の腕を引き、木の後ろに隠れる。

 クライドもそれにならう。


「倒せない相手ではありません。しかし、それでもワイバーンは竜族。無駄な戦闘は不要です」


 彼女はそう言うと飛竜の動きを観察する。

 僕もそれにならう。

 たしかにワイバーンは僕たちを狙ってはいなかった。


 逃げ惑う火トカゲの中から、弱っているもの、小柄な個体を選別して、鉤づめを突き立てていた。どうやら捕食するためにやってきたらしい。


 ならばすでに倒れている火トカゲを狙えばいいような気もするが、ニアはこう説明してくれる。


「ワイバーンは新鮮な獲物しか食べないのです。獲物を生きたまま捕らえ、内臓を食いちぎるのが好みとか」


「詳しいんですね」


「すべてルミナスの受け入りですけどね」


 と、はにかむニア。

 ならばこのまま後方に退避すべきだろう。

 幸いとまだこちらの存在には気が付かれていない。


 倒した火トカゲの肉や素材は惜しかったが、それでもワイバーンに生きたまま内臓を食われるのはごめんであった。


 そう提案すると、ニアたちも同意する。


 ただ、クライドだけはがめつく、手近にあった火トカゲの肉を切り落としていたが。

 彼は悪びれずもせず言う。


「こいつを肴にエール酒で一杯やるのが最高なんだよ」


 相変わらず豪胆な人だが、それでも非難する気にはならない。


 クライドが肉を回収すると、僕らは森の木々に溶け込むように部隊の野営地に戻った。 

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