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聖剣の力

 洞穴に飛び込み、天然の階段を駆け足で降りる。

 すぐに第2階層に到着する。

 そこは第1階層の平原とは打って変わって、暗い森であった。

 急に真っ暗になったため、視界がきかない。

 それでも僕は、先ほどの声の主を捜し求めるため、駆け回った。


「クロム、本当にこっちでいいの?」


「こっちでいい……、はず」


「はずって……、山勘なの?」


「勘じゃない。一応、足跡をたどっている」


 見れば足下は軽くぬれている。

 昨晩、雨でも降ったのだろう。

 その足跡を追えば、おそらくではあるが、声の主にたどり着くはず。

 その計算は正しく報われた。

 数分後、猿ぐつわをされ、かつがれている女性を見つける。

 かついでいる連中はどこからどうみても悪漢であった。


「これは検証するまでもなく、どちらが悪か分かるね」


「そうだね。思う存分奇襲できる」


「いきなり後ろからぶった切る?」


「そうしたいとこだけど、一応、致命傷は与えたくない。調整できる?」


「はいはい、まったく、クロムは優しすぎるよ。あんな悪漢ども、ばたばたと切っちゃえばいいのに」


 というと彼女は刀身に《切れ味鈍化》の魔法を掛ける。


「これで思う存分戦えるでしょ」


「ありがたい」

 

 僕はそう言うとそのまま悪漢どもの後ろから斬りかかった。

 悪漢たちは4人、そのうちひとりが倒れる。

 その段になって悪漢たちはやっと僕の存在に気がつく。

 奴らが剣を抜く前に、二撃目を放つ。


「ぐはぁ」


 という声とともに二人目も倒れた。

 これで残りふたり。

 ただ、奇襲もここまで。残りのふたりはすでに戦闘態勢に入っていた。

 かついでいた女性を下ろし、腰からショートソードを抜いている。

 ここからは2対1の戦いを強いられる。

 果たして彼らの総合戦闘力はいくつなのだろうか。


 他人のステータスを強制開示する魔法は高位の魔術師しか使えないので分からない。


 ただ、彼らの年齢からいって低レベルということはないだろう。

 それなりの場数を踏んでいるはず。

 となると数の分だけ不利である。


「……でもやるっきゃないよな」


 ここまできて冗談でしたではすまされないし。逃げるという選択肢もなかった。

 僕はエクスを握りしめると、悪漢どもと戦った。


 まず攻撃を加えてきたのは獣の皮を被った悪漢、彼はショートソードで切りつけてくる。


 それを颯爽とステップでかわすと、見計らったかのように突きを加えてきたのは、女性をかついでいた男だった。


「くそ、うまい」


 集団戦闘になれている証拠だ。

 これは総合戦闘力以前の問題かもしれない。

 そう思ったが、それでも手を抜かない。

 僕は聖剣に尋ねる。


「ねえ、エクス、こんなときになんだけど、質問してもいい?」


「なんだい? スリーサイズでも聞きたいの?」


「それは見ればだいたい分かるよ。僕が聞きたいのはそんなことじゃなくて、君に隠された能力がないか、ってこと」


「なんだ、そんなことか」


 彼女はあっさりした口調で言うと、

「あるよ」

 と、言い放った。


「あるのか! じゃあ、その力を使わせてくれないか」


「もちろん、それはかまわないのだけど、ひとつだけ問題がある」


「どんな問題?」


「君の能力が未熟ってこと。この技は必殺技なんだけど、一回しか使えないんだ」


「なるほど、でも逆に言うと一回は使えるんだよね」


「使っただけで体力をごっそり消耗するよ?」


「それは覚悟の上だよ。使い方を教えて」


 僕は悪漢たちの攻撃を避けながら尋ねた。


「君は器用だね。まあいいか、じゃあ、いうね。まず、剣のつかに力を込める」


 指示に従いぎゅっと握りしめる。


「それで次ぎに刀身に魔力を送り込む」


「どうやってやるの?」


「イメージだよ、そうイメージするの。そうだね、鉄の棒をたき火に刺して、その熱が徐々に伝わるようなイメージかな」


 分かった。

 とやってみる。するとどうだろう。エクスの刀身が黄金色に輝きだした。


「すごい! すごいよ、クロム、初めてとは思えない」


 べた褒めのエクス、僕は彼女に次の段階を尋ねる。


「あとは簡単だよ、それを解き放つようにイメージすれば、剣閃が相手に向かって飛んでいく。それで敵を切り裂いて」


「それって高難度なんだけど? しかも、一回しか放てないんでしょ?」


「なら、あの悪漢たちにこう言う? 今から練習してくるので三日待ってもらえますか? って」


 言えるわけがない。

 ならば今ここで決めるしかないということか。

 覚悟を決めると精神を集中させた。

 剣閃を解き放つ自信はなぜかあった。

 問題なのはその剣閃を相手に当てることができるかである。

 もしも外せば僕の命はないだろう。

 しかしそれでも僕は剣閃を解き放つ。


 仮にここで外すようならば僕の冒険者としての才能もそこまでだった、ということだ。


 それにだけど、なぜだか僕の中には外さない自信があった。

 それは過信ではなく、確信であった。

 僕は悪漢ふたりを横並びになるように誘導する。

 タイミングを計る。

 ふたりが一直線に並び、剣閃の有効範囲に入る瞬間を。

 その瞬間は数秒後に訪れた。

 僕はその瞬間を見逃さない。

 聖剣エクスカリバーをなぎ払うと、その剣先から剣閃が出るようにイメージした。

 僕のイメージはそのまま現実に投写される。

 黄金色の魔力の波濤が悪漢どもに襲いかかる。


 彼らが人間でなければそのまま切り裂かれていたであろうが、僕はなるべくなら人殺しはしたくなかった。


 そのイメージも伝わったようだ。

 剣閃は斬撃属性ではなく、打撃属性となっていた。

 ぼこり、と彼らの身体にめり込むと彼らを数メートル吹き飛ばす。

 木々にぶつかってやっと止まった。


「すごい威力だな。これが聖剣エクスカリバーの力か」


 ぼつりとつぶやく。


ぼきり、と嫌な音がしたが、折れたのは木の方だろうか。それとも悪漢どもの骨の方だろうか。


 骨が折れるにしてもせめて背骨ではありませんように。

 そう願っていると、エクスはこう言う。


「それにしてもすごいね、クロムは。初見でボクを使いこなしたのは君が初めてかも」


「そうなの?」


「うん、何百年も聖剣をやっているけど、かのアーサー王ですらボクを使いこなすのに時間がかかったよ」


 アーサー王とは聖剣のもとの持ち主である異世界の王であるらしい。


 彼女は彼のことを英雄の中の英雄、王の中の王と褒め称えるが、そのような人物と比肩されると嬉しかった。


 ただ、それもこれも皆、僕の固有スキル【なんでも装備可能】のおかげである。

 すべてがすべて自分の実力だと思わない方がいいだろう。


 そう口にすると、エクスは、


「そういった謙虚なところがクロムのいいところだよね。そこもアーサー王の若い頃と似ているよ」


 と言ってくれた。

 おもはゆいけど、嬉しい言葉であった。

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