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武器屋で聖剣に出会った

「金貨1000枚ってこんなに重いんだ」


 というのが宝くじの当選金貨を受け取ったときの率直な感想だった。


 僕はキツネに化けされたかのような気持ちで迷宮都市の銀行に宝くじの当たり券を持って行くと、そのまま金貨を1000枚渡された。


 手続きを行なってくれた銀行員は、


「当行に預けませんか? 今ならば利子が――」


 と細々とした説明を始めたが、僕には上の空だった。

 なぜならば、僕の脳内はこの当選金の使い道で埋め尽くされていたからだ。


「金貨1000枚もあれば一生遊んで暮らせる……、いや、それは無理か。でも。10年は働かなくていいかも。これを元手に商売を始めれば……」


 いや、駄目だ駄目だ、と首を横に振る。

 そもそもなんのためにこの迷宮都市にやってきたんだ?

 それは一人前の男になって、実家を再興するのが目的だったはず。


 そのために立派な冒険者になって、騎士になって、英雄になって、王様に認めてもらう。


 それが当初の目的だったはず。

 ならばこの金貨はその目的を叶えるために使わないと。


 そう思った僕は、銀行員の誘いをすべて断ると、金貨を迷宮都市金貨から王国金貨に両替してもらい軽量化した。


 そしてそれをそのまま腰袋に入れると、とある場所に向かった。

 無論、そのとある場所とは武器屋である。

 最高の武器と防具を買いそろえ、最強の新米冒険者となる。

 それが僕の計画だった。


 

 迷宮都市イスガルドは大きな都市だ。


 エルンベルク王国の中央に存在する都市で、その主要な産業は『発掘』と『採取』であった。


 イスガルドは迷宮都市の異名に相応しく、その地下に広大なダンジョンが広がっていた。


 冒険者はそのダンジョンに潜り込み、古代魔法文明の遺物や、魔物の素材、特殊な植物やキノコなどを採取し、地上に持ち帰り、それを換金していた。


 だからこの迷宮都市には無数の冒険者ギルドがあるわけである。


 迷宮からもたらされる富は絶大で、イスガルドの街には大陸中から多くの商人が集まり、迷宮から発掘されるものを売買し、富を蓄積していた。


 要はダンジョンを中心に経済ができあがっており、冒険者に必要なものを買うのに困ることがない便利な街であった。


 つまり今の僕が一番欲しいもの、

 強力な武器と防具を買うのに困らない都市ともいえる。


 僕は金貨1000枚で買える最強の武具を求め、武具商人が集まる一角へと向かった。





 武器と防具を扱う商人が集まる一角がある。

 迷宮都市の目抜き通りから少し奥に入った場所だ。

 ここは冒険者の街であるが、さすがに冒険者たちよりも普通の住人の方が多い。


 なので武具商人たちはあえて一等地に店をかまえるよりも少し不便でもこのような奥まった場所に集まる方が得であると思っているのだろう。


 そんな理由で集まっている武具商人たちだったが、やはりそれでも冒険者の街で武具を扱っているだけはあり、取り扱っている武器の量は半端なかった。


 100店以上の店があるのではないだろうか。


 こんな膨大な店の中から目当ての武器を探すのは困難に思われたが、急ぐこともない。


 じっくりと店を見て回る。


「そもそも目を付けている武器と防具があるわけでもないんだよね」


 思わず漏れ出る独り言。


 まさか1000枚もの金貨を手にする日がやってくるとは思わなかったから、あらかじめ欲しい武器につばを付けておく、などという無駄なことはしなかった。


 いや、それどころか万年金欠だったので、このような武具を扱っている店に入ったことすらなかった。


 なのでどのような武器を買えばいいのか、皆目見当がつかない。


 こういうときは店主に尋ねるのが一番だろう。そう思った僕は一番最初に入った店の店主に尋ねた。


「すみません。最強の武器と防具が欲しいのですが、なにかいいものありますか?」


 その言葉を聞いた店主は眉をしかめる。

 僕の頭頂部から足下を胡散臭げに見回すとこう言った。


「坊主、おまえは素人だな」


 はっきりと断言された。まあ、その通りなのだけど。

 正直に答える。


「はい、駆け出しの冒険者です。でも、ある程度はお金があるのでいい武器を揃えようと思って」


「……これだから素人は困る。おまえ、武器を装備するのにも能力値がいるのを知らないのか?」


「もちろん知っていますよ。重たい武器を装備するには筋力が。聖なる武器を装備するには信仰心が。魔法武器を装備するのには魔力の値が高くないと駄目です」


「ならば坊主のステータスはどうなんだ?」


「オールDですね。ほぼ」


「ならば最初からいい武器を買ってもしかたない。装備できないからな。いや、一応、装備はできるが、その能力を十全には発揮できない」


「それくらい知っていますよ。たとえばそのレイピアですが、それを使いこなすには敏捷がD以上必須なんですよね」


 店に飾られているレイピアを指さしながら言う。


「それだけじゃない。あのレイピアは特製品だ。最低でもDだが。Aになればさらに能力を引き出せる」


「なるほど、でも、Dでも装備できるんですよね」


「まあな、だが、俺は変わった武具商人でな。たとえ装備できる最低限の能力を持っていても気軽に売らないことで有名なんだ。その武器を最大限に使いこなせるやつにしか売りたくない。とくに店の奥に飾ってある特別品はな」


「そ、そんなあ」


 思わずため息が漏れる。


「だが、ま、こっちも商売だ。そこに立てかけてある普通の武器ならば売ってやらないこともない。しかも俺は貧乏人に優しい。兄ちゃんはいかにも貧乏そうだから、大幅に負けてやるぞ」


 こわもての商人だったが、根は悪くなさそうな人だ。ただし、武器に関してはこだわりがあるらしく、良い武器を売ってくれそうな気配はない。


 そう思い立ち去ろうとしたが、それを呼び止めるものがいる。


『待って、クロム! 行かないで!』


 急に呼びかけられてびくりとしてしまう。辺りを見回すが誰もいなかった。

 幻聴が聞こえたのだろうか?

 そう思って再び歩き出そうとするが、また同じ声が聞こえた。


『待ってったら、待って! クロム。この場を離れないで。ここで武器を買って。他で買うときっと後悔するよ!』


「…………」


 なんだろう。僕の頭がおかしくなってしまったのだろうか、それとも目の前の店主が魔法でも使っているのだろうか。


 思わずまじまじと店主を見てしまうが、彼は不機嫌そうにこちらを見ているだけだった。


 いったい、誰が話しかけているのだろう。


 再び辺りを見回すと、店の奥に飾られている武器が青白く光っていることに気がつく。


 そしてその武器が光りを強めるたびに、僕の脳内に声が響くことに気がつく。


(もしかして君がしゃべっているの?)


 脳内でそう語りかけると、答えが返ってくる。

 妙に明るい女性の声が脳内に響き渡る。


『ビンゴ! 正解だよ。ボクの名前は聖剣エクスカリバー。君はここでボクを買う運命にある。だからその金貨を店主に渡してボクを買って』


(そんなこと言われてもなあ)


 値札を見る。そこには時価という恐ろしい文字が書かれていた。


『値段のことを気にしているの? 君の腰袋には金貨1000枚があるはずだけど』


(なんでそれを……)


『ふふん、聖剣をなめないでよね。それくらいお見通しだよ。君は最強の武器を買いにきたんでしょう? ならばボクを買ってよ。ボクは異世界でアーサー王という偉大な王が使っていた名剣だよ。その切れ味はゴーレムさえ真っ二つさ』


 それは素晴しいと思うけど。

 ただ、それでも彼女を買うのはためらわれる。


 なぜならばたとえ購入できる金貨を持っていたとしても武器にすべてを支払ってしまえば防具を買う金がなくなる。


 いくら最強の武器を装備しても防具が貧弱ならば意味がないからだ。

 それに、とちらりと店主に視線をやる。


 この店主は頑固だからなあ。

 とても『彼女』を売ってくれるような店主には見えなかった。

 しかし、それでもエクスカリバーは自分を買うように誓願してくる。


 あまりに熱心なので、一応、交渉だけはしてみるよ、そう言うと、店主におそるおそる声を掛けた。


「あの、おじさん、すみませんが、あの店の奥に飾ってある剣を僕に譲ってもらえないでしょうか?」


 案の定、店主はうさんくさいやつを見る目をしてくる。


 ただ、それでもくじけずに粘り強く交渉すると、店主はとある意外な条件を出してきた。

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