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スニークとの死闘、そして

 僕たち一行は館の庭に向かう。


 フェンリル・ギルドの館の敷地はそれなりに大きく、冒険者たちが鍛錬をしたり、羽根休めをしたりできるようになっている。


 もっとも、今現在はこのギルドに所属している冒険者はおらず、閑散としている。

 だが、これくらいの広場があれば、決闘を行なうことくらい容易であろう。

 そう思った。

 リルさんは外部から不正が行なわれないように決闘場に防御魔法を張る。


 こうすれば外部からの干渉は不可能だし、決闘の流れ弾に外部の人間が被害を受けることもない。


「僕は《火球》の魔法も撃てないけどね」


 と軽く皮肉を漏らす。


 その声は対戦相手のスニークには届かなかったようで、彼は決闘場で剣を振り回していた。


 ロングソードだ。

 ロングソードとは読んで字のごとく長剣のことだ。


 鋼で鍛えた剣で、冒険者はもちろん、商人から傭兵まで、さまざまな人に愛用されている。


 まじまじと見つめているとそのロングソードが赤く光っていることに気がつく。薄くではあるが。


 スニークは言う。


「小僧、気がついたか」


 スニークはそう言うと聞いてもいないのに説明する。


「この剣は迷宮の第3階層で手に入れた逸品だ。二つ名モンスターが落としたレアアイテムよ」


 向こうも普通の武器ではないということか。

 ただ――

 武器に掛けてはこちらの方が上だ。と断言できる。

 僕はエクスを鞘から抜く。

 彼女はこう言う。


「クロム、向こうの武器はロングソード+1みたいだね。まあまあの武器だけど、聖剣のボクの敵ではないよ」


そう言うと彼女は刀身に青白い魔力をまとわせる。

 その光景を見たスニークは感心する。


「なかなかの名刀のようだな。次ぎに決闘をするときはそれを賭けてもらいたいくらいだ」


「かまいませんが、そんな気は起きないかもしれませんよ」


「どうしてだ?」


「それはこの決闘であなたが負けるからです」


 その言葉を聞いたスニークは怒りに震える。


「――ほざきよるわ!」


 激高したスニークはリルの開始の合図を待たずに飛びかかってくる。

 しかし、それは予見していたので、なんなくそれをかわす。


「ひゅー、やるじゃん、クロム」


 エクスははやし立てる。


「どうも。対人戦は久しぶりだけど、こっちの方があっているのかもしれないね」


 田舎ではモンスターと戦うことは少なかったけど、その代わり姉さんとみっちり稽古をしていた。


 今回の決闘は防御魔法を掛けてあるし、ある意味、稽古と似たところがある。

 もっとも、それはこちらだけで向こうは本気みたいだけど。


 スニークは防御魔法を掛けてあっても大ダメージを狙える突きを中心に攻撃してくる。


 それも人体の急所である目と腹部を中心にだ。

 実戦さながらであるが、それは卑怯ではない。

 手首や足を狙う僕の方が甘ちゃんなのであろう。


「でも、この勝負は殺し合いじゃない。それにこの勝負は勝つことに意味がある」


 そう口ずさんだ僕は自分の流儀を貫いた。

 勝負は長時間に及ぶ。

 長期戦の様相をていしてきたが、長時間の戦闘は総合戦闘力の差となって現れた。

 徐々にではあるが、押され始める。

 決闘場の端まで追い詰められる。

 すでに僕は青息吐息で全身を使って呼吸していた。

 ただ、僕は諦めていなかった。

 必ずスニークを倒して、カレンに謝ってもらう。

 それだけを胸に剣を振るった。





 神獣リルは新しく入団した少年の動きをあまさず観察していた。

 なかなかに見事な剣さばきであるが、総合戦闘力と経験の差は埋めがたいようだ。

 それに体力の差が出始めているのもでかい。

 少年の体力はD、スニークの体力はC+であった。

 長期戦になればなるほど、相手が有利になる。

 しかし、それでもリルは少年の勝利を確信していた。

 少年の目は勝負を諦めていなかった。

 逆転の瞬間を狙い、虎視眈々と力を蓄えていた。

 溜に溜めたその力を使えば、少年はこの勝負に勝利するだろう。

 そう確信していた。




 

 スニークの剣が僕の肩口をかすめ、ダメージをもらう。


 もしもこれが真剣であらばその場で負けていたかもしれないが、幸いなことにこれは模擬戦であった。


 死にはしない。

 やはりな、と僕は心の中でつぶやく。


 もしもこれが真剣勝負ならば通用しない手であるが、模擬戦ならば通用する戦法もある。


 それを使えば目の前の男に勝てるだろう。

 そう思った僕は実行することにした。

 わざと隙を作り、敵の攻撃を食らうのだ。

 僕は防御重視の構えを解いた。


「ちょ、ちょっと、クロム、気でも狂ったの?」


 エクスは言う。


「狂っていないさ。ただ、勝つためにちょっとばかり痛いを思いをする」


「痛い思い?」


「数撃後、スニークはきっと大ぶりの袈裟斬りを放ってくる。それを僕は受けるつもりだ」


「馬鹿、そんなの受けたら大ダメージだよ」


「そんなのは分かってるよ。でも、袈裟斬りを打ってくることが分かっているんだ。こちらも必殺の一撃が放てる。相手の頭に一撃を入れるけど、殺さない程度に手加減はできる?」


「それくらいはできるけどさ」


「要は肉を切らせて骨を絶つ作戦さ」

 

 エクスに向けてウィンクすると、彼女の制止を振り切り、それを実行する。

 僕の予想通り、スニークは大ぶりに袈裟斬りを放ってきた。

 僕はそれに飛び込む。


 ぎょっとした顔をするスニーク。

 そりゃそうだ。このタイミングで飛び込むなんて誰も想像しない。

 だけど、このタイミングで飛び込めば、袈裟斬りの威力を弱められる。

 袈裟斬りは振り切った瞬間がもっとも威力があるのだ。


 ただ、それでもスニークの袈裟斬りは痛かった。

 どれくらいかと言えば、数秒後、気絶してしまうほどに。

 だけど、僕にはその数秒で十分だった。

 その数秒で渾身の一撃をスニークの頭部にぶち込む。


「ぐはぁ」


 と情けない声を上げながら、血しぶきと歯を吹き飛ばすスニーク。

 これで互いに気絶したわけだけど、僕は薄れいく意識の中で思った。

 エクス、ちょっとやりすぎだよ。スニークが死なないといいけど。

 そんなことを思いながら僕は気絶した。





 勝負の行く末を見守るフェンリルとウロボロス。


 ふたりは自分の部下がほぼ同時に気絶した瞬間を見たが、一方は喜び、一方は無表情だった。


 無表情だったウロボロスは吐き捨てるようにいう。


「クズ、め。格下相手に引き分けおって」


 その言葉を聞いたリルは問う。


「引き分け? どうなったらそんな見方ができるのだ?」


「両者致命的な一撃を受けて倒れた。このままではどちらもテンカウント以内に立ち上がるまい」


 ウロボロスはそう言うと、10と数えた。


「そうかな、私は少年が立ち上がると思う。9、8」


「それこそ贔屓の引き倒しだな。7、6、5」


「ひいき目でない。私は少年を信じているだけだ。4、3」


 リルが2まで数えると変化が起こった。

 立ち上がるものがいたのである。

 無論、それは少年であった。新米冒険者のクロムであった。


「な、なんだと? どうしてだ? どうしてあの小僧が立ち上がる」


 驚愕の表情を浮かべるウロボロスに説明をしたのはクロム本人だった。





 8秒ほど気絶した僕は立ち上がる。


 あの強力な一撃を受けて立ち上がれたのはそれでも聖剣を握りしめていたからだ。


 聖剣エクスカリバーには特別なスキルがある。

 それは持つものの回復力を早めるスキル、



【自動回復小】



 であった。


 そのスキルの力を信じてあの作戦を選んだのだが、どうやらその賭けは成功したようだ。


 僕はテンカウント以内に立ち上がり、スニークはまだ気絶している。

 つまりこの勝負、僕の勝ちであった。


 そのことはウロボロス・ギルドの連中も、ウロボロス自身も認めるしかないようで、皆、歯ぎしりをしていた。


 ウロボロスは、


「ええい、胸くそが悪い、帰るぞ」


 と、怒り気味にきびすを返す。


 ウロボロス・ギルドの連中は、


「スニークのやつはどうするんです?」


 と尋ねるが、ウロボロスは怒り心頭のためか、それ以上台詞さえ漏らさず、立ち去る。


 仕方ないのでウロボロス・ギルドの連中は、スニークをかつぐとそのままフェンリル館を出て行った。


 彼らがいなくなると途端に静かになるが、その瞬間、僕は膝から崩れ落ちる。


 蓄積したダメージと緊張感が途切れたせいであるが、そのことを非難するものは誰もいなかった。


 いや、非難するどころか称賛してくれるものしかいない。

 まずは神獣のリルさんがやってきて僕を抱きしめてくれた。


 僕は膝をついており、リルさんは小柄なので胸が顔に当たるが、リルさんはあまり豊満ではないので柔らかくない。


 それでもとても良い匂いがして嬉しかった。

 続いて抱きしめてくれたのはカレンだった。

 彼女は笑顔で言う。


「クロムさまは私の名誉を救ってくださった王子様ですね」


「あ、そういえばスニークに謝罪させてなかった」


「心のこもっていない謝罪よりも、クロムさまの献身的な行為の方が嬉しいですよ」


 彼女はそう言うとリルさんのように僕を抱きしめる。

 

 カレンはリルさんよりも遙かに豊満な身体の持ち主で、女の子独特の柔らかさに満ちていた。


 というか、むぎゅっと押しつぶされる胸が心地よい。

 ただ、それよりも彼女たちが掛けてくれた言葉の方が何倍も嬉しかった。



「少年、よくやった!」

「がんばりましたね、クロムさま」



 そのねぎらいの言葉で、僕の苦労は吹き飛んだ。

 ちなみに最後に聖剣のエクスもこんな言葉をくれた。


「僕の武器スキルはすごいでしょ、クロム。でもね、そのスキルのポテンシャルを生かしたのは君の才能。というか、知力Dなのによくあんな戦法思いついたね」


「もしかしたら知力が上がっているのかもね」


 エクスは冗談で言ったようだが、それは冗談にはならなかった。

 ステータスを開いてみる。



クロム・メルビル 16歳 レベル3→レベル6 新米冒険者 Fランクギルド フェンリルの咆哮所属


筋力 D→D+

体力 D→D+

生命力 C

敏捷性 D+

魔力 D

魔防 D

知力 D→D+

信仰心 D

総合戦闘力 569→953


武器 聖剣エクスカリバー

防具 旅人の服


固有スキル 【なんでも装備可能】

隠しスキル 【英雄の証】

戦闘関連スキル 【剣術D→D+】 【火魔法F】

武器スキル 【自動回復小】 【成長倍加】

日常スキル 【日曜大工C】



 ちょっとだけだが知力がアップしていた。

 それにレベルと他のステータスも。


 スニークを倒したことに比べれば些細なことだったが、それでも少しだけ嬉しかった。

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