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魔狼と円環蛇の戦い

 クロムたちが激闘を繰り広げているころ、山頂付近にて――

 クロムとカチュアを山の中腹に残し、第一〇階層の山脈を駆け上がる。

 この山の名は知らぬが、中腹以降は急勾配(きゅうこうばい)でなかなかの険しさであった。

 もっともリルの足は常人のそれではない。


 人間の女性のしなやかさと獣である狼の健脚を兼ね備えている。さらにいえばリルは世にも珍しいフェンリルの化身。どのような険峻(けんしゅん)も小山にしか感じなかった。

 リルは獣の速度で山に駆け上がる。


 するとそこに剣を交えている集団を見つけた。


 敵の集団は分かりやすい。ほぼすべてが魔法生命体である動く鎧。中には普通の冒険者もいたが、悪党そのものの顔だちをしていた。


 一方、味方のほうはもっと分かりやすい。

 配下たちを鼓舞するように先頭に立ち、弓弦を伸ばす少女。


 金色の髪に白を基調とした衣服と鎧が輝いて見えるのは陽光の反射せいではなく、彼女自身が生命力と気高さに満ちているからだろう。


 この国の第三王女であるユーフォニアは次々と鎧を矢で射貫き、鎧の影を矢で突き刺し、動きをとめていった。彼女の必殺技である【影縫い】は魔法生物にも有用なようであった。


 ユーフォニアが動きをとめると、彼女の部下がとどめを刺す、というのが彼らの基本戦術のようだ。


 まずは彼女一番の配下、クライドという男が鋼の槍を突き立てる。


 その剛槍に突かれれば鎧には風穴が空き、その剛槍が振り下ろされれば動く鎧たちは吹き飛んでいった。


 ユーフォニアの部下たちはなかなか有能な連中が揃っていたが、その中でもクライドという男は特筆に値する剛のものであった。


 これは負けていられない、とリルは手近にいた鎧を掴むと、それを投げる。

 その投擲によって三体の鎧を破壊した。


 それを見ていたユーフォニア姫が叫ぶ。


「リルさま!」


「ユーフォニア姫、無事か!?」


「幸いと現世に足を踏みとどめています。しかし、この奇っ怪な集団はなんでしょうか」


「こいつらはウロボロスとかいう神獣の手下だ」


「神獣様がわたくしの命を狙っている……」


「信じられないか?」


「いえ、心当たりがありすぎて困っているのです」


 ユーフォニアは剛胆に微笑む。

 なかなか肝の据わった娘であった。


「お察しの通りだ。この醜悪な劇の脚本家はお前の叔父だ。役者の方は狡猾な蛇というわけさ」


 リルはそう叫ぶと、その役者を見つめる。

 ウロボロスは数十メートル先でこちらを見つめていた。

 冷酷な瞳、酷薄な表情、げっそりと頬のこけた顔だちはやはり蛇を想像させる。


 虫ずが走るのはリルがほ乳類だからだろうか、それともウロボロスという男は人を不快にさせる名人なのだろうか。


 考え込んでみたが容易に結論が出てきそうになかったので、リルはその顔を二度と見ないで済むようにウロボロスを倒すことにした。


 ユーフォニアに確認をする。


「動く鎧の方はお姫様たちでなんとかしてくれ」


「分かりました。鎧くらいに屈する我らではありません」


 とユーフォニアは矢を二本同時に放ち、二本とも命中させていた。

 なかなかの腕前だ。


「しかし、問題なのはリルさまです」


「どういう意味だ?」


「相手はウロボロスと聞きました。ウロボロスの正体は山よりも大きな蛇……」


「つまり私では勝てないと」


「そうではありませんが……」


「姫は正直だな。絶対勝てない、そんな表情をしているぞ」


「…………」


「安心しろ、私も同じ神獣である。神威を解き放ち、元の姿に戻れば勝機はある」


「まさか!? リルさま、フェンリルの姿に化身なされるおつもりですか」


「ああ、ウロボロスのやつが化身するつもりのようなのでな」


 リルがそう言ったからではないだろうが、見ればウロボロスの目は怪しく光っていた。身体をひくつかせ、身体が痙攣ずるたびに皮膚に鱗が生え、肥大化している。


 あと数十秒もすれば元々の姿、大蛇へと化身するだろう。

 それに対抗できるのはこの場にいる自分だけだった。


「しかし、リルさま、もしも人間界で元の姿に戻ったことがばれれば、リルさまは罰せられます。最悪、神獣界に追放されるかも」


「最悪ではなく、十中八九、そうなるだろうな」


 神獣には決まりがある。


 不文律であるが、人間界で神威を解き放ち、元の姿に戻れば、人間界にいられなくなるのである。


 神獣が強大過ぎる力で人間界に干渉することを禁じた神の掟であるが、その掟は忠実に守られていた。


「ま、ウロボロスのやつも化身するのだから、やつも追放されること前提で挑んでいるのだろうな。この場で姫様を始末し、神獣界に追放されてもお釣りがくる報酬を約束されているのだろう」


「ですがリルさまは違います。もしもこの場で私を救っても大した報酬はありません。ですのでお考え直しください。リルさまはまだこの迷宮都市に必要なお方です」


「その言葉なによりも有り難いが、私は見たくないのだ」


「なにをですか」


「私の大好きな少年が悲しむ姿をだ」


「え……」


 ユーフォニアは最後にそんな言葉を残すが、リルはそれ以上、彼女の説得を聞かなかった。


 ウロボロスを倒すため、全身に力を込める。

 神威を解き放つ。

 化身する。

 ざわ、っと全身を駆け巡る戦慄。

 全身の毛穴が総毛立つ感覚。 

 それが尻尾の先から頭頂まで伝達すると、リルの身体が黄金に包まれる。

 ばきばきと鳴る骨。

 手足から生える銀色の体毛。

 リルがフェンリルになるのに掛かった時間は十数秒だった。

 一方、ウロボロスのやつも変化を遂げていた。

 醜怪で凶悪な大蛇、円環蛇となっていた。

 こうして魔狼と円環蛇の戦いは始まった。

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