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狼の道

 4つのギルド合同によるニア救出作戦。

 それらが決まると細かい作戦会議となった。


 作戦会議はエルトリア伯爵の屋敷の立派な会議室が使われることはなく、迷宮第一階層の名も無き平原で行なわれた。


 それも疾風の速度で走りながら。

 それくらいのスピードで移動しなければニア救出に間に合わないからだ。

 そんな中、交わされる会話。


「第10階層にはウロボロス本隊がいます。彼と戦うのは旧フェンリル・ギルドの僕たちに任せてください」


「水くさいことを言うじゃないか。あたいも行くよ」


 ミリシャは手に持っているハンマーに力を込める。


「ウロボロスと直接戦えばそれこそ弁解のしようがない。僕たちが一方的な悪と断罪されてしまうかもしれません」


「しかし、今、ウロボロスの悪事を調べ上げているのだろう。それさえ揃えばなんの問題もない。それどころか冒険者協会から討伐の任が下るんじゃ」


「証拠が揃えられるか、定まったわけではない」


 リルさんは苦虫を噛みつぶしたかのような顔をする。


「先ほどカレンから連絡があった。情報を集めさせていた盗賊ギルドがここにきて臆し始めたと。どうやらウロボロスは。いや、その背後にいる王弟は根回しを始めたらしい。最悪、迷宮都市の規律に違反したのは我々だと糾弾されるかもしれない」


「……まったく、どこまで腐ったやつだね」


「だけどそのウロボロスを捕縛してしまえば、こちらの勝ちなのではないですか? やつはいわば生きた証拠、それを評議会に突き出せば文句はでますまい」


「やつが生きて虜囚の辱めを受ければな。それに口を割るかどうか」


 リルさんは神妙な面持ちで言う。


「どちらにしろ、情勢は流動的で不確定だ。もしもウロボロス捕縛時に証拠を揃えられず、我々が謀反人として処断されてしまうこともありえる。その場合、この迷宮都市はウロボロスの私物となるだろう。それだけは避けたい」


「つまり?」


「我々、旧フェンリル・ギルドが全滅しても、その他、志のあるギルドには残ってもらいたいということだよ。お前たちに累は及ぼしたくない」


「リル様……」


 ジュカとセリシュは言う。


「だから迷宮第10階層に向かうのはフェンリル・ギルドのものだけとする。残りは9階までだ」


「それは納得がいかない。あたいはサティロス様に辞表を叩きつけてきたんだから」


「その辞表は受理するな、とも伝えてあるよ。ミリシャよ、我々はお前たちを仲間はずれにしているわけではない。お前たちを頼りなく思っているわけではない。逆だ」


「逆?」


「もしも我々が全滅したら、次はお前たちがこの迷宮都市を守るのだ。ある意味、ウロボロスと戦うことよりも困難なことを課しているのだぞ」


「……リルさま」


「お前たちの気持ちは決して無駄にはしない。だから我らを最速で、最短で第10階層へ導いてくれ」


 と、リルさんはいつもとは違う道を走る。

 そこは第2階層に通じる道ではなく、普段、冒険者が使わない道だった。


 どこに連れて行かれるのだろうか。一同はいぶかしむが、リルさんが説明してくれる。

 

「少年、我々は狼の道を使う」


「狼の道?」


 聞き慣れぬ言葉に戸惑う。


「初めて聞く名か」


「はい」


「そうか。まあ、ほとんどの冒険者には秘匿されているからな」


 ただ、中堅冒険者のジュカとセリシュはその存在を知っていたようだ。顔をこわばらせる。


「リル様、狼の道を使うのですね」


 セリシュの言葉は沈痛に満ちていた。

 その言葉によってその道がただの道でないことを知る。


「狼の道は各階層を最短で突っ切る道のことだ。少年はなぜ、そのような便利な道があまり知られていないか気になるのだろう。理由は簡単だ。その道はあまりにも険しく、厳しいからだ」


 リルさんがそう宣言した瞬間、道の奥からひときわ大きなオークが現れる。

 最初はオークではなく、トロールかと思ったが違った。


 目の前に現れたオークは正真正銘のオークだった。緑色の肌と豚のような鼻と耳を持っている。


 僕たちは一斉に武器を取る。


 ここにいるのは双剣使いのジュカに琥珀の守り手セリシュ、それに僕とミリシャにカチュア、そして神獣のリルさん。


 オークごときに遅れを取るはずなどなかったが、結局、僕らはオークとの戦闘に10分ほど時間を費やした。


 急いた僕がオークの攻撃を食らってしまい片腹に傷を負ってしまう。


 回復術士であるセリシュに治してもらうが、それで数分、行軍が遅れたのが口惜しかった。


「少年よ、戦って分かったろうが、この道に現れる魔物は各階層のボスにも匹敵する。しかし、それでも通常のルートを通るよりも早く着く」


 我々はそのような獣道をひたすら走らなければならない。

 リルさんは改めて皆を見回すと、それでも付いてこられるか? と尋ねた。

 付いてこられないのであれば引き返してもよい。誰も責めない。と付け加える。


 その言葉を聞いたジュカは笑う。


「ご冗談でしょう、リル様。ここまできて引き返すなど、笑いものになります。もしも引き返せばこの双剣使いジュカの名は臆病者の代名詞となりましょう」


 琥珀の守り手セリシュも首を横に振る。


「右に同じです。むしろ先ほどの言いつけを破って第10階層まで一緒にお供をしたいくらいなのです。そんなことを言われたら逆に闘志に火が付き、第10階層までついて行ってしまいますよ」


 ミリシャは三人の意見をまとめる。


「というわけさ、神獣様にクロム、これ以上、御託を並べる暇があったら、体力を温存しておいておくれ。あんたたちには第10階層に付いたら死ぬほど暴れてもらうんだから」


 ミリシャはそう言い切るとハンマーを持つ手に力を込める。

 そしてその場で回転を始めると、それを投擲した。

 ハンマーを投げた瞬間、ハンマーは炎に包まれ、巨大化する。


 それはまっすぐに、燕の飛行のような速度で茂みの奥に潜んでいた魔物たちに攻撃を加えた。


 茂みの奥に潜んでいたコボルトたちは、その一撃によって全滅した。

 あまりの光景に僕はミリシャの瞳を見つめる。


「これが私のハンマー、【アグニの槌】の真の力さ。聖剣には遠く及ばないが、これくらいの芸当はできる」


 ミリシャの鍛冶屋として腕前は知っていたが、まさかこのように戦士としても一流だとは夢にも思っていなかった。


 僕は改めてリルさんを見つめると、こう思った。


(この人に喧嘩は売らないでおこう)

 と――。


 リルさんは僕の心を読んだわけではないだろうが、終始、にやにやと僕を見つめていた。

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