表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
116/131

名門エルトリア家

 僕たちは駆け足でニアのところに向かう。


「お姫様はどこに住んでいるのだ?」


 道中、先頭をひた走るリルさんが話しかけてくる。


「ニアは珊瑚街(コーラル・タウン)に住んでいるそうです」


「珊瑚街か。高級住宅街だな」


 さすがはお姫様ね、とはカチュアの言葉であった。


「ニアは珊瑚街にある貴族の家に滞在しているそうです」


「ほう、貴族か。姓名は?」


「ファルナック・エルトリア。爵位は伯爵号らしいです」


「名門エルトリア家か。ならば大層立派な家なのだろうな」


 リルさんがそう述べると、珊瑚街に入る。


 珊瑚街は前述の通り、高級住宅地であった。この迷宮都市イスガルドでも一二を争うほどの。


 珊瑚街にある屋敷は最低でもフェンリル・ギルド以上の敷地を持っており、最低でもフェンリル・ギルドの倍は立派な造りをしていた。


 まさしく高級住宅地で、フェンリルの館付近にある雑多感が一切無い。


 ところどころに樹木が植えられており、そこからヒバリの鳴き声が聞こえてくるほど上品な町並みだった。


「まさにこの世の天国ね」


 カチュアは皮肉を込めて言う。彼女はお金持ちに偏見を持っているようだ。


「でも、こんな場所をウロボロスのやつが襲撃してくるかしら」


 当然な疑問を口にする。


 この珊瑚街の警備は厳重だ。各邸宅、最低でもふたりは門の前に衛兵を置いている。


 また数十メートルごとに迷宮都市の治安を守る護民官がおり、彼らが必ず詰問してくる。


 僕たちはそのたび、フェンリル・ギルドの身分証を提示していた。


「ここまで厳重なら、敵は近寄れないかもしれないね」


 カチュアはそう言うが、僕は、

「かもしれない」

 を基準に行動したくなかった。


 もし、翌日、迷宮都市の新聞にニアの名前が出るようなことになったら、僕は耐えることはできないだろう。一生後悔する。


 それだけは避けたかった。

 なので僕はリルさんを抜かすと先頭を走りながらエルトリア家に向かった。

 エルトリア家は珊瑚街の中心部、その中でもひときわ立派な建物を所有していた。


 さすがは貴族の中の貴族、臣下の中の臣下、武門のエルトリア家と呼ばれるだけはある。


 そのたたずまいは家格に見合うものであった。

 僕たちはそのエルトリア家の門を叩く。

 すぐにその家の家人が現れる。

 それと門番も。

 僕たちの形相を見て剣呑な雰囲気を感じたようだ。

 要は僕たちが怪しさ全開なのだが、すぐにその誤解を解く。

 身分証を出す。

 リルさんに至っては神獣しか持っていない護符(アミュレット)を見せる。

 それですぐに僕たちが悪意有る人物ではないと理解してもらえたようだ。

 門番は言う。 


「あなた方が王女がよく話すフェンリルの方々ですか」


「悪口ならば全部嘘だぞ」


 リルさんは冗談めかしていうが、門番はとんでもない、と言う。


「王女は常日頃からあなた方を褒めていました。なんでもクロロとかいう少年はとくに有望な冒険者であるとか」


「少年の名前は覚えにくいらしい」


 苦笑を漏らすリルさん。


 僕はあえて訂正せずに門番に取り次ぎを頼んだ。


「その王女、ニアに……、いいえ、ユーフォニア姫に取り次ぎ願えないでしょうか」


 僕たちが急いでいると分かっている門番はこくりと頷くと屋敷の奥に消えた。

 5分後、戻ってくる。

 門番はうやうやしく頭を垂れる。


「エルトリア様が面会されるそうです」


「エルトリアが?」


「エルトリア様ってこのお屋敷の主の伯爵様よね?」


 とカチュアが尋ねてくる。


「たしかそうだけど」


 この屋敷の主はファルナック・エルトリアという伯爵で、ニアとは浅からぬ縁があり、屋敷に滞在させてもらっていると聞いた。


 ニアはあまり人には話さないが、王都に居場所がなく、幼き頃から家臣の家や修道院などを転々としていたらしい。今、迷宮都市に滞在しているのもその延長線上と聞いている。


 ニアの笑みを思い出す。


「エルトリア伯はわたくしのもうひとりの父上のようなお方。もしもわたくしがこの迷宮都市から去ったときは、以後、伯を頼ってください」


 そんなことを言われた記憶がある。

 ならばまず先に彼に会っておくべきかもしれない。

 そう思った僕は屋敷に入れてもらうと、伯爵の執務室へ向かった。



 伯爵の屋敷は外観以上に中身も豪華であった。


 広々とした空間、造りの良い内装。ところどころに置かれた調度品も拡張高く、気品が漂っている。


 それらを鑑賞したいところであるが、僕らは貴族の屋敷に遊びにきたわけではなかった。


 早く伯爵に用件を伝え、ニアと面会したかった。


 急くようにこの屋敷のメイドのあとを付いていくと、彼女が執務室の扉を開けるのを待った。


 大きな扉が華奢なメイドによって開かれる。

 光が目に飛び込む。

 大きな窓がいくつもあり、外光が室内にたくさん入る造りになっていた。

 また大きな本棚がいくつも並べられており、びっしりと本が収められていた。

 魔術師であるカチュアが嘆息する。


「ああ、これは不死者ロンベルクの書、それにブルードラゴンの書、あそこにあるのはマジ=マガル。古代王国年代記もあるわ」


 どうやらこの書斎の主は教養豊かな人物のようだ。


 カチュアの表情でそれを察した。僕はその教養豊かな人物が座っているであろう椅子を見る。


 大きな窓の手前、立派なカーテンのすぐ前にある机と椅子。

 革張りの椅子と紫檀で作られた立派な机の前に初老の男が座っていた。


 いや、初老ではなく壮年かもしれない。真っ白な髭に髪を蓄えているが、それらは白髪ではなく、銀髪のようにも見えた。


 男はその野太い声を立派な口ひげとあごひげの間から振るわせる。


「初めまして、かな。ユーフォニアからいつも聞かされているから、初めて会った気はしないが」


「こちらは初めましてだな。貴殿のようなやんごとなき貴族と会う機会などそうそうないからな」


 臆さないどころか、軽く皮肉を添えるあたり、リルさんの面目躍如であろう。

 彼女は大貴族の前に立っても、神獣としての気高さ、誇りを失うことはなかった。

 カチュアは小声で耳打ちしてくる。


「やるね、うちのボスは」


 神獣と伯爵ってどっちが偉いのかしら、と続ける。


 神というくらいだからリルさんであることを願っているが、この場で偉さは関係なかった。


 僕たちは王女であるニアの友人として、伯爵に願い出た。

 率直に、正直に、すべてを彼に話すことにした。


 僕たちは豪壮なソファーに座り込むことなく、これまで起きたこと、そしてこれから起こるかもしれないことを伯爵に話した。


 その話を聞いた伯爵は一段階、表情をこわばせると、

「その知らせ、なによりもの情報である」

 と結び、いったん、僕らに席に座るようにうながした。

明日、7月30日、本作の2巻が発売します。

早いところではもう本屋に並んでいるかもしれません。


2巻もとても素晴らしいイラストが見れますので、是非、購入して頂けると嬉しいです。

web版、書籍版、双方、応援よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ