ウロボロス・ギルド 再び
僕たちは刺客を追う。
どこに逃げるかは分からない。
だが、どこまでも彼らを追い詰め、ウロボロスに正義の裁きを受けさせたかった。
僕たちは肩で息をしながら刺客を追いかけるが、彼らを捕捉したのはとある貧民街の一角であった。
この迷宮都市イスガルドにも貧民街はある。
そこは流れ者や犯罪者のたまり場になっており、極端に治安が悪い。
まともな市民が立ち寄る場所ではなかったが、刺客など引き受ける連中にはさぞ居心地がいいのだろう。
そう解釈すると、男たちは逃亡を諦め、腰から剣を抜いた。
皆、刀身を煤で黒く塗っている。
暗闇で有利に戦うための工夫だ。あるいはその刀身には毒が塗られているかもしれない。中には怪しげな色の粘液が付着しているものもある。
カチュアはそれを見て、
「絵に描いたような暗殺者ね」
と笑った。
リルさんも同様に笑うが、こう付け加える。
「やはりこいつらは最初から我らをおびき出す作戦だったらしい。増援がごろごろ出てくるぞ」
「それは覚悟の上ですよ」
僕はそう言うと無言で聖剣を抜き放ち、剣閃を加える。
悪党相手に名前を名乗っても仕方ない。
それに向こうはこちらを殺そうと目が血走っていた。手加減など不要であった。
「それでも殺傷能力を最小限にするのはクロムの甘さだよね」
と聖剣は皮肉る。
たしかに甘いのだろうが、できれば人殺しは避けたかった。
「その甘いところがクロムの魅力だけどね。でもそんな言葉、墓碑銘には刻みたくないから死なないように注意してね」
「分かってる!」
と、僕は刺客のひとりを峰打ちで気絶させる。
泡を吹き、床に転がる刺客。
「殺さない理由はそれだけじゃない。こいつらを尋問してウロボロスに居場所と真の目的を聞き出さないと」
「真の目的?」
「なぜ動く鎧を大量に生産していたか、それを使ってなにをするか、それを知りたい」
「なるほど」
「なんか悪い予感がするんだ」
「悪い予感?」
「なんかこううなじの辺りがぞわぞわする」
「するとどうなるの?」
「前、ぞわぞわしたときは村でお世話になっていた村長が死んだ。その前は家畜小屋に狼が入り込んで家畜を何匹も食い殺された」
「つまり凶事センサーというわけだね」
「外れてくれるに超したことはないけど」
それでも嫌な予感が払拭されない僕は急くように刺客を倒していく。
リルさんもそれは同じようで、手を抜くことなく刺客をぼこぼこにしていた。カチュアは前線に出ることなく、後方から支援魔法を放っている。
この三人の連携に敵うわけもなく、刺客は倒されていく。
十人を超えていた刺客たちも次々倒される仲間をみて戦意を喪失していく。
ひとりが戦闘を離脱すると雪崩を打つかのように消えていく刺客。
僕とリルさんは彼らの背中を見送る。
「追わないの?」
「追う必要はない。証拠はたくさん手に入れた」
証拠とは目の前に倒れている刺客10名のことだろう。
リルさんは意地の悪い顔で言う。
「10人もいれば途中、拷問に耐えられずに死んだとしてもなんとかなる。いや、5、6人、むごたらしく死ねばあっさり情報を吐いてくれるかもしれぬ」
その言葉を聞いた刺客のひとりは心底怯えていた。
それを見てカチュアはささやいてくる。
「ねえ、クロム君、リルさんのあれって本気なの?」
「冗談だと思うよ」
たぶんだけど、とは付け加えなかった。
結局、刺客のひとりがあっさり情報を吐きだし、ウロボロスの真の目的が判明したからだ。 刺客は怯えながらウロボロスの悪事を披瀝する。
その悪事を聞いたとき、一番、戦慄し、衝撃を覚えたのは僕だったのかもしれない。
刺客の言葉を聞いたとき、僕は手を振るわせてしまった。
刺客は言う。
「ウロボロス様の目的は動く鎧を使ってこの国の第三王女を暗殺するつもりだ」
この国の第三王女。
その言葉とニアの顔を最初に結びつけたのは僕だった。
遅れてリルさんも気がついたようだ。刺客の胸ぐらを掴む。
「お前たちは恐れ多くもユーフォニア姫を暗殺するつもりか」
「……そう聞かされている」
「王家に喧嘩を売るつもりか。神獣とはいえ、ただではすまぬぞ」
「それはどうかな。我がウロボロスギルドはやんごとなき方や評議会の支援がある」
「……つまりそれは姫様暗殺に関わっている連中が大物ということか」
刺客はにやり、と口元を歪める。
これほど醜い笑顔はなかなか見られるものではなかった。
殴りつけたい衝撃に駆られたが、僕は右手を握りしめるだけで耐えた。無抵抗な人間を殴りつけたくはなかった。
僕は心を落ち着ける。
焦燥感で胸が張り裂けそうであったが、ここで慌てたら敵のもくろみ通りであった。
僕は冷静にニアの居住地を思い出し、そこに向かうように提案した。
リルさんとカチュアはそれに従ってくれる。
刺客たちは魔法で連絡を取ったミリシャたちになんとかしてもらうことにした。
しっかりと縄で縛り上げ、逃げないようにしておく。
そのままニアの元へ向かうかと思ったが、リルさんは最後に、にまぁ、と笑って、少年はあっちのほうを向いておくように、と言った。
火急のときなので指示に従うと、一秒後、「ボコッ!」という音が聞こえた。
見れば刺客のひとりが仰向けになり、殴られていた。
リルさんらしいと思ったのでなにも言わなかった。
十数秒後、応援の部隊がくる。
僕たちはミリシャたちがくるとそのまま脱兎のような勢いでニアのもとへ向かった。
明日、7月30日、本作の2巻が発売します。
早いところではもう本屋に並んでいるかもしれません。
2巻もとても素晴らしいイラストが見れますので、是非、購入して頂けると嬉しいです。
web版、書籍版、双方、応援よろしくお願いします。




