刺客、襲撃!
サティロス・ギルドに送り込まれた刺客は計8人。それぞれが凄腕の冒険者だった。
ただ、襲いかかった相手が悪い。
彼らはこの館にリルさんがいるとは知っていたようだが、サティロスさんまでいるとは知らなかったようだ。
サティロスさんの腕前は言わずもがな。
武芸百般に通じる怪力の持ち主。
リルさんいわく、
「神威を使わない勝負ならば、私でさえ負ける」
と言わしめるほどの達人であった。
実際、8人の刺客はサティロスさんひとりに蹴散らされ、捕縛されていった。
あっという間に倒され、数を減らしていく刺客たち。
彼らはすぐに形勢が不利だと悟ると撤退を始めた。
「ち、小賢しい」
と漏らすサティロスさん。
館の中ならばいくらでも迎え撃てるが、外に出て追いかけ、戦うのはできない。
人間界への不干渉、それが神獣の掟であった。
「ならば僕が追います」
そう宣言するが、二匹の神獣は眉をしかめる。
「クロム少年、お前の実力は我々が誰よりも知っているが、おそらく、これは罠だ。お前をこの館から引き離し、個別に捕らえる気だろう」
「ですが、このまま捨て置けません。ここで一気に片を付けたい」
「少年の言に賛成だ」
と袖を巻くし上げるリルさん。
「私も行くぞ」
「え、でも、リルさんは神獣じゃ」
「ウロボロスのやつも神獣だ」
「でも、あいつは裏で動いているだけで、決して表には出てきません」
「裏で動いている証拠を押さえればいい。やつの悪事を調べ上げ、評議会に出せば私が罪に問われることはない」
心配する僕をよそにリルさんは続ける。
「今、知り合いの盗賊ギルドに調査を頼んでいる。あと数日で証拠は揃うそうだ。やつを自由にするより、乗り込んで縛り上げた方がいい。このままだと逃亡される恐れもある」
「分かりました。ではふたりで行きましょう」
リルさんは首を横に振る。
「ふたりだけではないさ。我がギルドには頼れる家族がいる」
そう言うとタイミング良く扉が開く。
そこにはとんがり帽子をかぶった美しいエルフ、カチュアさんがいた。
「クロム君、こんな一大イベントがあるのに招集しないだなんて、お姉さんをのけ者にする気?」
少し怒り気味にカチュアは言った。
これでフェンリル・ギルドのメンバーはすべて揃った。
カレンも今、盗賊ギルドにいるらしいから、全員がこの事件を解決するため、奔走していることになる。
今ほど仲間が有り難い、心強いと思ったことはなかった。
僕は頼れる仲間に背中を預けながら、駆け足でサティロスの館を出て行った。
クロムたちが立ち去る姿を見送るサティロス。
ミリシャに声を掛ける。
「気持ちよい連中だな」
「そうですね」
「自分のためではない。誰かのために120パーセントの力を出せる男。それがオレは英雄の器だと思っている」
「ならばクロムはそうですよ。なんの躊躇もなく、あたいの弟を救ってくれました。今回の件だってあたいが事件の大本なのに恨み節ひとつ言わない」
「ふ……、そういう連中には力を貸したくなる。評議会の中にはウロボロスを支援する悪党もいるだろうから、今から多数派工作をしておくか」
「……珍しいですね、サティロス様が政治工作だなんて」
「政治工作など好かんよ。だが、それであやつらが助かるのならばいくらでもしよう。あやつらが元気に生きておらねば、この先、この迷宮都市は暗闇の底に沈むことになろう」
「それはそうですね。クロムのいない迷宮都市だなんて、目玉焼きのない目玉焼きハンバーグみたいなものです」
「言い得て妙だな」
サティロスはもう一度笑うと誰もいなくなった館を見回した。
できればもう一度、少年と手合わせしてみたいものだ。
次に戦うときの少年はきっと前回よりも強くなっているだろう。
それだけは確信を持って断言することができた。




