はじめての二つ名
その後、三日間、サティロス様に稽古を付けてもらう。
彼は先ほどの一戦ですっかり僕のことを気に入ってくれたようだ。
「あのフェンリルがご執心になる理由も分かった。人間に器があるのだとすれば少年のそれは底が見えない」
と称賛してくれた。
「僕のどこに可能性を感じてくれたのですか?」
尋ねてみる。
「剣技は未熟だ。ステータスも見るべきところはない」
「それじゃスキルとか?」
僕には【なんでも装備可能】という固有スキルと隠しスキル【英雄の証】がある。それを見初めてくれたのだろうか。
しかし、神獣様は首をゆっくり横に振る。
「まさか。ステータスには惑わされない主義でね。たしかに君の固有スキルも隠しスキルもレア中のレアだが、唯一無二の個性というわけではない。似たようなスキルを探せばいくらでもあるだろう」
「……ですよね」
「だが、君の中に宿る勇気は本物だ。君は神獣であるオレにも恐れず斬りかかってきた。こちらが圧倒的な殺意を送っているのにもかかわらずだ」
「まさか、本気で殺す気だったんじゃ……?」
ミリシャが尋ねてくる。
「さすがにそこまで子供ではない。送っていたのは殺気だけだ。しかし――」
「しかし?」
「最後に放った肩口の一撃、あれは大人げなく力を込めてしまった。もしも肩にお前の作った鎧がなければ少年は絶命していただろうな」
ミリシャは表情に困っているようだ。
鎧を褒められたことを喜べばいいのか、それとも僕が死にそうになったことに抗議すればいいのか、分からないと独語している。
素直に喜ぶべきです。そうアドバイスをする。
「ミリシャさんの鎧が最強であると証明されたようなものです。僕もそれを信じて肩口であの一撃を受けたのです」
「ほう、あの一瞬でそんな判断を。さすがは少年だ。その機転も冒険の役に立つだろう」
改めて肩口の鎧を手でなぞる。
なめらかな金属でわずかばかりの傷も付いていなかった。
これならばドラゴンの爪さえはじき返せそうだった。
自分の命を救ってくれた鎧と、それを作ってくれた名工に感謝を表す。
「ミリシャさん、あらためてありがとうございます。この鎧に命を救われました。そしてこれからも何度も救われることでしょう」
ミリシャは鼻の上を人差し指で掻きながら言う。
「まあ、役に立ちそうでこちらも嬉しいよ」
少し照れている。豪放な性格と容姿をしているが、照れ屋の一面もあるミリシャであった。
彼女は気恥ずかしさを誤魔化すため、こんな提案をしてくる。
「さて、クロム、稽古も付けてもらったし、そろそろあれを見ないか?」
「あれ?」
「クロムの女装姿のことだよ」
と茶化すのは聖剣。
まさかそんなものを見たい人間がいるわけもなく、少し思考を巡らせるとミリシャのいう「あれ」を思い出す。
そもそもこの闘技場へは防具のテストをしにきたのだ。
この防具をまとえばどれくらいの力を発揮するか、それをたしかめにきた。
三日間も鎧を装着し、神獣様に稽古を付けてもらった成果を数字で見るのは当然かもしれない。
そう思った僕はステータスを開示する。
「ステータスオープン!」
クロム・メルビル 16歳 レベル11→13 冒険者 Dランクギルド フェンリルの咆哮所属 『二つ名 新進気鋭の聖剣使い』new
筋力 C
体力 C+
生命力 C+
敏捷性 C
魔力 D+→C
魔防 D+
知力 C
信仰心 D+→C
総合戦闘力 1853→2411
武器 聖剣エクスカリバー
防具 旅人の服・改 トリネコの木の円形盾 ダマスカス鋼の部位当て new
固有スキル 【なんでも装備可能】
隠しスキル 【英雄の証】
戦闘関連スキル 【剣術C+】 【火魔法E】→【火魔法E+】 【対槍術E】 【対ゴーレムE】 【万能武術F】→【万能武術E+】 【基礎魔法G】→【基礎魔法E】 【対蜂型モンスターB】new 【盾攻撃E】new 【斬鉄E】new 【居合い抜きD】new
武具スキル 【自動回復小】 【成長倍加】 【耐火C】 【各種属性耐性F】new
日常スキル 【日曜大工C】【女装適正B】new 【水泳C】new
必殺技 ファイアブレード new サンダーブレード new
そのステータスを見て驚きの声を上げたのはリルさんだった。
「少年、見てみろ! 二つ名が付いているぞ」
「二つ名!?」
まさかという目で確認してみるが、たしかに付いていた。
『二つ名 新進気鋭の聖剣使い』
ステータスの最初の方に堂々と輝く文字。
僕は驚きの声を上げる。
「二つ名とはそれ相応の実績を残したものにしか付かない冒険者のステータスだ。まさかこんなにも早く付くとはな」
うなるリルさん。
ミリシャも同様のことを言う。
「たしかにすごいよ、クロム。そのレベルで二つ名は珍しい」
それに、と彼女は続ける。
「戦闘力が大幅にアップしている」
「それはミリシャさんの鎧のおかげですよ」
と言う。
2レベルアップしたこともあるが、たぶん、鎧だけで総合戦闘力が400以上はアップしているだろう。
やはりミリシャさんは名工であった。
素直に礼を述べると、彼女は謙遜する。
「いや、すべてはクロムのがんばりだよ。鎧なんてものは結局、着る側の力の方が重要なんだ。そのポテンシャルを発揮するには持ち主の力の方が重要なんだよ」
「そのとおりだ。クロム少年。少年はもはや駆け出しの冒険者ではない。一人前の冒険者だ。一人前の冒険者らしく、胸を張り給え」
サティロス様がそう勧めてくれるが、増長することはできなかった。
ここまで成長できたのは、目の前の神獣様たちのおかげであったし、ここまで総合戦闘力を伸ばせたのは手に持っている聖剣、背中にくくりつけているトリネコの盾、そして今まとっているダマスカス鋼の鎧のおかげであった。
もしもそれらのどれかを手に入れていなければ、今の僕はここにいなかっただろう。
そう考えればあまり慢心できない。
そのことを話すと、彼ら彼女らは笑った。
「相変わらず謙虚な少年だ」
と――。
ひとしきり笑いが起こると、ミリシャがこう締めくくる。
「まあ、仮にクロムの実力がすべて運に基づくのだとしてもそれはそれでいいじゃないか。冒険者に必要なステータスのひとつだ」
うむ、と大きなあごひげと口ひげを縦にゆらすサティロス様。
その言葉を聞いたミリシャは最後にこう茶化す。
「仮にすべてが運や他人のおかげだとしても、ひとつだけクロムには自らの才能で身につけたスキルがあるじゃないか。それを大事におし」
「僕が自ら生み出したスキルですか?」
「ああ、100パーセント天然で、クロムの素質そのもののスキルだよ」
ミリシャはそう断言すると、そのスキルを指さした。
そのスキルとは、
【女装適正B】
であった。
「…………」
僕は沈黙するしかなかったが、その冗談を聞いたリルさんは「ふむ、たしかに」と真剣な面持ちで納得していた。
腰の聖剣も「そうだねえ」と感慨深げに同意している。
茶化されたり、冗談にされる方が何倍もましだな。
そんなことを思いながら、僕はその場にいる全員からの視線を受け取った。
神獣リルとヴァイクの娘ミリシャがはしゃいでいる中、サティロスは話題の中心であるクロム少年を見つめる。
彼女たちがはしゃぐように、なかなかの美少年であった。
女装をさせればさぞ似合うだろうし、化粧も映えることだろう。
一度見てみたいものであるが、クロム少年の表情から察するに、女装など潔くしない男気あふれる性格なのだろう。
ならばそのような無茶な要求は差し控えるべきである。
それにサティロスが本当に見たいのはクロム少年の『可能性』であった。
彼はどこまで成長していくのだろうか。
それに興味が尽きない。
やがてあの『聖剣』の使い手に相応しい男になることは確実だろう。
聖剣の秘められた力をすべて解放し、そのポテンシャルをいかんなく発揮させるだろう。
そして少年はやがて聖剣の『鞘』を手に入れるかもしれない。
そうなれば――、
サティロスはあえてその先を続けなかった。
このまま未来に思いをはせていたかったがとあることに気がついたからである。
「4匹……、いや、5匹か……」
窓から外を見下ろす。
そこには得体の知れないものたちがうごめいていた。
十中八九、この館を狙ってきたものたちだろう。
先日の事件の黒幕が事情を知る人間を始末しにきた、というところか。
「しかし、それにしても舐められたものだな」
サティロスは漏らす。
ここには神獣が二匹いる。
それだけでなく、未来の英雄候補までいる。
それをたったの数人で強襲するなど、あほうのすることであった。
あほうにはあほうの末路がある。
サティロスはそう思いながら壁に立てかけられた斧を手に取った。
一方、フェンリルもそのことに気がついたようで神妙な顔になっていた。
こうしてサティロス・ギルドでの戦いが始まった。




