戦斧使いのバデン
人質を失い計画が台無しになった悪漢ども。
その怒りは当然のように僕に向かう。
「おのれ、小僧め! 生きて帰れると思うなよ!」
悪漢の首領格と思われる大男はそう叫んだ。
五臓六腑に染み渡る怒声である。
その声量だけでもこの人物が凡人ではないと察する。
実際、大男は凡人ではなかった。
彼は名乗りを上げながら、大きな斧を振り上げる。
「我が名は戦斧使いのバデン! その斧で切り裂いた冒険者の数は知れず。お前もこの斧の錆としてくれるわ!」
ついで振り下ろした大斧の威力はすさまじかった。
「やばい」と思った僕はつばぜり合いをしていた連中を蹴飛ばすと、後ろに跳ねた。
その瞬間、先ほどまで僕たちがいた場所に大きな穴が開く。
「味方まで一緒にやる気なのか」
そんな声が漏れてしまうが、その一撃で心が凍えたのはたしかだ。
バデンの部下たちも彼の性格を熟知しているのか、特に気にしてはいない。
「……参ったな」
僕は吐息を漏らす。
「どうしたのさ、クロム」
聖剣が尋ねてくる。
「僕の計算だと作戦を実行する前に数人は切り倒しているはずだった。でも、まさかこんな強敵がいるだなんて夢にも思わなかったよ」
「あの大男強そうだね」
珍しく神妙な口調で言う聖剣。
「強いなんてもんじゃないよ。たぶんだけど、相当な実力者だ」
僕はステータスを見てみる。
通常、自分のステータスには保護が掛かっているが、中にはあえてそれをしていないものもいる。
戦闘中、ステータスを見せつけて相手を威嚇するのだ。
このバデンもそのたぐいだった。
バデン 34歳 レベル28 戦士 ?????所属
筋力 A
体力 A+
生命力 B+
敏捷性 B
魔力 F
魔防 F
知力 C
信仰心 C+
総合戦闘力 4590
武器 戦斧+4
防具 蛮族の鎧+3
固有スキル ???
戦闘関連スキル 【斧A】【格闘術B】【匹夫の勇B】【頑健B】
ステータスを見た聖剣の感想。
「な、なにこれ、レベル28って!? しかも総合戦闘力も高い」
「開示されている情報だけでこの強さだよ。隠している固有スキルや必殺技を入れたら、もっと強いかも」
「や、やばくない? 今のクロムじゃ勝てないよ」
「頭に絶対を付けてもいいよ」
僕はそう言うと、斬りかかってきたバデンの部下を一刀のもと切り捨てた。
もちろん、峰打ちでだけど。
「……バデンの部下はそんなに強くないみたいだ。やつさえなんとかできればどうにかなる」
「なんとかってどうするの」
「当初の作戦どおりさ。やつらに墓穴を掘らせる」
僕はそう言うと回り込み、場所取りに命を懸ける。
その間、彼らの部下が襲いかかってくるが、それはなんとか避けたり、受けとめたりする。
僕は耐えに耐え、その間、敵が遠距離攻撃をしてくるのを待った。
「遠距離攻撃? 敵に弓使いはいないみたいだけど」
「でも、魔術師はいるはずだろ。そろそろ出てくるはずだ」
聖剣にそう返した瞬間、隠れていた敵の魔術師が出てくる。
ぞろぞろと動く鎧を引き連れて。
魔術師は手際の悪いバデンを叱責する。
「ええい! ガキを逃がした上にこんな雑魚に手こずりおって。俺が手本を見せてやる!」
魔術師は魔法の詠唱を始める。
古代魔法言語を唱えると、彼の後方にある地底湖が波打つ。
水が怪しげな色を帯びると、水の塊が浮かび上がり、それがうねり始める。
やがてそれは竜の形となる。
魔術師は叫ぶ!
「これは古代禁呪魔法のひとつ、《水竜の一撃》だ。これを喰らったものは全身の骨が砕け、もがき苦しみながらあの世へいけるぞ」
ご高説有り難い。ならば喰らわないようにしなければ。
そう思いながら僕は水の竜の一撃をかわす。
ぎりぎりのぎりぎりで。まさしく紙一重で。
なにも格好つけてそのような避け方をしたわけではない。
そのような避け方になってしまったのは、ひとつに敵魔術師の魔力が想像以上に高かった、それにつきた。
しかし、それはある意味幸運だったかもしれない。
そのおかげで悪漢たちは僕の作戦に最後まで気がつかなかったのだから――。
かろうじて避けた水流の一撃、それは僕の後方まで勢いよく突き進んだ。
その威力を弱めることなく、その殺傷力を失うことなく。
なかなかに見事な魔法だったが、それが敵たちにとって仇となった。
敵の渾身の攻撃は、『運悪く』そこを偶然通りがかっていた神獣に命中してしまったのだ。
――真実はタイミングよく飛び出してきたリルさんに命中しただけなのだが、リルさんが唱えた《記録》の魔法によれば敵が一方的に襲いかかってきたように見えるのが『味噌』であった。
この世界では『人間同士』の争いに神獣が介入するのは御法度であるが、神獣にも自衛の権利が認められていた。
いきなり禁呪魔法を喰らわせられたのは、武力介入の口実となる。
彼女は《水竜の一撃》を右手で受けとめるとそれを手のひらで握りつぶす。
にやり、と笑みを浮かべ声高に叫ぶ。
「我は【フェンリルの咆哮】のギルドマスター、魔狼フェンリルなり! 今の攻撃、我への攻撃と見なす!」
その言葉を聞いた瞬間、戦斧使いのバデンは表情を青ざめさせた。
リルさんの総合戦闘力は低く見積もって20000、
一方、バデンの方は4590しかない。
単純に計算しても4倍以上実力が離れていた。
バデンは表情を青ざめさせながら大斧をかまえた。




