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新スキル獲得 †

 リルとクロムの戦いは圧倒的にリルが有利だった。

 なぜならばリルのステータスは、

  


リル レベル? 神獣フェンリル ギルドマスター 二つ名 汚れなき賢狼


筋力 B+

体力 B+

生命力 A

敏捷性 A

魔力 C+

魔防 B

知力 B

信仰心 E

総合戦闘力 28090



 というものであった。

 総合戦闘力773のクロムなど敵ではない。

 小指だけで倒せるほどであったが、リルはもちろん、全力は出さなかった。

 リルの目的はクロムを倒すことではないからである。

 リルの目的は彼の力を計り、彼の持っている聖剣の力を引き出すことであった。

 なのでわざと自分に弱体化(デバフ)の魔法を掛けると、その能力を激減させた。

 今のリルの戦闘力は1000ちょうど。

 クロムを上回るが、圧倒するというほどではなかった。

 ゆえに結構いい勝負が繰り広げられていた。


 クロムの聖剣がリルの脇腹に飛び込んでくると、リルはそれを硬質化した右手で受け流し、左手をクロムの顔に振り落とす。


 クロムもそれを避けると、今度は器用に突きを入れてきた。


「なかなか見事な剣術じゃないか、少年」


「田舎でみっちりと姉に仕込まれましたからね。Dランクにするのに半年もかかりましたが」


(たったの半年!? たったの半年で剣術スキルをそこまで上げたというのか)


 やはりこの少年は凡人ではない。そう思った。


 通常、ちゃんとした剣の指導者のもとで真面目に修業をしても、半年では剣術レベルをGからFにできるかどうかというのが世間の常識であった。それを目の前の少年はたったの半年でGからDに引き上げたというのか。


 その話が本当ならばこの少年は天才なのかもしれない。

 そう思いながらリルは蹴りを入れた。

 本気の蹴りだ。


 リルのすらりとした足から繰り出される蹴りは、見た目よりも遙かに速く、鋭い。その一撃は雄牛も悶絶させるが、その一撃を食らった少年もまた悶絶していた。


「ぐ、ぐはっ」


 と、胃液をまき散らしている。


「戦闘中によそ見をするとこうなる」


 リルは訓告を与えたつもりだった。

 能力は同等まで下げているが、勝負に手加減をするつもりはない。

 リルはこのまま攻撃を加えるつもりだ。

 命までは奪わないが、それでも容赦なくねじ伏せる。

 それがリルの教育哲学であったが、その哲学は実行できなかった。


 なぜならば、胃液をまき散らして倒れたかと思われるクロムがいきなりこちらの方に覆い被さってきたからだ。


 彼は見たこともないような速さでリルに向かってくると、そのまま抱きしめてきた。


「な、ば、馬鹿もの、やめろ、ここは野外だぞ」


 自分でも馬鹿な台詞だと思った。ならば屋内ならばいいのだろうか。そう突っ込む余地が生まれる。


 しかし、それでもクロムは手を離さない。それどころか自重を利用してリルを押し倒す。


 ええい、破廉恥な少年め、そう思い神威を解放して戦闘力を全開にしようかと迷ったが、それはできなかった。


 なぜならば少年の背中に深々と矢が刺さっているところを目撃してしまったからだ。

 リルはその矢の斜線上にいるモンスターを探す。

 いた。

 数十メートル離れている場所にそいつはいた。


 どうやら先ほど倒したコボルトたちのリーダーのようだ。小賢しくも弓の使い方を知っており、それをこちらに目がけて放った、というわけだ。


 しくじった。


 そう思ったリルはクロムの手を強引に離すと、そのままコボルト・リーダーのもとへ向かった。


 あまりの移動速度にびっくりしているコボルトの頭にそのまま蹴りを入れ、倒すと、魔力を込めた蹴りでコボルトの頭を粉砕する。


「少年のかたきだ。外道め」


 自分で言った言葉だが、心地よくないことに気がつく。

 これではまるで少年が死ぬ前振りではないか。

 こんなところで死なれてはたまったものではない。


 まだリルは彼に可能性を見せてもらってなかったし、その力の片鱗させ見せてもらっていない。


 死ぬのならばせめてそれを見せつけてからにしてほしかった。


 そう思い、少年のもとへ駆け寄り、下手な回復魔法を掛けようと思ったのだが、それはできなかった。


 なぜならばすでにそこには少年を回復させる存在があったからだ。

 少年の手に握りしめられていた聖剣は青白く輝き、少年に魔力を供給していた。


 先ほどまで深々と刺さっていた矢は体外に排出され、そこからあふれ出る血液はすぐにとまる。


 聖剣の武器スキル。



【自動回復 小】

 


 によってクロムの命は救われたのだ。


「これが聖剣の力か……」


 思わずそう口にすると、リルはとあることに気がつく。

 自分が少年に救われたという事実と、少年が聖剣の力を解放した現実に。

 もしも少年があのときかばってくれなければあの矢を受けていたのは自分だろう。


 極限まで戦闘力を下げていたから、当たり所が悪ければそれが致命傷になっていた可能性もある。


 つまり、少年は命の恩人だ。

 それに少年は見事、聖剣の力を引き出した。

 当初の約束を果たしたことになる。


「……これで少年の就職先は決まったかな」


 ぼつりと漏らすリル。

 リルはそのことを彼に伝えるため、自動回復によって目覚めた少年にこう伝えた。


「おめでとう、少年、今日から君は我が最強ギルドのメンバーだ」


 その言葉を聞いたクロム少年は、夜空に輝く星のように表情をきらめかせた。

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