第9話 少女?ピュレーン
今、ピュレーンと呼ばれる少女から治療を受けている。脇腹の傷口に掌を当て呪文を唱えている彼女は珍しい事にエルフだった。今俺の周囲2kmはエルフ人口2名という高エルフ濃度を誇る状態になっているという訳だ。
脱線した、つまり少女と言ったが彼らは寿命が長いので若しかすると俺よりもずっと年上かもしれないという事だ。
彼女が使ったのは簡単な回復魔法だった。だが助かった、お陰で出血と痛みが緩和された。
「ごめんなさい、服が一部だけ宙に浮いて見えたから怖くなって刺した見たいなの。実は今大事な時期で、皆ナーバスになっているのよ。」
「俺は君らを助けに来たんだが…。いくつか聞きたい事がある、君は他の奴隷より優遇されている様だが、何故こんな所に閉じ込められている?それから、敵は誰の手下だ?ついでに、俺の事は恋愛対象としてみる事が出来るか?」
徐々に集まって来た奴隷達は皆、目を見開いて驚き、口々に「このタイミングで?」「罠?」「神様」などと口走っている。
「最後のは口説かれているんでしょうか?直ぐに見回りの時間です。話はその後に。」
ピュレーンがそう言うと他の奴隷たちは散り散りに坑道へ消えて行った。
「貴方はここに隠れて、いいですか?布を掛けますよ?あれっ?おかしいわ、隠れない。」
魔法の効果が切れたのだ。
「では、こっちに隠れていて下さい。声は出さないで。私がこれから説明する事をよく聞いていて下さい。」
彼女はある大貴族に使える従者だったらしい。所が、ある日奴隷狩りの話を偶然耳にし、事実を探っている内に捕まって此処に送られたという。
「良く殺されなかったな?」
「声は出さないでねってお願いしたのに。まあ、いいわ。何故殺されなかったのか自分でも不思議だったわ。それどころか、私は此処で特別扱い。私だけ食事も別よ、兵隊が持って来て食べ終わるまで待っていて、食べ残すと怒られる。月に一度彼らは私の髪を2cm程切って行くわ。」
「仕えていた貴族の名前は?」
「パプティムス公爵よ。」
「なっ?三大公の一人じゃ無いか?」
この国には大公と呼ばれる大貴族が3人いて、それには及ばないが諸侯と呼ばれる大貴族が8人いる。彼らが国を動かしていると言っても過言ではない。
「そう、そして彼らの悪事は奴隷狩りに違法な奴隷売買だけじゃない。この隠し鉱山で得た利益で私兵軍を強化し、隠者や魔女をも攫って集めてる。集めた魔女達は何をしているか知ってる?国王を呪い殺そうとしているのよ。」
「呪いで人が殺せるなら、その大公を呪い殺せばいいんじゃね?」
俺は思った事を口にした。
「そうね、でも公爵は耐呪属性の指輪を指に付けているわ。アレはとても珍しい品で呪った相手を逆に返り討ちに出来るらしいの。だから魔女たちは誰も彼に手を出さない。」
むむぅ。
「じゃあ、その魔女たちを捕まえて証言させれば?」
「逆らって此処に送られた隠者は居たけど亡くなったわ。私には魔女たちの居場所は分かりないし、彼女達は脅されたとはいえ国王を呪いに掛けたのよ?証言したら死刑が待っている。」
「じゃあ、どうするだよ?」
「エルフ国から妹がこの地に来ている筈です。定期的に連絡していた私が音信不通になれば必ず探しに。」
あっ。いたいた。そう言えばエルフの人いたよ。
「それあれでしょう?お姉さんみたいに胸がペッタンコの人でしょう?」
ピュレーンさんは自分の胸に手を当てて、ペッタンコ、ペッタンコと反芻していたが、少し涙目に成りながら言った。
「私によく似た娘です。その子と連絡が取って国に戻れば何とかなります。」
「他の奴隷の人はどうするの?」
「勿論助けます。ただ、エルフの国には連れて行けないのでこの国に後は任せる事になりますが。」
聞けば奴隷は全部で300人近くいるらしい。開拓村が1個作れる人数だ。
「じゃあ、ちょっと外に行って連絡してくる」
俺が出て行こうとすると、引き留められた。そうだ、ぼろ布の効果が切れていた。
「今晩、皆で脱出するんです。なので、一緒に手伝って貰えませんか?」
◇ ◇
「クルッポ、ポ、ポ、あれ?何しに此処に来たんだっけ?」
クックは忘れっぽい。人の顔や名前は大丈夫なのだが、大体何時もこんな調子だ。
「はははは、隠し鉱山調査だよ。」
「それにしても戻って来ないわね?もう3時間は経ったわ。」マリアムさんが心配そうに手を口元に当てる。
「はははは、ぶち込んじゃいましょうか?魔法。」
オマイが恐ろしい事をサラッと言うが、そこはアンナが上手く制御する。
「取り合えず、待ちましょう。ここじゃ敵に近すぎるから、ミリアムさんとあっちで食事を作ってくるわ。二人は待機でお願い。」
「はははは、了解。」「ッポ」
道々マリアムさんが、アンナに質問する。
「アンナちゃん、心配じゃないの?」
「心配ですけど、デュークの強さは知ってますから。」
「それも、そうね。でも、そっちは大丈夫でも実は奴隷の中にすっごい可愛い女の子が居て助けに行ったら惚れられちゃったとかで二人でイチャイチャしてたり…………なーんて、ね。」
「突入しましょう。」
「じょっ冗談だから…」
「いえ、突入します。」
二人が盛り上がって居た頃。
「はははは、隠れろ!!黒い飛竜だ。白竜は見られてない?」
オマイがクックの赤い鶏冠を押さえて姿勢を低くさせると岩陰で息を潜める。
黒い飛竜からは濃紺色をしたスーツ姿の男が降り立った。
「おい、親方は居るか?」
「どうしたんで?メルクル様。」
「エルフの居場所がバレたらしい。国元から探しに来ている奴がいる。場所を変えるから連れてこい。」
◇ ◇
「こいっ!」
兵士が二人がかりで ピュレーンを連れて行く。
普段ピュレーンの傍には病気や怪我人、働けない年寄りしか残っていないので彼らは必死の抵抗と言っても兵士にしがみ付く事しか出来なかった。仕方が無いので俺が助太刀に出ようとした矢先、それを制するかの様に彼女は叫んだ。
「みんな!私の事は今夜思い出してくれればいいから。分かった!?必ず今夜思い出してね!」
兵はチンプンカンプンと言った風に首を傾げると、彼女を抱きかかえて連れて行ってしまった。
残った奴らが項垂れていたので、俺が励ます。
「ほら、ピュレーンも言ってただろ、今晩だって。皆で脱出してから助けに来いって事だよ。」
そうだ、俺が絶対助けてやる。まってろよ、ピュレーン。
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