第76話 やらなきゃやられる
「前方に獣人の気配、多いわ。後方からは矢が!」
後ろの矢が面倒なので馬車の後部にエノッシュを縛り付けておけと言ったらハッシュにマジパンチを食らった。やつは自分の創造主であエノッシュに甘すぎる。二人のクックを見ろ!しょっちゅうエノッシュを突いて遊んでいるぞ?
獣人達はアローケスに任せた。殴り合いなら手加減も効くだろう。
問題は後方だ。お国が違うとはいえ同じエルフのオマイニーでは攻撃に躊躇いが付きまとうだろう。
「何を迷っているの?やらなきゃやられるのよ?悪いけどこの大陸の事まで面倒見切れない。それに奴らを倒せばここの人口が減っても向こうのハニーランドから移住してこれる。」
「アンナお前必死すぎるだろう?何生き急いでるんだ?」
右目にグーパンチを貰った。本日最初がハッシュからの鳩尾への一発、本日2発目のパンチだ。
「馬鹿!私達本当に死にかけたんだから!向こうでは一杯死んだのよ?今だって食べ物が無くて困っているの!」
そしてここの住人達の事は最初から自分のテリトリー外と切り捨て、自分たちのテリトリー内だけの最適を考える?その思考は国家間の紛争で一番多いパターン、つまり身勝手な部分最適の思考では無いのか?
いや、もちろん現状この大陸の事まで考えろと言うのは難しい事だとは分かっている。しかし聞いて居て悲しくなるぞ?
えっ?俺?
俺は本能の儘に。
ハッシュにお仕置きをした。
何ぃ!? いつもとパターンが違う?
本日はちょっと趣向を変えて見ました。
アローケスの不在を良い事に後ろからハッシュを襲いエネルギーを奪うとアンナ達の非難には耳も貸さず毛布でグルグル巻きにする。そして俺が良いと言うまで絶対解くなと言い含めて後方の馬車へ飛び移る。
俺はルシ夫に声を掛けた。
「ルシ夫、悪いが又活躍してくれないか?」
膝の上でドッコイセンさんにしがみ付いていたルシ夫が怯えた子猫の様な眼差しで俺を見た。
前回良いところを見せようと張り切った結果、途中から力に飲まれたらしい。
途中の記憶を無くし気が付いたら火葬場のど真ん中に居た此奴を回収したのはもちろん姉兼育て親のドッコイセンさんだ。
「ガブ様、ルシ夫は怖がっています。」
彼女は愛弟を抱きしめるが俺がそれを許さない。
「ルシ夫よ、焼き払って来い。それ以外にお前たち姉弟が生き延びる術はない。」
健気なルシ夫は目にうっすらと涙を浮かべたまま馬車を飛び出し咆哮する。
見る見る皮膚が硬化し竜燐が生え巨大化していくルシ夫。
”バリバリバリ”
耳を劈く落雷は人工的な物、そうオマイニークラスの魔術師が敵に混ざっている。
全身を焼かれたルシ夫はそれでも数秒歩みを止めただけで又走り出す。
「アレだな?あの鱗は電気を通しやすいんだろう。出ないとノーダメージ何てあり得ないからな。」
「ガブ様、なぜあの子に...」
おやおや、決定的な死がが待ち受ける運命から奴を救う代償に虐殺王への階段へと手を引いた本人がそう言うかな?
「ドッコイセンの意味は”救いの押し手”詰まり貴方はこの世界に救いをもたらす、その為に俺を監視し俺の抑止力としてルシ夫を育てた訳だ。でも本当に救いをもたらすのだろうか?」
「何の事です?」
「んーー詰まり俺は貴方の事を疑っているって事、因みにハッシュは先ほどフン縛った。」
「私はコーヤ様とはもう繋がって居ません!」
「いやいやそうじゃなくて、最初はエノッシュやコーヤが強い手駒を持っている事に不自然は感じなかった。しかし何故エネルギーを取り外し式にしたんだと思う?」
「さあ?」
「じゃあ何故君は遠隔エネルギー補充型と偽って固定の基礎エネルギーを隠し持っている?しかも君、地味に基礎エネルギーを持っているよね?前回あの時本気だった?固定エネルギーは開かずに俺に手を抜いて引分けにしたの?」
「どうしてそんな事を言うのですか!?」
白を切る彼女に俺は懐から紙ペラを1枚出して広げて見せる。
「最近ヨエが悪阻かと思うくらい馬車の外へケロケロ吐いてただろう?コーヤの話が出ると決まってハッシュと君にだけ共通の人物が浮かび上がった。俺が推測するにこいつが黒幕だな、何でこいつに確信しかたって?エノッシュやネカマにもこの絵を見せたがマジックペイントに反応が無かったからかな!」
「そんなこじつけを!それにいつの間に体の構造を解析?」
「それは単純な事、俺も可成りパワーを手に入れたから相手の力や体の構造が前よりも何となく分かる様になっただけ。」
「くっ!」
唇を噛んだドッコイセンさんがその顔を上げた時いつもの優しい彼女は為りを潜めていた。
迫力のある腹の底から響く声で美しい唇が喋る。
「困った事ガブリエル。又記憶封鎖の不具合でてっきり5回前の記憶が戻ったのかと勘違いしたわ。」
うーんそっちも薄っすらと思い出しそうなのだが思い出したくも無い記憶なのでそれには言及しないでおこう。
「あの時は取り押さえた貴方を目の前にハッシュに世界を焼かせたわ。」
「何でそんな面倒な事を?」
「記憶のリセットにはある程度ショックが必要なの、本人が思い出したくないと思うくらいのね。」
あーはっきり思い出した。ドッコイセンさんの脇に浮かび上がる修羅の顔、確かに5回前にフルボッコにされた時の恐怖の名残だ、あの時も途中で何かおかしいと気が付いてでも彼女の事までは見抜けなくて...いやぁあの時は死んだと思ったなあ。
「なあ、実験って何なんだよ?どうやったら終わるんだい?」
「貴方は其れを知ってはいけない。実験は公正に行われなければ成らないの。」
「分かったじゃあ俺はこの実験から降りる。」
「それも許されない。貴方が結果を選ぶ鍵なのよ?」
「そうか、じゃあ鍵が折れちゃえば実験中止だな?」
俺が手にしたのは不思議な鉱石の破片。随分以前にピュリーンと出会った隠し鉱山で拾った物だ。これは強化された俺の体を易々と傷つける事が出来る。これを使えばドッコイセンさんにも致命傷を与える事が出来るかも知れない。まあ奪われて終わりの可能性もあるが...。
これは一つの賭けだった。
一応命がけで助けに来てくれたアンナやサラ、クックにオマイニー達への感謝の気持ちを捧げると俺は気持ちを空白にしてただ腕を動かした。
欠片は首筋に当たると豆腐を切る様に俺の頸動脈を描き切り血しぶきが噴き出す。
切りながら不安になった。
もしこいつらが俺のスペアキーまでをも準備していたとしたら?
読んで頂き有難うございます。
次回で最終話になります。




