第75話 ルシ夫覚醒
エノッシュ、ネカマを連れた俺たちの馬車は今人間達に追われている。
野党では無い、冒険者でも無かった。
正規の鎧に身を包んだ軍隊達である。
その数、およそ500。
「一掃しましょう。」
オマイニーお前はいつも度が過ぎる。
「ギリギリまで攻撃を待つんだ!俺たちは人殺しじゃあ無い。」
「そんな事言って捕まったらどうするのよ!」
アンナが叫ぶ。
「きゃあ!ルシ夫」
馬車の中へ矢が刺さり驚いたドッコイセンさんがルシ夫にしがみ付く。しがみ付かれたのは体が二十歳くらいまで急成長したルシ夫、彼は子供のような純粋な目で俺を見た。
「追っ払って来ます!」
勇猛にもルシ夫は代え馬に飛び乗ると一人で騎士団へと向かって行く。
追いかける余裕も無いし此処はお手並み拝見と決め込んだ。
◇
ルシ夫が駆る馬が悲鳴を上げる。
なにせ乗り手がドンドン巨大化していくのだ。
可哀そうな馬はとうとう前足から転がる様に崩れるとそのまま前向きに1回転し倒れ込んでしまった。
ルシ夫はそれでも巨大化が止まらない。馬と見比べた感じ既に3mくらいには達しているのでは無かろうか?
「巨人族とプロレスが出来そうだな?」
俺が笑うと姉のドッコイセンさんが目を潤ませながら訴えた。
「ガブ様は恐ろしくないのですか?あの子は貴方が手に負えなくなった万が一時を想定してコーヤ様がそれこそ何度も試作した最終形です。その気になればこの世界を統べる王になるでしょう。」
そんな事を言われてもなあ。そんな危ない物を連れて来てエネルギーを与えろと言ったのは彼女の方である。
「恐ろしければ逃げれば良かろう。」
そう言い切る俺に彼女の頬から涙がこぼれる。
「私はあの子が弱いというだけの理由で殺されるのが忍びなくて。私は...この世界よりあの子一人を選択した駄目な人間です。」
『ごおぉぉぉぉー!』
巨大な竜に似た化け物へと変身したルシ夫が炎を吹いた。それは火炎放射なんて生易しいものでは無く一瞬にして何キロにも渡り炎で出来た城壁が湧き出たかの如くである。
「オマイニーにやらせた方が未だ敵に逃げる余地があったな、反省だ。」
俺はそう呟くと火炎地獄から背を向け真っすぐ前を見据えた。
「今の内に進むぞ!」
◇
『人間達の軍勢は全滅しました。我らエルフが北から追います。』
『頼みました、彼らは私の命を狙って居ます。』
『我がエルフに繁栄を与えて頂いたフルシュ様をお守りする為!我等一丸となってそ奴らを倒して見せましょう!』
通信を終えたフルシュにヘカテスが声を掛ける。
「フルシュ、未だこっちに来て2年かそこらだと言うのに随分信用されている様じゃ無いか?全くどうやって奴らを手なずけたんだい?」
フルシュは左手をすっと振った。その瞬間フルシュの顔は美しいエルフの顔となった。
「おお美しい。勿論元の其方も美しいが何とも作り物の如く美しいエルフの容姿。それで奴らの心を掴んだのか?」
「呆れたヘカテス。巨人や竜ばかり相手にしているからそんなにお頭が退化するのよ?いや違うから、禿げてるそこじゃなくて中身の話をしているの。」
「いや頭を掻いただけなんじゃが、なんとも傷つくのう。」
「えっ?...ごめん。とにかく!エルフは純血主義なの、これにはキチンとした理由があるのよ?」
「何じゃ?あの森に必ず聳え立つ神聖樹の毒か?」
「なんだ知ってるんじゃない、そうよクオーターは勿論ハーフにでもあの毒は厳しいわ。それが純血主義の根っこ。」
「その地を離れればよい。」
「うーん、大多数の亜人はそこで幸せに暮らしている限り生息地を離れ変えようなんてしない物なのよ?人間みたいにやたら勢力を増やしたり冒険に出たりするのは一種の特殊種族なの。人間の場合は血を薄めようとする種なのよ。」
「そうかい、それで?」
「エルフ達は純血主義だから纏まっている、それって裏を返せば共通の敵を仕立て上げやすいのよ。例えば悪魔との落胤ダークエルフとか?」
「そんなのが居るのか?」
「作るのよ!そして毒を撒き白いエルフの谷を赤く染め上げるの。」
「そこに其方が降臨する?」
フルシュはまた手を振ると元の容姿に戻り抑揚のない声で言った。
「ご名答、共通の敵に一致団結した集団をごっそり貰うの。その為に衆前にダークエルフを登場させ衛星レーザーで焼き殺し、解毒薬を与え、貴重なミスリルの精製技術も伝授するし魔法だって教える。そして彼らを褒めたたえるの、栄えある純血のエルフの達よ!我と共に!」
フルシュは目を閉じるとフーっと小さくため息を付いた。
「分かるよフルシュ。そして実験が終わるたびに折角高みへと導いた者達を一人残らず海に沈める。それに疲れたんじゃろう?」
フルシュはパッっと目を開けるとヘカテスの大きな体を睨みつけながら見上げる。
「分かった風な事を言わないで!例えば私という存在が有機体ではなく宇宙を飛ぶ彗星生物だったと仮定するわよ?その進路にあった星を壊したといって私が悪だと言うのは弱者の負け惜しみにしか聞こえないわ。悔しければ恒星反転砲でも何でも作って私を破壊すればいい!」
「しかしなあ、奴らはペトリ・ディッシュに収められた幹細胞みたいなもんだ。文字通り手も足も出んじゃろうに。」
「だから彼らは私達を神と呼ぶ。其処まで力の差があれば何があっても平気だわ。言わなくても分かっていると思うけど、私たちは依頼された仕事をきっちりこなすだけでしょう?」
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