第73話 記憶の綻び
村が襲われた!
偶々俺とクックは村を離れていた。
力の強い俺たちは村の手伝いで生計を立てる傍ら最近は町のギルドでクエストを受け金を稼いでいた。
俺は稼いだ金で普段お世話になっているラヘルに奇麗な服を買ってやりたかった。
クックは数を数えると眠ってしまうらしくお金には無頓着であったので俺が預かってやっていた。奴はいつも銅貨2-3枚しか持ち歩かず無くなると俺に無心してくる。
村が襲われた時、田舎の盗賊だからかは分からないが誰も命を取られるような事は無く盗賊団は去っていった。誰も盗賊に立てつかなかった事も幸いしたのだが。
村に戻った俺たちは村人の無事を喜ぶと共に盗賊団を捉える事を画策した。
町の冒険者ギルドの情報も活用して盗賊団のアジトを突き止めるとある月夜の晩に決行した。
月明かりの中アジトの近くに来ると子供連れの女性が盗賊団に絡まれていた。
こんな所を夜更けに歩くからだ。
旅装束の女性は2歳くらいの未だ幼い子供を抱いている。母子なのだろう。
俺たちはアイコンタクトで盗賊達に襲い掛かるとあっという間に始末した。
「ああっ!」
助けた女性は俺の顔を見るなり足元に崩れ落ちるが別に俺のハンサムビームにやられた訳では無さそうだ。
奇麗な女性だった、ラへルと違って胸も大きい。いやそれは今関係無かった。
「私はドッコイセンと言います、この子はルシ夫。二人で逃げて来ました、どうかこの子をお救い下さい!」
どうしてもついて来ると言うので少し本気を出して巻こうとしたのだが、驚いた事に女性は易々とついて来た。おかしいな其処まで身体能力があるならさっきも自力で逃げれた筈?
盗賊達はアッサリと討伐された。
頭目以外は面倒なので近くに置いてあった剣で切り捨てた。
村人から奪った僅かな金は酒に変わって残って居なかったが町のギルドに突き出すと少しばかりの賞金が貰えたのでそれを村長に上げると大層喜んでくれた。もちろん村人達皆が盗賊を恐れる必要が無くなったと喜んでくれた。俺は畑仕事も好きだがこの力を利用して本格的に冒険者になろうかと考え始めていた。
◇
「えっ? ラヘルもついてくるの?!」
俺が町に出ると告げるとその夜ラヘルが訪ねて来てそう言った。
「所でガブ、その人はだれ?」
俺は狭い小屋で共同生活を始めたドッコイセンさんと彼女曰く弟だという幼子を紹介した。
「ガブ、女の人と一緒に寝るなんて不健全よ。ボソッ(私を除く)」
「えっ?最後何て言ったの? 大丈夫だよ俺ラヘル一筋だから。イタッ!」
突然オデコの奥に釘を刺されたような激痛が走る。思わず頭を手で押さえ蹲る。
「ガブ、大丈夫?」
ラヘルが優しく俺を抱き寄せ痛む頭を撫でてくれる。
むう、小ぶりな胸がつんつんとオデコに当たっている。ぃぃぃい言う事なし!!
痛みが治まったが5分くらい猫を被って至福の時間を過ごす俺はふとドッコイセンさんを見た。
不安そうな顔で俺たちを見る彼女が一瞬阿修羅に見えたのである。
それは記憶?思い出せそうで思い出せない俺の記憶の断面だった。
◇
数日後俺たちは町に出ると安いアパートを借りて冒険者として正式デビューした。
勿論最初はFランクであったが鬼の様にゴブリン狩りをしているとあっと言う間にDまで上がった。困ったのはドッコイセンさんとラヘルである。自らをPTメンバーと主張してどこに行くにもついて来るのである。
ドッコイセンさんは可成りの身体能力を持っているので良いが、いや赤ん坊を抱えているのでやはり良くない。ラヘルの方はしょっちゅうゴブリンに追いまわされて危なくて仕方が無い。
とにかく魔物が多かった。人口はこの国の大都市なら5千人だと言うが今いる町は200人が住んで居る。片や野山の魔物はというと掃いて捨てるほど居た。
遠くにはエルフの国、獣人国、鋼鉄を使う人間の国、それに漁村が集まった海岸線の国に伝説の竜の国がこのハニーランドと呼ばれる未発達の国を取り巻いているがいずれも人口は少なくいずれも魔物が我が物に闊歩する危険な土地だった。それゆえ冒険者には無限の未来が開けている様に俺には思えたのだ。
魔物狩りに精を出す毎日、そんなある日俺たちの元にハニーランド中央で開かれる町対抗の武術大会に代表として出て見ないかとお誘いがあった。旅費も出して貰える上に他の国からもゲストが招かれるらしい。
大変光栄な事なので謹んでお受けすると俺たちは初めての旅行を前にワクワクしながらその日を待った。
俺たちがいる田舎町は国境の南に近い所に位置し中央までは馬車で4~5日程かかる。途中森を抜けなければならないがそこは今有名な盗賊のたまり場となっていて盗賊団の名前はなんと”女神殺し”という物騒な物だった。
女神と言えば南の国にコーヤと言う女神が降臨し人々の信心を集めているだの、その女神は様々な奇跡を起し死にかけた人を直しただとか南の国境を越えて来た商人達から色々な噂を聞いた。
また東のエルフ国ではエルフの王が南の獣人国を制覇しに立っただとか、ハニーランドでも今度王国軍を立ち上げるのでは?など人々の噂話には事欠かない。
俺たちは脈動する大陸に生きていた、毎日が冒険の連続だった。
◇
「よくも私たちの事を忘れてのうのうと生きて来れたものね?」
盗賊団”女神殺し”のリーダーは複数いて皆女性だった。年は20~30歳位であろうか? 皆美しいが俺を睨む目つきに中々の凄みがある。
「居たわクックよ!こっちのは赤いわ!ほら早くあの赤いの捕まえて!」
なにぃ!?クックが二人!向こうから飛び出して来たのは青灰色のクックだった。
「ドッコイセンさん、降伏してくれるわね?」
えぇっ?知り合いなのか?!
俺が皆を守らなくては!そう思って一歩踏み出した瞬間これまでにない程の激痛が頭を直撃し俺はふらふらとよろめく。そしてふがいない事にそのまま昏倒してしまったのだった。
◇
◇
目が覚めると皆がいた。さっきまで眠って夢を見ていた感覚だ。
皆少し年を取ったか?
「どうやって助かったんだ?」
ハッシュが答えた。
「三女に案内させてコーヤ様の隠し部屋にあったコンソールで大陸のコントロールを奪ったのよ。今大陸は半分沈んだ状態で止まっているわ。そして大陸中が協力してここへ攻め込む船を作っている。」
「海竜の餌食になるのが落ちじゃあ無いのか?」
「神様達と同じ鋼鉄製の船よ?でもまだ時間が掛かるわ。幸いな事に女神たちは私たちが生き残った事を知っているにも係わらず抹殺の手を控えている。もしかすると駒が足らないのかも知れないわね?どうなのドッコイセンさん?そのルシ夫も小さい見たいだし側近たちをごっそり見捨てたから戦力不足なのでは?」
「少なくとも各国2~3人は直ぐに稼働できる状態で配布されているので戦力が無いわけではありません。但し他の大陸までというのは難しいのが現状でしょう。」
「これからコーヤを襲うのか?」
「いいえ、敵に稼働している戦士がいるならそのエネルギーをまず奪うわ。」少女バージョンのアローケスが腰に手を当てて拳を握った。
「こんな事を言って馬鹿な事を言われるのは分かっていますが、そのエネルギーを少しルシ夫にやってくれませんか?」
ドッコイセンさんが2歳のルシ夫を撫でながら言った。
「そう言えば大人のルシ夫は如何した?」
俺の問いにドッコイセンさんの体は硬直する。
「彼は...彼は死んだわ。帝国兵の残党から仲間を庇ってね。」
ヨエだ。
「貴方達いったい何なの!?」
こっちのラヘルが取り乱すがアンナが平手打ちをして黙らせる。怖っ!サラも怖い顔で腕組みをしている。
「ラヘル?今から質問するから正直に答えてね。不老者達に何を命令されたの?」
オマイニーの質問とほぼ同時にヨエがスケッチブックに絵を描く。それを見て皆は意外そうにため息をつく。
「白紙って事は本当に何も知らない訳?」
「記憶操作かも?」
「取り合えず牢屋にでも入れておく?」
それを制したのはサラだった。
「何も知らないのなら酷い事はしないで!ラヘルは私が監視するから。赤クックにエノッシュの場所を尋問してから先ずはこっちのハッシュからエネルギーを頂きましょう。」
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