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第72話 私の名はラヘル

喉が渇いた。ここは何処だ?


鼻先でむせ返る様に土の匂いがする。自分が地面に倒れている事に気が付き体を起こした。


”ズキッ”


脚に痛みが走る。骨折などでは無い切り傷の様だった、俺は手に持ったナイフに付いた血を見ると反射的に握りしめていたナイフを放り出す。


「ねえどうしたの?大丈夫?」


可愛らしい女の子の声がして振り向いて見ると年の頃は12~13歳の女の子が茂みの向こうからこっちを覗き込んでいた。


「ああ、喉が渇いて...それに足を怪我したらしいが何も思い出せない。」


女の子は直ぐに居なくなった。


俺はのろのろと体を起こすと痛む体を引きずりながら女の子が消えた方向へ歩き出す。


ここは何処だ?俺は誰だ?ここは何処だ?俺は…


「じゃーん!お水とお薬!」


1kmも歩いた所で先ほどの女の子が満面の笑みを浮かべて登場した。思わず引き込まれる笑顔だ。


「私の名前はラヘル!この近くに住んでるの。」


◇ ◇


貰った竹筒と薬草を俺は貪るように喉へ通した。


「薬草は怪我したところに貼るんだよー?」


ラヘルと言った少女が文句を言ったがもう食ってしまった物は仕方が無い。


「助かった。」


そう言って痛む頭と足を引きずり立ち去ろうとする俺を少女が引き留める。


「怪我が治るまでうちの納屋に来なよー?パパとママに頼んであげるから。」


彼女の家は小さな農家だった。


父親と母親も素朴な村人でよそ者で記憶喪失の俺を疑うことなく受け入れてくれた。


「ズボンが血だらけよ?足に怪我をしているみたいだから見せて見なさい。薬草を貼ってあげる。」

 ラヘルのママに優しくそう言われたが俺は恥ずかしいから自分で遣りますと言って納屋に引っ込んだ。


 だってこんな物見せられないだろう?


 俺の内股にはナイフで掘ったヘタクソな文字があった。


『ラヘルにきをつけろ!』


◇ ◇


「生贄がガブリエルに接触した。後は今まで通り待つだけね。」


コーヤは一安心した様に言った。


「何が待つだけだ、準備不足も甚だしい。今から国民を掌握する為にイベントも起こさなくては行けないしアレだけ手塩を賭けた側近たちも1名を遺して海竜の餌だ。また作り直すのに何年かかる事やら。」


「私もルシ夫を作り直さなくてはね。ドッコイセン?又子守をお願いするわ。」


「分かりましたお母さま」


ドッコイセンは俯いて表情は分からない。


「俺はまずクック、それからハッシュにアローケス。最初は毎回名前は機能を変えていたが途中から固定化してしまったよ。エネルギーと設備は準備されているのかね?」


「ああ、各国に隠れ家と研究施設は構築済だ。17歳までに育成した素体を何体か準備してあるので必要な情報をダウンロードして使ってくれ。俺はこの準備の為に殆どこっちに詰めていたからまあ大変だったよ。フルシュは又エルフの国を取るのか?サリードは獣人国?偶にはエルフで試してみたらどうだ?」


ヘカテスが大きな体を揺らしながら言うとエルフ国を進められたサリードが反論する。


「エルフはそもそも選民思想だ。しかも能力でも遺伝子でもなく血筋で選ぶ最悪のタイプだ。それさえなけばエルフが大陸を統一するのも可能である物を。」


「私はエルフが好きよ?扱いなれているし、彼らは心に1本筋が通っているの。純潔を重んじるのもそのせいなの。」


フルシュがエルフを擁護する。


「あのー?私は何を担当すれば?」


話に付いて行けないネカマがおずおずと尋ねるとコーヤが優しく笑いながら言った。



「前回のエノッシュの様に直接手を出さず民を導けばいいのよ。そうそうネカマ君、貴方には約束通り不老治療を受けて貰うわ、治療の間に必要な知識はダウンロードして於くからこれから宜しくね。」





ラヘルと出会ってから1年が過ぎた。その間も正体不明な片頭痛が夜な夜な俺を苦しめた。


この村の人は皆いい人達だ。俺は小柄な割に力が強かったので仕事の手伝いをさせて貰って食べている。


俺も今日で13歳になった。


年は適当に村長が決めてくれた、行き場が無ければずっと村に住んでいいという。


だが俺はその内町へ行く、そして俺の過去を探すのだ。


その時ラヘルは何と言うだろう?


私も付いて行く?


先日ラヘルの納屋から村はずれの小屋に引っ越した。


毎日昼になるとラヘルがお弁当を持って訪ねて来てくれる。


明るいし面倒見も良い彼女は将来良いお嫁さんになるだろう。


俺に刻まれた『ラヘルにきをつけろ』の文字はもう可成り薄くなって読み取れない。


文字と共に俺の警戒心も薄くなった、こんないい娘に気を付けなければいけない事なんてありはしない。


今日は午前中の手伝いで大豆の束を2束貰った。


後で豆腐を作ってラヘルを驚かせる積りだ。


村に苦汁は無い。町に探しに行こうか?そもそもこの村の人達は豆腐を知らない。豆腐を知る俺は何処からやって来たのだろう?


「ガブお誕生日おめでとう!今日のお弁当は飛び切り美味しいよ!」


「ラヘルありがとう!折角だから湖の畔まで行って一緒に食べないか?」


仲良く二人して歩いた。


楽しい、こうして二人で過ごす時間が至福だった。


湖の畔で美味しいお弁当を食べていると赤い何かが流れて来た。


赤鹿の死体だろうか?それにしては沈んでいる部分が人の体にも見える。赤鹿の頭を持った人に見えるのだ、俺は目をゴシゴシと擦った。


その生き物は行き成りザブリと水中から起き上がると俺たち、正確には俺たちの弁当目がけて突進してきた。


「きゃあ!」


ラヘルが悲鳴を上げた。俺はラヘルを庇うと目の前で人の弁当をガツガツと貪る不思議な生き物に対しファイティングポーズを取る。


「もっと無いっポ?」


俺の弁当を平らげたそいつは目をクリクリさせながら嘴から言葉を発した。体が男で頭部が赤い鳥男だった。


「それは俺の弁当だ。ラヘルのはやらん!これでも食ってろ。」


ズボンのポケットから午前中に拾ったこぼれ豆を出すと投げてやった。


「クルッポ、クルッポ」


豆を投げる度に喉を鳴らして喜ぶ鳥男。


ラヘルが大胆にも頭を撫でると目を半目にして気持ちよさそうにしている。


「クルクルいってるから貴方の名前はクルクね。私はラヘル。こっちはガブ。ガブガブ食べるからガブって言うんだよ。」


「クルック、クルック、クック?」


「ラヘル、そいつクックっていう名前なんじゃ無いのか?何となく...」喋っていて頭痛が襲って来た。


クックの拙い説明によると行き倒れで流されて来たらしい。行き場がないそうなので俺の家に誘う。


その足で村長を訪ね許可を貰ったが、こんな怪しい姿の鳥男を何も疑わず受け入れるとは感動を通り越して危うさを感じてしまう。実は悪人だったらどうするのだろう?


そうしてそれは2年目の秋だった。


村を盗賊団が襲ったのだ。

後5話で完結予定です。

ここまで読んで頂き有難うございます。

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