第68話 仕方がない
「ガブっ! ガブったら!!」
助け出された俺は最初に火の回る屋敷の中でアンナから平手打ちを食らっていた。
首輪は既になく体に力が漲って来ていた。
「ひょっ」
オマイ2号が俺の下腹部を見て妙な声を立てた。
釣られてアンナも視線を落とすが次の瞬間顔を真っ赤にして後ずさりした。
「ちょっちょっと心の準備が。って今はそれどころじゃあ無いでしょうに!」
”ドゴン”
派手な音がして壁が割れた。首輪を外され元気を取り戻したクックが頭を覗かせると急ぐようにジェスチャーをする。
「サラは帝国兵に攫われったポ。」
「冗談を言うなここは王女のお膝元だ。帝国の兵がウロチョロできるならこの国は疾うに滅んでいる。」
「ガブそうでもないのよ、実はサラは帝国と通じていたみたいなの。」
「えっ?」
アンナの説明はこうだ。
サラは帝国と通じる代わりに俺とクックを縛り付けていた不思議な首輪はおろか皇帝に届けるはずだった薬の情報さえも入手した。
それを皇帝に渡す手はずがなんと彼女はその薬をエルフ国に売った。停戦の交渉材料を探していたエルフ国は可成りの大金でそれを買い、その事を知った帝国が裏切り者のサラを拉致した。
最後の壁をけ破り外へ出た俺たちは煤だらけ。その上俺は真裸である。そこへ馬車と共にさっそうとヨエが現れた。
「マジックペイント!忍者スエット真夜中バージョン!!」
首から下がペンキで真っ黒に塗りつぶされた俺はスースーする股間を揺らしながら馬車へ乗り込む。
「ぎゃあっ。何こっちに向けてんのよ!変態!」
ヨエの抗議を無視した俺はクックから受け取った水筒を一気に飲み干す。
「生理現象だから諦めろ!!」
きゃあきゃあ言いながら覆った手の指の間からしっかりと観察しているヨエをよそ目に俺は手綱を握ったルシ夫に命令する。
「サラを追え!」
ルシ夫の隣にはドッコイセンさんが一人だけ、他のメンバーは置いて来たのか?しかし二人がなぜここへ。
俺はドッコイセンさんから事情を聴きたかったのだがいくら声を掛けても彼女は頑なに此方を振り向いてはくれなかった。
◇
「はい、お母さま。帝国は拘束具を用いました。間違いありません。」
休憩の時馬車から降りたドッコイセンさんは木陰に向かった。生理現象を思い浮かべ誰も咎める者は居ない。
「ねーちゃん長いな。おっきい方か?」
呟いたルシ夫の後頭部をアンナが杖でフルスイングするが逆に手がしびれた様で痺れた掌を摩っている。今の俺たちは気さえ張って居れば岩の様に頑丈なのである。
「所で師匠はいつまでフリー珍スタイルなのでしょうか?」
ルシ夫に言われてハッとした。だって誰も指摘しないんだもの。俺はボディーペイントで描かれた黒服のままであった。
クックも水着下一枚のまま。もし誰かに見たらきっと変態様ご一行と思われる事だろう。
『そう、もう今回は終了ね。いいわ世界会議を行うから引き上げてきなさい。』
「えっ!!」
ドッコイセンさんが木陰で大声を発した。
「姉ちゃんどうした?!血尿か?!」
茂みの奥から返事は無い。
『...母様、ルシ夫だけは助けて頂けませんでしょうか?』
『貴方それが何を意味するのか分かっているのよね?アレはまだ貴方すら超えて居ないわ。手元に置いておく意味が無い。』
『母様お願いします如何かご慈悲を。』
「血便かーー!!」と茂みに突進したルシ夫が盛大にふっ飛ばされ、空中で盛大な放物線を描いた後で地面に落下した。お約束である。
「ルシ夫様、私の事は姉でなくPTメンバーとして名前で呼ぶように。そうキツク言いましたよね?」
気を付けないとコーヤ製エネルギーバックを持たなくても彼女は高めの基本エネルギーを持っているのだ。
説教を食らう正座スタイルのルシ夫をそのまま馬車に放り込むと俺たちは出発する。
「それでコーヤからの情報は?」
俺が問うと珍しく彼女の顔色が変わった。
「もしかして?!」
「盗み聞きはしちゃいないさ。聞こうにもドッコイセンさんが防音の魔法を張ってたよね?兎に角サラの行方に関する情報があるなら教えて欲しい。」
彼女は少しばつの悪そうな表情をすると話し始めた。
「実はハッシュさん達に先に帝国入りしてもらって探って貰っている途中でして。」
妙に手はずが良いな?俺がもう帝国入りしたと思っていた?皆とサラの屋敷で会ったのは本当に偶然?
「連絡は取れるのか?」
無線機を借りてコンタクトを取る。
「おいハッシュ!聞こえるか俺だ。サラを探している、行先を知らないか?」
「あら色男のリーダーさん、よーく声が聞こえるわ。それらしき馬車が隠れ家の一つに入っていったけど?」
何で隠れ家とか知っているんだとは敢えて聞かなかった。コーヤからの情報以外思いつかない。
「直ぐに行くから待ってろ!奴らは俺たち戦士シリーズを無効化する首輪を持っていた、危ないから間違っても突入したりするなよ?」
「はいはい色男さん。」
むう。今日のハッシュはやたら色男を強調する。何か気に障る事でもしたかな?
◇
「で?どうやってこの谷を越えるんだ?」
国境の谷は深く底が見えない。いくら俺でも落ちたら再起不能?谷の壁面は切り立っているがその石質は脆く上り下りは現実的では無かった。
「私が投げます。そして私達二人は此処からは引き返します。」
ドッコイセンさんがルシ夫に有無を言わせない迫力で言った。
最初に俺、次にクック。飛んで来たアンナとオマイニーは俺とクックで上手くキャッチした。
「やだやだやだ。怖いからヤダ!私も一緒に帰るぅー!ひょえぇぇぇぇー。」
気を失った空飛ぶヨエを上手くキャッチし、そのまま背負うと俺たちは森の中を進む。
途中オークの亜種に出くわすがオマイニーとクックで瞬殺だった。
クックを斥候として先行させ続くアンナとオマイニーの後ろからテクテク歩いていると、否が応でも目に入るのは服の上からでもグラマーなアンナの臀部とかわいい小尻な2号のそれ。
俺は思わずサウナでの光景を思い出し下腹部に血が集まってしまう。
「ひいwぇー許して~ガブに犯されちゃう!」
いつの間にか気が付いたヨエが騒ぎ出したのでそっと降ろしてやると急いでオマイニーの傍へ駆け寄った。オマイニーも俺の異変に気付き驚き立ち尽くす。
恐ろしい!!
何という事か!!!
ヨエの奴め俺の黒服塗装を解除しやがった。
真っ裸で仁王立ちの俺を見てオマイニーが美しいその鈴虫の様な声で叫んだ。
「きぃいゃあぁぁぁーー!」
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