第67話 夢であったら
ジュア帝国までのルート上で久しぶりにハニーランドの地を踏んだ俺達は懐かしい西都行の道を辿る。
勿論西都には立ち寄らずに手前で北上する予定ではあった。
ジュア帝国に入るに当たってもちろん正規の手続きで入国などせずに国境の深い谷を竜に乗って越える積りである。
操竜の方はクックがなんとかしてくれると信じているのだが問題は竜を買う金が無い事。
仕方が無く行く予定で無かったと言うか寧ろ避けていた西都へ立ち寄りマタロンを訪ねる。
流石重鎮!事情を話すとイエンには内緒で快く竜を貸してくれると言う。
「見繕って於きますので3日後にまた来て下さい。」
肩が露わなイブニングドレスを着たフォウ。その毛並みを愛おしそうに撫でながらマタロンが言う。
3日後訪ねて見ると確かに緑色をした大型の竜がいた。
「悪いなマタロン無理を聞いて貰って。」
「いいえどういたしまして、愛する夫の為ですから。」
「!」
この声!
俺を夫と言う彼女は
「サラ?」
「お帰りなさい貴方...随分待たされたわ。そうそう結婚式をすっぽかされた事なんて怒っていないから、ちゃんと覆面代役を立てて盛大にお祝いしたのよ?貴方にも見て欲しかったわ。」
ヤバい、言葉の端々から冷気と怒気が火山の様に溢れ出している。
「サラ、実は帝国皇帝に大事な薬を届ける途中なんだ。直ぐに戻ってくるから見逃して貰えないか?」
「見逃す?人聞きの悪いわ、大丈夫よそれは私から届けてあげるから。」
そう言って近寄って来たサラは俺の首に腕を回すと口づけをした。
俺はそれを受け入れた。言い訳だがもし拒絶したとして結果的に更に彼女を傷つける事が怖かったからである。
そして彼女が腕を解いた時おれの首には細い首輪が巻かれていて、その首輪を嵌められた瞬間から体から力が抜けて行くのを感じ始めた。
「ぐっ!力がっ!」
「ネカマ様からのプレゼントよ、気に入ってくれた見たいね。さあ家に帰るわよ。」
「マタロン助けてくれ!」
しかしフォウを人質に取られたマタロンは剣に手を掛けたまま身じろぎ一つ出来なかった。
屈強なフォウを抑え込みそのふさふさした喉元に剣を当てるのは先ほどまで影も形も無かった黒い兵士達。
どういう事だ?一人一人に強い気を感じる。しかし先ほど迄一切気配を感じなかった。
「クック!」
振り返った俺が目にしたのは同じく首輪を嵌められフニャフニャと崩れ落ちるクックの姿であった。
◇
「かーちゃん、一体何があったんだ?」
難しそうな顔をしたコーヤを前にルシ夫がオドオドしながら椅子に腰かける。
「ルシ夫、ガブ君がハニーランドで捕まったみたいなの。ネカマという私の知り合の弟子が裏で糸を引いているみたいだからちょっと行って助けてきてくれない?」
師匠が叶わないのなら俺にも無理と怖気ずくルシ夫の尻をしっかりしなさいとドッコイセンさんが張り手で後押しする。
「姉ちゃん痛いよ!」
「ルシ夫様、私の事はPTメンバーとして扱って下さいと何時も言って居ますよね?」
「姉ちゃん、ぶぼー!」
扇風機の様な張り手の連打に首が捥げそうになるルシ夫。なぜ彼女はこれ程までにルシ夫に厳しいのだろう。
「いっでぎます...。」
ボロボロになったルシ夫は健気にも救出任務の為、コーコーヤを旅立つ。
一方俺の置手紙を見たアンナ達は。
「信じられないあの男!私達を置いて行くなんて!」
「アンナ様、行って抗議しましょう!」
「ってカゴ、アンタはリノの所で仕事があるんでしょう?」
「ううぅっ」 カゴは脱落した。
「兎に角ガブを一人にするのは良くないわ、何か有ってこれ以上メンバーが増えると面倒なの!」
ハッシュとアンナががっしりと握手をした。
「「追いかけるのよ!!」」
◇
俺は木香の炊かれたサウナで裸のまま鎖で繋がれていた。
覆面が近づきマスクを取った。カリムの為に俺という夫の代役を務めていた奴はマスクを取ると俺よりも整った顔をしてた。
そしてその逞しい腕でシャツを脱ぐとその下に纏っていたサラシを解いて行く。
驚いたな女版アローケスだ、いや失礼アローケスも女だった。しかしアレは人工的な物だがこちらは天然の筋肉美だった。
「惜しいな、筋肉でゴツゴツして居なかったら更に色っぽかったのに」
軽口を叩いた俺に足元に於かれたバケツの中身が掛けられる。泥だ。
其れを幾重にも塗った後そいつは何も言わずに去っていた。乾いた泥で瞼をこじ開ける事すら覚束ない。去り際に彼女の目に浮かんだのは蔑みか憎しみか?それを確かめる事も敵わなかった。
いや、戻って来た。
サラと一緒に戻って来たがしかしながら彼女たちは全裸であった。
そして二人は俺の目の前に穴の開いた衝立を置くとその向こうで営みを始めてしまう。穴の向こう側では慣れた手つきでお互いを探りあっていた。その姿は恐らく俺が失踪してから何度も行われていたかであろう事を容易に連想させる物がある。ああ、汗にまみれた二つの美しい生き物達。
しかしながら首輪で力を削がれているせいか俺の体は何一つ反応しなかった。
突如衝立が退けられた。
眼前で仁王立ちのサラは鬼の様に目を吊り上げて叫ぶ。止めてくれ!
「何よ!私が欲しくないの!?何で反応していないのよ!」
「サラ様!」
男役の制止を振り切ってサラは走り去った。
どうか許して欲しい。お前の事を大事に感じるが故に今は欲に結び付ける事等不可能なのだと。
俺は息苦しさを感じながら彫像の様にそこに居た。
それは何時間か、何日か自分では良く分からない。
いつの間にか衝立が戻されていた。
◇
「サラ、一体どうしたの?屋敷にサウナなんて維持費が大変でしょうに?」
んっ?この声はアンナ?夢か?
「実は臨時収入があって今凄く裕福なの。アンナ、オマイニーさん、ほら遠慮しないで。そんなタオルで隠さなくても誰も見ていないから。」
サラはどういう積りか二人をサウナへ誘う。
俺は声を上げようとするが直ぐに諦めた。弱った俺の体は脳からの指令をピクリとも受け付けなったのだ。
「うわっアンナって大きいと思ってたけど生で見ると本当に山みたいね!?」
ピンク色の果実を頂きに抱いた巨山が二つ。
サラはその美しい肢体を隠すことなく露わにすると俺が潜む衝立の前でベンチに座る。細い肩に滑らかな背...美しい。生命力に満ちたとても奇麗な背中だった。
「ねえ皆で我慢大会しない?最後まで残っていた人には私の一番の秘密を教えてあげる。」
サラの下らない提案にアンナが乗った。こいつ賭け好きが治っていないな1?全く懲りていない奴だ。
我慢大会も5分も経過したところで一人脱落した。
オマイニーだ。恐らく体重と皮下脂肪が少なくてサウナ大会には不向きなのだ。
つるペタな体をフラフラさせながら降参して部屋を後にする。
小さな尻を少しだけエロイなと思ってしまった事を正直に告白する。思うに彼女とは関係が浅いので思考がそういう方向に傾いたと自らを分析した。なぜなら自他ともに認める巨乳好きな俺が今アンナの裸を正面から見ているのに何も感じないのがその根拠であるのだが。
「うーん、ギブッ!」
アンナがバタバタと出て行った。乱暴に開けられた扉から入る風が眼球にだけ涼しかった。残念ながらそれ以外は泥で固められ汗まみれで暑苦しいばかりだった。
「じゃあ、最後に残った人には私の秘密を教えてあげるわ。...私ね大好きな人に捨てられたの。それで隣国の神様に魂を売り渡したの。代わりにその人が戻って来ますようにって。」
サラは衝立を退かすと冷たい刺す様な目で俺を見ながら優しく泥で出来た張り子の俺を撫でる。
「大丈夫、ハーレムは残してあげる。皆で仲良く暮らしましょう?」
いやこのままだと脱水症状で死ぬに違いない、まあそれでサラの気が住むなら仕方が無いか?
だがラヘル、彼女を救わなくては。
しかしながら脱出できたとしてこれ以上サラを傷つけて迄ここを後にして良いのとは迷った。それに全く力の入らない状況で打つ手も無かったのだが。
『はあー、夢なら皆の裸が拝めて大喜びしただろうに。現実は何故こうも儘ならないのか。』
そして俺の意識はグルグルと回りながら深く暗い奈落の底へと落ちていったのだった。
いつも読んで頂き有難うございます。
後10話で完結予定です。お楽しみ頂けると幸いです。




