第56話 スパイ? オン ザ ファイヤー
コーヤの避難先で俺たちは作戦会議をしている。オマイとヨエはお使いに出して居ない。
今話しているのは再教育装置なる物で正義に目覚めたダイリーグさん。
この後彼女はスパイとしてエノッシュの所に戻ってくれる事になっている。
そしてダイリーグが言った。
「所でエノッシュのスパイは放置して宜しいのですか?」
◇
ハッシュとアローケスが自分たちが疑われるのではという気まずい顔をしているが安心しろ、今の所お前たちは疑っちゃあいない。
「その件はこちらで対応するのでお前はコーヤに定期的な連絡を入れてくれさえすればいい。命令とあらば俺たちを襲ってもいいぞ。」
ダイリーグは少し目を伏せると悲しそうに言った。
「コーヤ様にエネルギーを抜かれましたので今の私に戦闘能力は在りません。もしかするとエノッシュ様の傍に置いて頂けないかも知れません。あの方は常に前しか向かない方です、きっと力を失った旧作の復旧などにはご興味を示さないでしょう。」
ハッシュとアローケスがうんうんと頷いていた。思えば二人も被害者だよな?勝手に作られて悪事に利用され最後には捨てられる。
ダイリーグを送り出すとアンナが噛みついて来た。
「ちょっとガブ! あんたスパイがいるって知ってたの? 誰なのよそれ!」
「馬鹿かお前は? 誰って特定出来てたらとっくの昔にふん縛っている。」
「オマイさんとヨエさん、二人をお使いに出した事と関係あるのですか?」
ハッシュは賢いな。
「うむ、疑いたくは無いが不確定要素が強いのがあの二人である事は紛れも無い事実だ。」
「姉さまと私の事は疑わないのか?」
「うむー、疑ってもいい状況ではあるのだが。お前たち普通に親であるエノッシュの肩を持つだろう? スパイならもっと隠すと思うんだよな。」
「オマイニーだけは絶対違うからね!ゼツタイ!分かった?ガブ」
アンナがしつこい程念を押してくる。
「何で付き合って一月も満たない奴の肩をそれ程持つんだ、彼女がエルフだからか? 確かにエルフ国にいたのならばエノッシュとは無関係だろう、しかしこっちに来てから寝返った可能性だってゼロではないというのにお前の言う絶対の根拠は何だ?」
「う…そっそれは…とにかく彼女はガブを裏切ったりしないわ!」
「まるで奴が俺に惚れているとでも言わんばかりの言いぐさだな。」
「そっそうよ!こうなったら言ってやる。彼女は貴方の事が好きなのよ!!」
アンナがテーブルに両手を付いて大声で叫ぶ。
そして仕舞ったという顔をして小さく言い足す。
「彼女恥ずかしがり屋だからみんな知らないふりをしてあげてね?」
椅子に座った全員がずり落ちそうになった。
「もしオマイニーさんで無いとすると残るのはヨエさんに成りますが彼女は表裏の無い人だと私は思います。彼女より私たちの方が疑わしいのでは?」
「ハッシュ、ヨエに関するお前の評価はそっくり俺の物と同じだ。そして繰り返しになるがお前たち姉妹を疑わない理由はお前たちエノッシュに見捨てられたが今でも親であるエノッシュの肩を持つしエノッシュに害をなす事には堂々と反対するよな?俺はスパイなら逆の行動をとると思ったんだ。それだけだ。」
◇
午後から移動を開始した。
コーヤ製通信機を持たせたダイリーグを送り出すと次は俺たちの番だ。
オマイ達と同じように首都近くまで転送陣で送って貰うと冒険者本部を目指す。予定では協力してくれる獣人を連れたオマイ2号とヨエがそこで待って居る。
しかしその期待は首都目前で蜃気楼の様に揺らぎ始めた。
煙が見える。
どうやら火事らしい。
城門から中に入ったが未だ煙は収まる気配がない。余程大きな火災か? 煙は繁華街の中心から立ち上っている様だ。
「ああやっぱりか」
「相当…強力な火力ね…」 アローケスが呟く。
アンナは小さな火傷を負っている人たちを見ると慌てて駆け寄り、そこからは行く人々の火傷治療に大忙しとなった。
「あっオマイさんとヨエさんが居たわ!」 ハッシュが駆け寄ろうとする。
「まてハッシュ!今は他人の振りをした方が!!」
俺の制止も間に合わずギルドの上層部らしき男達がオマイ2号とヨエを囲みながらこっちにやって来た。
「君が責任者かね?困るんだよ、闘技場で極大魔法なんかぶちかまされた日には。」
オマイ2号の目は左に右にスイスイ泳いでいる。
俺は腹を括った。
「そいつ等は未だギルドに登録された者でもあるまい、事前に良く説明しなかったのでは?」
男のコメカミがピクピク動いた。これはブチ切れる寸前だと思った。
「ここは愛の女神コーヤ様が治める都市だ。悪人でも改心すれば許しもするがその態度は頂けないな。」
「コーヤならさっきまで一緒にいたぞ。」
周りの男共が更に殺気立った。
「嘘を付くな!」
「我々でさえお姿を拝見する事が出来ないんだぞ!」
口々に俺を口撃する。
「大体、闘技場には魔法を封じ込める結界を張るもんだろう!結界はどうしたんだ結界は!」
俺が大声を出すと釣られて相手も大声で叫ぶ。
「結界が決壊したんだよ!魔法出力に常識が無いのか此奴には!」
◇
謝りました。
幸い結界の破損は部分的な物で(万が一結界が損傷した時の為に部分的に弱い部分を作ってあり、そこから魔力を外へ放出する様になっている。)火が外の排気口に噴き出している間に皆非難し死者は居なかった。だが地下がかまどの様相を呈して勢いを衰えない為1Fにある重要書類やアイテムなどが入った耐火金庫が心配との事、早く火を消さないとまずいとの事で俺は不得手な水魔法で消火の手伝いをする。
その内リノやカサムがやって来て消火を手伝ってくれた。
俺が皇子・皇女と知り合いでカサムから女神コーヤとも顔見知りである事を聞かされたギルド本部の連中は感心するやら尊敬の眼差しで見つめるやら、とにかく許して貰えそうな雰囲気になった。
オマイは花火遊びでボヤを出した子供の様にうなだれて立っている。隣でヨエが慰めている。
俺が近づくとオマイはビクッとした。怒られると思っているのだろう。
「オマイ心配するな。お前は無茶苦茶だが意図して俺以外の人間を危険な目に合わせようとするような畜生じゃない事は分かったいる。おっとそれは男の方のお前だった。オマイニー、お前の事は良く知らんがアンナがあれだけ信用しているんだから俺も信用する。」
そう言うとオマイニーは目に涙を受けべながら俺の胸に飛び込んで来た。
「うわぁーん、ごめんさい!試合で後ろから胸を捕まれて!咄嗟だったから手加減が効かなくて!」
「はいアウトー、喋る前に『はははは、』を忘れたら腕立て10回ね!」
「…グス…グス…ガブ…1回・・・グス・・死ねば……いいのに…グス…ガブ…2回…」
「ぺったんこの胸が地面に付くくらい深くやらないと筋肉が付かないからな?」
そう言うと物凄い顔つきで睨み返して来た。
くすくす、かなりダークサイドに足を踏み入れた様だ。このままだとダークエルフになっちまうぞ?
そして俺はアンナを呼ぶとギルド幹部と話をする。お詫びに俺たちが獣人国から帰ってくる迄の間だけ二人+アンナをギルドで労働させる。賠償金代わりにはとても足らないだろうが破られる様な軟弱な結界を張ったギルドにだって過失は在る。あと勝手にオマイの胸を触った過失も。
リノ達を証人にそれで手打ちにした。
今日はリノの屋敷で世話になる事にして皆でお邪魔した。
「ガブ様!」
屋敷に入るとカゴが抱き付いて来た。
うむ少しふっくらしたか?抱き心地が増した気がする。暫く抱きしめていると下の子供達に見つかって俺は全員にもみくちゃにされた。
読んで頂き有難うございます。




