第52話 ドッコイセン鬼神モード
誤字訂正しました。
女神が笑った。
「あら、ガブ君は何時から気づいてたの?」
「いや、実際まったく気づきませんでした。分かったのはここに入ってから急にですね。恐らくドッコイセンさんは俺やルシ夫、クックとは違って体内に多くの黒体を持つタイプの戦士ではなく特定のフィールドでエネルギーを受信しながら戦うタイプ、防衛向けと言った所でしょうか?」
「流石はエノッシュの力作、知識もかなり詰め込んで有るみたい。彼は貴方を影武者にでもする気だったのかしら?」
何処まで本気なのか疑わしい。嘘くさい目つきで話す女神に俺はムッとした。そして奴はラヘルの仇であるから奴の影武者など冗談でもお断りである。
戦いの方は残念ながら一方的だった。クックに勝てないルシ夫が最盛期のアローケスに勝るとも劣らん力を見せる鬼神モードのドッコイセンさんに叶う筈がない。ああ、あの時のアローケスは恐ろしかった...
「さあ、私の勝ちね。」
女神はクスクス笑いながら言った。
「いや、ドッコイセンさんはルシ夫の仲間で俺の仲間でもあるから俺の仲間が勝ったとも言える。」
「そうね確かにうちの子が勝ったけど、もう一人の子が負けただけ。経済も案外そう言う物かもよ?」
「何がしたかったんだ?」
俺は深く美しい女神の目を覗き込む。
「貴方の戦う所が見たかっただけ。」
「女神のご要望とあれば!」
俺は全力でドッコイセンさんに殴りかかった。
◇
「惜しかったわねえドッコイセン。でもよく頑張ったわ、流石私の娘。」
女神が倒れたドッコイセンさんに治癒魔法をかけている。
「貴方も良く頑張ったわ、ガブ。」
俺もまたボロボロの状態だ。アンナの膝枕にぐったり横たわる。キツかった、全然バテ無いんだもの彼女。
最初の試合で負けたルシ夫はまだ椅子の上で正座させられている。可哀そうに。
「おかげで現時点でエノッシュに攻め込まれても完全に撃退できる事が分かったわ。」
そういう女神の後ろからはドッコイセンさんそっくりな女性が二人。ルシ夫が「姉ちゃん達…」と呟くと又ガクガク震え始めた。普段から余程しごかれていたんだろうな。
お礼にと言うか、俺は聞きたくなんて無かったがカノーに依るコーコーヤ経済講義をお茶を飲みながら聞く。
「先ず前提として現状は現物貨幣経済という所にある。つまりビットコインは愚かクレジットカードも発明されていない原始経済という事だ。」
他の皆が首を傾げてポカンとしている。
「そりゃあクレジットカード何てこの先何世紀先になるやら。」
俺がふとそう溢すとカサムが目を輝かせて聞いて来た。
「ガブ、それ何?貴方すごく物知りなのね!」
物知りの原因は女神が知っていた。それは俺も知らなった事だった。
「ルシ夫やガブ君には記憶やスキルを制作時に刷り込んであるの。ニューロプリンティングという技術なんだけど、とにかくガブ君の場合一通り以上の魔法の知識に加え、私や旦那、エノッシュと言った〇〇〇の弟子と呼ばれる者達しか知りえない記憶や知識まで刷り込まれている様だわ。」
〇〇〇は妙な発音で聞き取れなった。俺の知らない言語だった。
「つまり俺は生まれながらに力に加え知識を持って生まれ。努力したわけでも何でもないという事?」
「そういう事」
「つっつまり師匠は努力不要の天才という事ですね!」
ルシ夫お前は良い奴だ。お前のそう言うところが大好きである。
「話を続けよう。分からない単語は都度聞くように、それともう一つ言っておくが経済自体に善悪は無い。しかし経済活動の結果は大多数の人間を不幸にする事がよくある。」
「えっ?でもカナンは貿易で栄えて国民は豊かで幸せそうだったわ。」
「勿論経済の効果で何でも効率的になったり夢の様な娯楽も生まれて人々は豊かになる(全員では無いがな)。豊かさによって人が幸せを感じる事も確かだ。」
ではなぜ?
「人は幸せを求める生き物だけど人間は幸せになる目的では設計されていない。昔どこかの本で読んだわ。」
うーむ、深すぎる言葉だ‥‥しかし女神がそう言うのを言うのは如何だろうか?
カノーが続ける。
「経済にだって目的はある、お金を稼ぐ事だったり生活を豊かにする事だったり。天国と地獄にいる一組の人間の話を知っているかね?そいつらは空腹で鍋を目の前にして1mもの長いフォークしか持って居ないんだ。しかも小さな柄以外を持つことを禁止されている。さて、地獄の者共は我先に鍋をつつき食べ物を口に運ぼうとするが勿論フォークが長すぎて食べられない。そして涙を流して言うのさ、ここは地獄だと。一方天国の者達はお互いにお互いの口元へ食べ物を運び満腹になりましたとさ。さてこの比喩に於ける実態経済の立ち位置はどちらだ?」
「地獄の例えが近いかな?」
「正解だカサム君。まず人間という生き物は自分の安全マージンを確保してからでないと人を助けない生き物だ。空腹ならまず自分が食う。勿論何事にも例外はあり話は一般的にという接頭語を省略して話を進める事にする。空腹ならまず子や親に食べさせるという者だって居るだろう。しかしながらだ!大多数は自己優先的なのだ。特に大陸狩猟系の民族はそうならざる得ない。そうすると自ずと経済活動の結果も見えてくる。富を持つ者は安全マージンを稼ごうと更に富を得るために自分に有意なルールを作る、また時にはルールを捻じ曲げ破ってでも富を更にかき集める。しかも始末の悪い事に彼らは自分の安全マージンが十分に取れた後もそれを止めようとはしなくなる!なぜだ?
勿論ポンと国に大金を寄付してくれる奴も中には居るかも知れないが全体から見れば焼け石に水だ。」
「つまりコーコーヤは此れからどうなると?」
「ふむ。一つ確かな事を教えてやろう。経済が発達して国民が裕福になると貴族は税金で贅沢に耽るか税を自分の地位向上の為に浪費する。そうして非効率になった経済は低迷を招き迷走し始めた貴族統治はいずれ滅亡する。此れが答えだ。私が決めた訳では無い。地獄の住人たちが目の前に与えられた鍋と長いフォークと言う神からの贈り物を有益に使わないのが悪いのだ。」
俺はフムフムと聞いて居たのだが横を見るとルシ夫とクックは居眠りしていた。まあこいつらにはこんな話は関係ない話だから。何事も持ち分だと思いながら二人の子供の様な横顔を眺めていた。
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