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第45話 嵐の前日

 オク大臣は城の深部へと向かう。カノーにコーコーヤ国と始まる戦争の事を報告する為である。


 マスター・カノーは激怒する事だろう。しかしこの国の将来の為には必要な事だ。そうオクは考えていた。


 報告が終わるとマスターカノーは不機嫌を隠そうとしなかった。


 「オク、お前が居ながら何故その様な愚行を許すのだ?この国は自由貿易で成り立っている。他国と戦争をして何の利益がでると?」


 「恐れながらマスター・カノー様。西国ハニーランドはジョア帝国,エルフ国に攻め込まれもう少しで占領される所でした。」


 「それが?」


 「我が国にも軍備強化が必要です。」


 「自衛に必要な分は認めよう。それ以上は無意味だ。」


 「我が国だけで周辺国全てを相手するのは大変です。今コーコーヤはハニーと同じく平和に胡坐を掻き防衛力が著しく低下している状態にあります。これを落とし周辺国への干渉材とすれば我が国の負担は激減します。またコーコーヤは獣人が多いのでそれを国境軍に当てれば人類の損害は軽微で済みます。」


 残念ながらカナンでは獣人の扱いは高くないのだ。


 カノーは顎に手を当てて少し考えると言った。


 「それは短期的な視線で長期的にはコーコーヤに自力で自衛力を付けて貰った方が良い。カナンの防衛力を高めるにしても兵器を工夫する等、他に取れる選択肢が多いのでは?」


 オクの目が鈍く光った。


 「残念ですマスター・カノー。この国は代々貴方の助言に依って繁栄してきた。しかしこれからはもっと自分達で考える事にします。」


 ガチャガチャと城の衛兵達が踏み込んで来る。


 すかさずカノーが椅子のスイッチを押すと天井から雷が幾重にも落ちて兵士たちを黒焦げにする。


 オクは背を向けて一目散に逃げだすと後から来た兵達に入口を塞いでしまうように指示した。

 

 何も知らない兵達は言われた通りに通路を物で塞いでしまう。



 こうしてカノーは閉じ込められてしまった。


 しかし悠久の時を生きて来た不老者である彼をこの程度で留めておける筈もなかった。


 彼は杖と呪符を取り出すと空間転移の魔法を発動させる。


 が、今度は彼が驚く結果となった。


 「発動しない!発動を妨害する何かがこの部屋を覆っているのか?馬鹿な...。カナンの民如きにその様な真似が出来る筈も無い、出来るとすれば…。」


 彼は目を瞑り嘗ての師、そして兄弟弟子たちを思い出す。経済と発展に興味を持った自分。友愛を通した発展を説いたコーヤ。彼女は良き理解者でもだった。争う事が生物の本質だと主張したジュア、奴か?いやジュアの支配地域は遠い。それに奴ならもっと直接的に攻め入って来てもおかしくない。進化を説いたエノッシュ。奴の進化論に出てくる力の源は大地が生物の生き血を吸った結果蓄えられる物で奴は其れをハニー(蜜)と呼んでいた。最近ジュアと結託して戦争を起こした様だが未だ不足だったとでも言うのか?


 ◇ ◇


 大きな邸宅が並ぶ大通りを一人の男があるいている。


 大臣のオクだ。



 彼は草木が鬱蒼と茂ったとある邸宅のドアをノックした。


 そして返事も無いのに勝手にドアを開けるとズカズカと中に入って行く。


 正面の大階段を上ると廊下を進み、更に突き当りの小さく粗末なドアを開けた。

 

 使用人の小部屋であろうか?


 いや、そこは隠しエレベーターになっていた。


 彼はエレベーターを使って地下へと降りて行く。


 地下ではアローケスともう一人金髪の筋肉少女がエレベーターの前で剣を構え仁王立ちに立っていた。


 「アローケス様、シュー様。私ですオクです。どうか剣をお納めください。」


 二人が剣を納めるとオクは玉座に座るエノッシュの前へと進み報告した。


 「マスター・エノッシュ様、上手く行きました。ご指示通り塞いだ出口には頂いた札を貼りつけました。」


 エノッシュの表情は黒ローブに隠れて良く見えないが、口元が笑いの形を作った様でもある。


 「そうか、でかしたぞオク大臣。これでこの国は君の物だ。さっそくコーコーヤを攻め落とし植民地とするがいい。貴殿の護衛にはアローケスを貸そう。」


 エノッシュが指を鳴らすとアローケスの体が光に包まれ、光の中から褐色の鎧に包まれたアローケスが現れた。



 ◇


 「その後、オク大臣は国王を言いくるめて軍の統括権を掌握し、国王を体よく応急に幽閉する事に成功した様子です。カノー様も同じく幽閉されたまま...」


 外から戻って来たハッシュがそう教えてくれた。


 「更にオクは彼自らが将となりコーコーヤに攻め込む為の兵士を募っています。規模は5万人だとか。」


 それを聞いたカサムが青ざめる。


 「どうしよう!今のコーコーヤじゃ負けちゃうかも。」


 しかし、俺が


 「よし、じゃあ俺たちもカナン軍に従軍しよう。」


 そう言ったので、カサムが本気で怒った。


 「何でそうなるのよ!」


 だって、軍に入ればオクに近づけるじゃない?そいつを捕まえるのが当座の目的だから。


 捕まっているリノ達には申し訳ないがもう少し待っていて貰おう。


 「クッ子は目立ちすぎるから今回は出番なし。俺一人で行って来る。」


 ◇


 郊外に設けられた臨時の駐屯所は混雑を極めていた。


 新兵達は名前を聞かれると槍か剣を渡され配属される。鎧も盾も無かった。


 また、兵士以上に将兵が不足しているらしく、新兵2~30人に対して指揮官が一人付くといった頽落で、とても集団戦が出来るとは思えなかった。


 それに見回してみると、新兵の多くは昨日まで浮浪者や盗賊だったのではと思える様な顔つきの者ばかりである。


 今俺はサラシを撒いて胸元までの鎧を付けている。一応気が付かれていない様だが中にはいい尻だと触って来る不届き者もいる訳で...。そういう奴の腕は遠慮なく折ってやった。2-3人腕を折ると呼び出され隔離されたが慌ただしい中である、直ぐに不問になり解放された。


 目前に迫った行軍開始に向けて、皆それどころでは無かったのだ。


 まず寄せ集めの兵で数だけはある程度揃えた物の兵站が追いついて居なかった。


 山中でちょいと足止めすれば直ぐに食糧難で崩壊するレベルである。




 俺はトイレに行くと言って茂みに入ると首元からネックレスを取り出し話しかけた。


 『ガブだ。こいつら丸っきり使えそうに無い。兵站が薄いから途中で足止めすれば食糧難で直ぐに瓦解しそうだ。』


 『うわっ本当に聞こえるよ!ハッシュこれ凄いね。 「エノッシュ様特製だからな、山3つ分くらいは裕に届く。でも消費魔力は微々たる物という優れもので…」』


 じゃあ、何でエノッシュと直通出来る物を持っていないんだと文句を言ったのだが、持っていない物は仕方が無いとアッサリ言われたのを思い出していた。


 『カサムはクッ子を連れてコーコーヤへ。一刻も早くこの事を知らせるんだ。ヨエとハッシュにはカナンでお願いがある。』


 長い小便だなと盗賊風の同僚が近づいてくるので慌てて通信を終えた。


 出発は明後日らしい。何と兵自らが兵站も兼ねて大量の水と小麦を背負って進軍するらしい。


 まったくバカバカしかった。


 こうして前途多難なコーコーヤ戦役が始まった。


何時も読んで頂き有難うございます。

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