第42話 カサムとゴーツースリープ
カナンに戻るに当たって腕を見込まれた俺達はギルドから依頼を一つ受けた。
内容は希少動物の輸送である。
なんでもコーコーヤ王からカナン王への贈り物らしい。そんな大事な物を冒険者に運ばせていいのかと聞いたら王族の一行も同行するという。3番目の王子で自由奔放な性格らしい。
輸送する動物は白いクジャクだった。とても珍しいらしいが元が奇麗なクジャクが白くなっては意味が無い気がするのは俺だけだろうか?
「師匠!師匠ってば。」
隣で煩いのはルシ夫である。あの後ルシ夫に生い立ちを訪ねたのだが、やはり俺と同様過去の記憶が曖昧だった。若しかすると兄弟かとも思ったが彼曰く、四人の姉がいてコーコーヤ育ちらしい。彼が人造であるのは戦った感触から間違いないのだが、遠くハニーランドから遥か離れたこの地にそんな存在がいる意味が分からない。
「エノッシュは何て言っていた? 彼は探求する者達の一人だと。するとこの地にもその誰か居ると考えるのが自然だが?」
しかし俺の独り言は騒々しい声にかき消された。
「ガブ!やはり強力な護衛とはお前だったか。それで俺の所に来る気にはなったか?」
リノだった。随分派手な鎧を着て馬に跨っている。
「リノ王子、一人で動き回らないで下さい!あっガブ、クッ子!」
カサムだった。白銀の軽鎧に立派な刺繍の入った惚れ惚れするようなマントを身に纏っている。
「王子様一行だなんて知らなかったよ。これまでの非礼は許してくれ。」
俺がリノに言うとカサムが笑いながら言った。
「第3位だし、ハーレム傭兵団を作るとか言ってる馬鹿王子だから気にしないで。」
「カサムはリノの従妹なの。低いけどちゃんと継承権も持っていわ。私達平民があんなこと言ったら打ち首だからね。」
そう補足したのはグラだ、サランも居る。俺はグラとは仲良しだがサランの事は少し苦手だ。サランの俺を見る目には微かだが敵意が混じっている気がしてならない。
「王子だか何だかしらねーが師匠に色目を使いやがってー!」
ルシ夫がリノに向かって行こうとしたので、ナアさんとニジさんがしがみ付いて止めていた。
俺はクッ子に目で合図した。
アイコンタクトを受けたクッ子は、つかつかとルシ夫に近づくとノーモーションにて鳩尾へパンチを見舞う。
「ルシ夫、クッ子のパンチに耐えるのが修行の手始めだ。早くそれを食らっても立ち続けれるようになれ。」
悶絶中のルシ夫がそれでも「はひぃー」と返事をした事には大した物だと思った。
◇
「出た!ブラックエンジェルの群れだ!」
やった!此奴らは来るときに狙っていたお宝モンスターだ。
リノ達が荷物を守るために馬車を囲むと、俺たちは他の護衛達と共に前衛でモンスターと対峙する。
ブラックエンジェルとはその名の通り真黒で天使の様な形をした不思議な魔物だ。
こいつは魔法が殆ど効かないという特製を持っているが、俺の狙いは銀貨1枚で売れるという背中の羽である。全部むしれば一体1匹辺り幾らになるのだろうか?
討伐ランクはCだが時々群れで行動し10匹以上の群れは討伐ランクがBに分類される。これは平均的な4人パーティーで全員Bランクの実力であるとき大崩れなく討伐可能という事を意味する。
ちなみに今此方側の前衛はこうなっている。
俺-ランクA(実質S以上、剣+魔法攻撃)
クッ子-A(実質S以上-鉤爪攻撃)
ルシ夫-A(実質Sクラス?-剣)
ドッコイセン-C(回復役)
ナア-C(魔法攻撃)
ニジ-C(剣,シーフ)
国軍兵士-C(剣)
国軍兵士-C(剣)
国軍兵士-C(剣)
Cランクが多いが俺たちは易々とブラックエンジェルの群れをかたずけて行った。途中で敵の数が増えたが物ともせずザックザックと切り伏せて行く。因みに黒羽が焼けるのを恐れた俺は魔法を一切使わずに剣だけで黙々と狩る。
「ガブって剣の方も凄いんだねえ。」
後衛のカサムが俺にすり寄って来た。
「師匠に近づくな!」
ルシ夫がカサムに噛みつく。
「なんで?リノは分かるけど女同士仲良くしてもルシ夫君には関係ないんじゃない?」
「師匠は自分の事を男だと言っている。だから万が一にもお前の事が好きになるかもしれん。」
カサムが大笑いした。そりゃあねえ。この胸の膨らみを見てたら急には信じられないだろうよ。
「ルシ夫、俺が女に惚れる事はもう無いと思う。」
だから安心しろ。
「しっ師匠っ!て事は俺が頑張れば俺の事を グボー!」
クッ子のパンチを食らって悶絶するルシ夫。クックには戦闘中以外はルシ夫が隙を見せたら容赦なく腹パンする様に言っておいたから。あれ?今戦闘中じゃなかった?
カサムが悪戯っぽく微笑している。うーんその表情が気になるなあ。
◇
大漁の後。
夜は天幕を張って野営をした。
今回は護衛の人数が多いので、2日に1回は非番となり、夜間ゆっくりと休める事が有難かった。
俺たちの天幕は一人用で簡単な物だったが、野宿には慣れているので快適至極に感じられた。
夜更けに天幕の入口が上がる。
気配が上手く読み取れなかったので、直前まで誰か分からなかったがカサムだった。
彼女は四つん這いで俺ににじり寄って来る。
「おい、いいのか?お姫様が夜這いなんかして。」
「ふふふ、本当に男の人見たいに喋るのね。」
「だって男だからな。」
クスクス笑ってやがる。
「今日ずーっと後ろから見てたわ。ガブって何故あんなに強いの?羨ましい。」
強いのは確かにありがたい。だからと言って人生の方は上手く行っていないのだが。
無言の俺をカサムの顔が覗き込んで来た。
「おい、顔が近すぎる。」
「ねえ、ガブ?私の事どう思う?」
「何とも。」
「男なのに何とも思わないの?」
「うん。」
「そう!でも私はガブに興味があるの。ガブも私に興味を持ってくれると嬉しいなあ。」
ごろりと背中を向けて眠るふりをした。
「あら意地悪ね。でも私諦めないから今日は此処に泊まるわ。おやすみなさい。」
そう言ってカサムは狭い天幕の中でぴったりとくっついて来るとすやすやと寝息を立て始めた。
「たいしたもんだ俺の方が目が冴えちまう。折角の非番だっているのに…」
しかし久しぶりに誰かと一緒に寝たら案外ぐっすり寝れた。そしてラヘルの夢を見た。まだ村にいる頃の楽しい夢だった。
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