第36話 愛しのラヘル
やっとの思いで暗闇から脱出した俺とクックは出口である山中の洞穴から抜け出るとその足で南を目指す。
平地にでた所で上空から飛竜に乗った若い騎士がやってきた。兜を取った五分刈りが逞しい体によく似合っている。中々精悍な若もので非常に良ろしい。
「クックさん!それともしかしてデュークさん?マスクは被らなくて良いんですか?」
「ああ、被る者が無くてな。なんでも良いから袋があったらくれないか?」
そう言って薬草袋を貰うと目鼻の位置に指で穴を開けて被る。薬臭いし土臭い...辛抱だ。
「お二人が帰って来ないので捜索隊が出ています。休戦会議は終わり諸侯は自分たちの国にお戻りです。エルフのピュレーン大使からは一度エルフ国を訪れて欲しいと伝言がありました。…あのう?なぜ腕を組むのでしょうか?」
知らず知らずの内に若い騎士に寄り添い腕まで組んでいた。指摘されてハッと距離を置く。
「とっとにかく俺たちが西都に帰れるように馬か飛竜を寄越してくれ。それに水と食料だ。」
◇ ◇
西都に戻った俺たちは盛大な扱いを受けた。それからサラと俺の結婚式に参列する為にラヘルが都に出て来ていた。
サラには屋敷に泊まる様言われたが俺はクックとホテルに泊まった。えっ?何故マターンの所じゃ無いかって?奴らはもう賊軍じゃあない、官軍だ。とっとと新しい屋敷に引っ越し中である。引っ越しの手伝いが終わればヨエも此方に合流するだろう。
そして今。ラヘルが部屋に尋ねて来ている。
クックはイシュア女王に呼ばれて王宮だ。
イシュアのバックには元王とその側近達が付くらしい。そりゃあ行き成り国政なんて無理に決まっているからな。しかしパプティムス大公派は粛清され投獄もしくは閑職へ追いやられたが引き続き府抜けた連中が舵を取っていてはこの国もこれから如何なる事やら。
という話をラヘルにしていたら、何だかほっぺを膨らまして不満そうである。
「何怒ってるんだ?」
「だって、さっきから黒いローブがどうのとか、この国がどうのとかそんな話ばっかり。私はガブと昔話がしたかったから態々サラ様のお屋敷から抜け出して来たのに...。」
昔話?
「ねえ、覚えてる?初めて会った時の事。私ガブが怪我して脚から血を流していたから持ってた薬草をあげたのに、苦い苦いって言いながらあっと言う間に食べちゃったよね?」
「腹が減ってたんだ。ずーっと食って無かったから。あれ食っても一応効くんだろ?」
「それからよく一緒に食べ物を探して歩いたよね?」
「ああ、ラヘルの言った所を探せば食い物に有りつけたな。あれは助かった。」
「私、ガブが一生懸命食べているのを見るのが好きなの。」
「…?俺の事が好き言うのとはどう違うんだ?」
「もうっ!勿論ガブの事が好きよ。サラ様に取られちゃうなんて夢みたい、油断してたわ。」
「ラヘルが良いって言ったんだろう?サラに。」
「うーん、そうなんだけどねー。えーっとガブ?二人きりだしドアに鍵も掛けたからマスクは外しても良いんじゃない?」
「そうだな。」
俺が後頭部に手を回しマスクの紐をほどいて行くと途中でラヘルが声を掛けて来た。
「あっその先は私が取ってあげる。1回くらい良いでしょう?ちょっとそんなに睨まれたらやりづらいから目は瞑って。じゃあ、いくよ?」
マスクが取られると同時に、唇に柔らかな感触が覆いかぶさって来た。
驚いて目を開けると見慣れたラヘルの顔が見たことも無い超近接でそこにあった。
一頻り唇を重ねた後で俺は尋ねた。
「ラヘル、どうしたんだ?」
「へへ、サラ様に取られちゃったから。結婚した後にこんなこと出来ないでしょ?だから思い出にと思って。」
ラヘルが目を潤ませながら言った。
俺はサラと結婚する事に罪悪感を感じ始めていた。もともと駆け落ちというのはサラのが家出する為の口実でしかなかった訳だし。
「ねえ、嫌だった?」
そこには何時もの明るく元気が取り柄のラヘルだけでなく、美しくも妖艶な若い女性が居た。
「嫌じゃない。ずっとラヘルとこうしたいと思っていた。」
嘘偽りのない言葉だった。だがそれがどうした?何の慰めにもなりやしない。
「本当?じゃあ続きをしよっか?」
結婚前だからギリギリセーフ、結婚前だからギリギリセーフ、世間一般ではアウトでも俺の中ではセーフ、呪文の様に何度も念じながら俺はラヘルと初めての一夜を明かした...。
◇
あれから2日間ラヘルとは会っていない。風邪気味だから伝染すと良くないからと言ってサラの屋敷で部屋に籠っているらしい。まあ、裸で寝ていた訳だしね…。
しかし俺の方もどうやら体調が妙だ。気分のポジションが依然と違う。それにすこし太った様だ。腹回りは少ししか変わらないが胸周りや尻周りがぽっちゃりしている。そして何故かお喋りになった。サラの家政婦さんと”誰々さんの噂”だとか”何処何処のお店”だとか何かよく分からないがくっちゃべって時間があっと言う間に過ぎて行く。
家政婦さんの名前はエイミーさんという。彼女は体付きは細身でスサノハさんには及ばないが美人である。以前ならこういう美人さんの近くに居たら何かドキドキして、イケない事だが唇や胸元や足元やいろいろな所に視線が行くたびに頭の中がヤバい事になっていた気がするのだが最近はどんな女性と話していてもそう言う事は無い。慣れてしまった様だ。
そして式があと3日と迫った日の事、その痛ましい事件は起こった。
「ガブ様大変!ラヘルの部屋に化け物が!」
何時も読んで頂き有難うございます。




