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第33話 暴徒

 戦争が始まり西都北西部が戦場となった。怪我人がどんどん西都へ運ばれ、臨時の病院が放つアルコール臭が大通りまで漂う中で戦況は絶望的だった。王国は長年の平和に胡坐をかいて碌な兵力がなかった上に3大公達は私軍を出し渋ったのだ。


 一方戦場ではエルフ軍が後方から魔法や弓を放って来るが彼らも決して前に出てこなかった。


 必然的に接近戦闘は人族同士での争いとなる。


 敵の前衛はジュア帝国の兵達である。元々このハニーランド王国が外交に失敗した結果エルフ国から宣誓布告を受けた訳だが、ハニーランド北方にあるこの帝国はエルフ国との同盟を盾に共同で攻め込んで来たのだった。


 「…で?俺に何をしろと?」


 起き上がれる迄に回復したマタロンを前に俺は椅子に深く座ると腕と足を組む。これは内心拒絶のポーズだ。


 「それは私から説明しよう。」


 そう言って切り出したのは騎士団長のムシュマットさん。


 「これは王からの密命である。他言無きように。」


 そう前置きをするとヒソヒソ話始めた。


 王は此度の戦に心底心を痛めていて事態の収拾を図った。今回の戦争の原因は明らかにパプティムス大公のエルフ大使軟禁に端を発する。しかも大公には王家の暗殺疑惑まである。そこで大公を失脚させ尚かつ戦争を白紙に戻す策を計画した。


 2週間後に西都から北へ10kmの地点で休戦協定の話し合いの場が設けられる。


 王国側はエルフ連合が求めて来た3つの条件、すなわち王の退位、エルフ国への謝罪及び王国内でのエルフへの優遇処置、北部地域の帝国への譲渡を回答するのだが、その場で大公が行った王国への裏切り行為の数々を暴いて責任を大公へ押し付けるのだと言う。


 俺はその話を聞いてもピンと来なかった。確かにパプティムス大公が原因だ。奴は悪い。


 しかし戦争にまで発展したのはそれを国内で止める者が居なかったからなのでは?つまりエルフ国からしてハニー王が無能だから退位しろ言いたくなるのも無理からぬ事であろう。


「大公はその会談の場で自身の孫娘を次期女王として紹介する積りらしい。そして自分が王国の実権を握ろうとしている。」


 マタロンは苦虫を潰したような嫌悪感丸出しの表情で言った。


「そいつは流石に呆れるなマタロン。それで?」


「ガブ殿、私にはマルティーニ・タ・ロディオンという素晴らしい名前があるので出来れば略さずに呼んで欲しいのだが。」


「煩い。却下だ、嫌なら貴様の事をまた、”イエン”若しくは”まっちゃん”と呼んでやる。それで?」


「ぐぅ。実は王に招聘された。会談に姫をお連れする様にというお達しだ。姫は行方不明という事になっているが今や継承権第一位。ガブ、護衛をお願いしたい。」


「誰が王になろうが興味ないのだが、考えておく。」


 俺はそう言うと部屋を後にした。


 見回すが家の中にイシュアの姿は見えない。


「ちっ。外をウロウロしてたら危ないじゃないか」


俺は外に出ると耳を澄ます。直ぐ近くで何やら人だかりが出来ていた。そこか?



町人達が騒いでいる。


「エルフだ!俺たちの国に責めて来やがった奴らの仲間だ!」


「やっちまえ!従妹も戦争で死んだ!」


「私の息子も戦場へ駆り出されたわ、みんなエルフのせいよ!」


 そうか?そもそもエルフが攻め込んできた理由が欠落しているんじゃ無いのか?


 何だろうこの街の反応。原因が数珠繋ぎだと1個しか遡って議論できないって事なのだろうか?


 買い物袋を抱えた大猫娘(実は虎娘)フォウがフードを取られたアロンを庇っている。何だアロンってエルフだったのか。教えてくれりゃピュリーンさんの所まで届けてやったのに。


 さて現在の状況は...良くない。力ならフォウが勝りそうだが奴隷なので手を出せないでいる。


 ユックリと人だかりに近寄った頃にはイシュアが両手を上げて二人の奴隷達の前に出ていた。


「アロンとフォウがお前たち知り合いに直接手を出した本人では有るまい。止めるのじゃ!」


 正論だな。だが見ず知らずの子供が大人に正論を言うとどうなるか?イシュアにはいい勉強になったと思う。


 もちろん結果として民衆に火を注いださ。


 人々は口々に何か叫びながら手じかな物を投げ始めた。投げる物が無い者は石を拾って投げている、危ないなあ。


 今度は一転フォウとアロンがイシュアを庇って飛来物を体で受け止める。


 さてどうしようか?


 ① 暴徒を一人1秒で倒して行く。

 ② 生暖かい目で見守る

 ③ …


 俺が考えあぐねていると数秒もせずにクックが物凄い勢いで飛んできた。


 奴は手あたり次第に暴徒を散らし始める。


 そこ彼処でクックに追われ髪の毛を毟られた者達の悲鳴が聞こえた。


 おれはフォウとアロンの肩に手を置くと彼らがよく我慢をして手を出さなかった事を褒めてやった。


 フォウは目を潤ましていたがアロンは何時もの火のついた目つきで俺を睨んだ。まあ、男はそれ位でいい。


 二人に守られたイシュアは泣きべそをかきながら傍に来たクックに抱き付いていた。鼻水!鼻水がビローンって!


 家に戻ってその話を知ったマタロンがまた予想通りで面倒だった。


 関わった町人全員を処刑すると大騒ぎしするマタロンを放って帰る道、俺はクックと話す。


 「なあ。イシュアはフォウとアロンを庇ったよな?良い女王になるかな?」


 「クルッポ」


 「皆なんでこうも直情的なのかね?エルフの国に攻め込まれたのはこの国がしっかりしていないからだって言うのに。この国がそうなのは貴族のせい。俺たちは関係ないって感じなんだろうね。」


 「クルッポ」


 「どこに攻め込もうと、どこから攻め込まれようと自分たちは無関係。実害が出た時だけ被害者ですって感じ?」


 「ルッポ」


 「そういう俺は如何なんだって感じだよな?確かに俺は貴族と関わるのは御免だ。でもこの国と自分は無関係ですっていうのもどうかと思った訳だよ。」


 「ルッポ」


 「有難う、寝ながら聞いてくれて。でも一つだけ言わせてくれ、よく居眠りしながら歩けるよね?」


 「ルッポ」


 結局俺はイシュアの護衛を引き受ける事を決めた。会談の場でパプティムス大公は失脚するだろうか?俺としてはこの戦争を早く終わらせてやりたかった。

いつも読んで頂き有難うございます。

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