第31話 悪人には容赦しません
地下に降りると丁度クックの試合が始まったばかりだった。近くの奴にオッズを聞くとクックの負けに賭けている奴が多かったが、それでもクックが1分で勝つのオッズでさえ5倍と低めだった。アンナの奴また懲りずに金貨1枚を1点賭けしやがったな?
試合相手はAランク冒険者で普段は指導員をしているという中年の男性だった。一目見て体の動きにキレがあった。が、しかしクックに取っては楽勝な相手には違いない。
『おーっとクック選手。早い!早い!早い!ガルムト選手翻弄されています!KOー!なんと試合時間45秒!ここ地下闘技場にまたしてもニューヒーロー登場だぁー!その名は鳥人クックー!!』
負けた客が大騒ぎして手に持ったパンやポップコーンをリングに投げ込んでいる。クックはご褒美と勘違いして華麗なる空中キャッチに挑むが頭に袋を被っていては思うように行くまい。
建物を出た俺たちは馬車へと向かう。
「じゃあここで。」 馬車に乗り込みながらアンナが俺に言った。
「ガブさん、助けてくれてありがとう。」ピュレーンがハグしてきた。俺も軽くハグをして送り出す。
オマイが御者席で俺を見つめている。気のせいか?目頭が熱くなって来た。
一緒に行くと言っていたヨエは俺の隣に居る。どうやら気が変わって残る事を選んだらしい。気分屋だな。
「早く帰ってこいよ!」
そういうと俺はクックの肩を抱き皆に背を向けた。
「はははは、ガブー!またねー。体と女性関係に気を付けるんだよー。」
◇
クックは何時も通り銅貨2枚しか持って居なかった。ヨエも支給したおこずかいを殆ど使い切っていた。
俺も散財した後で三人一部屋でも今晩ホテルに泊まるのは無理そうだ。しかもこの時間からでは銀行はやっていまい。
仕方なく3人でイエンとオシエンの家にへ転がり込む。
クックが来たのでオシエンが大喜びした。さっそく頭の小さなトサカを撫で回している。
クックを見る大きな猫娘の目つきが怖いのだが...。野生味を帯びて居ると言うか本能に負けそうになっていると言うか。大丈夫だろうか?クックに噛みついたりしないだろうな?
晩飯は概ねアロンが作ったらしい。兎肉のミルク煮だったが、なかなかどうして美味かった。アロンはクックにも心を開いた様だ。オシエンと3人でじゃれ合っている。クックとふと目が合った、分かっている。
◇
俺は夜風に当たるために外へでる。そして家から持ち出して来た1本の薪を暗闇に向かって思いっきり投げた。
何かがひしゃげる音に続いて黒装束の女達がぞろぞろと出て来た。
「よくもお頭を!」
鎖帷子を着こんだ胸の大きな女が言った。エロいね、その服。
「えーっと、もしそのお頭と言うのが君の様に若くて可愛い女性だったとしたら素直にお詫びを申し上げたい。」
「お頭は男。48歳独身で頭髪は薄めだ!」
なんだろうその紹介文。
「じゃあ特にお詫びは無しという方向で。」
「そんな訳ないだろう!儂のサラに手を出して於いて五体満足でいられると思うな!」
おっと、まさか探していたご本人が態々やって来てくれるとは。
有難いが愚かな事だ。
「お前がサラを金で買おうとしている成金貴族か?」
「貴様!その口のききようは儂のバックが誰か知らんのか!?」
「3大公の一人。パプティムス公だろ?」
「くっ其れを知って生きて帰れると思うな!殺せ殺せ!奴は女に甘い、お前ら行け!」
鎖帷子に黒装束の女性達がさっと散る。
”ビュッ ビュッ ビュッ”
暗闇から女達が投げた無数の金属が飛来する。数が多い、クックを呼ぶか?
それでも耳で聞き分け避けながら敵に接近しては一人ずつ当身で気絶させていく。
”カッ カッ”
彼女達が投げた投擲物が幾つか木窓の板に当たった。オシエン、間違っても開けるんじゃないぞ?
成金貴族はと言うと、次々と倒れて行く味方を目前にオロオロしている。
「ガブ煩いぞ。早く戻って来い。」
「そこまでだ!この子供の命が惜しかったら動くな!」
あちゃー、最悪だ。
「きゃゃあぁー!」
悲鳴を上げたのはオシエンを人質に取った女賊だった。可哀そうな彼女は家から飛び出して来たクックにあっという間に捕まってしまい羽交い締めされた上で今まさに嘴で髪の毛を毟られている。あーあ、俺の相手だけしていれば痛く無いように倒してやったのに。クックは性別に関係なく敵には容赦がないからなあ。
俺は逃げようと馬車に足を掛けた成金貴族を後ろから引きずり落とすと、ぎゃあぎゃあ煩いので取り合えず気絶させて家まで引きずって行く。
さて、
「イエン、俺は大公の威を借りた此奴が二度とサラに結婚を迫る気が起きない様にさせたいのだが、何かいい方法ないか?」
クックが親指を首に当てて水平に振り切った。ふむ、殺すに一票ってか?
「そいつはヤコン男爵じゃない?奴隷売買や隠し鉱山での銀密売が囁かれている大公のお気に入りだ。ガブ、お前大公と戦争になるぞ?」
大丈夫である。既に大公家の執事らしき奴をコテンパンにしてしまっている。今更心変わりしても既に手遅れなのである。
「おっお前はマルティーニ・タ・ロディオン!とっ隣にいるのイシュア!!こんな所に隠れていたのか!ふははは、見つけだぞ、もうお前らは終わりだ。」
イエンを見てヤコン男爵が口から唾を飛ばしながら言った。ふむふむ、オシエンの名前はイシュアと言うのか、中々良い名だ。
「お前たち直ぐに消されるぞ。ふはははは。お前らを見つけた俺は大手柄だ。」『ポキュッ』
「ぎゃあ嗚呼あー!」
近所迷惑なので布を口に押し込みました。
「ガブさん、悔しいがそいつの言う通りです。逃げましょう。」イエン改めマターンが言った。
えっ?マルティーニ・タ・ロディオンだって?長くて呼びづらい、それとも”又やん”って呼ぶ?
「そういう事を聞いて居るんじゃない。どうしたらこいつが結婚したく無くなるかを聞いている。」
ムゴムゴと何か言いたそうだったので、男爵の口から布を取ってみる。
「痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!ムゴッ」
「面倒だから殺して魔物の森に捨ててくるか?やっぱそれが一番早いよな。」
そう言って男爵の首に手を掛けたその時、
「野蛮ね。」
俺を止めてくれたのは何とヨエだった。
「私にいい考えがあるわ。ぜーったいバッチリだから耳を貸して、あのねーヒソヒソヒソ…。」
いつも読んで頂き有難うございます。




