第17話 試合開始のゴングは鳴った
”カーン”
ゴングが鳴らされた。
ギルドの追認試験でSランク冒険者と試合をする羽目になった俺はゴングと同時にリング中央近くに進む。
俺を格下と舐めたゴリアーテは無防備に組み付こうと襲い掛かって来た、
『あーっと!ゴリアーテ選手、試合開始早々組みに行った。そしてマスクマン・デューク選手は正面から応じた~無謀だ--!』
1分以内にマスクマンの負けに賭けた観客達が大喜びする。しかしそれがブーイングに変わるのも早かった。
「ぐぬぬぬぬー、何故お前のようなパワーの無さそうな奴を押し切れない?!」
1分間組み合い、動かないままゴリアーテは体中から玉のような汗を無数に発していた。
「ゴリラー真面目にやれー!」
賭けを外した観客が野次を飛ばしだす。
「ぐぬぬぬぬー」
そろそろ良いかな?それっ
「ぐおっ!」
腕を捻って押し倒してやった。そして下がったこめかみにハイキック!
”びたーん”
脳振とう気味に巨体がマットに沈む。しかし、直ぐ起き上がって来た。ふむふむ、流石Sランク。防御力は伊達ではない。てか、こいつ防御強化の魔法使っていないか?
「こらー!ゴリアーテ、負けるなー!」
アンナの叫び声がする。さてはあいつ、ゴリアテの勝ちに賭けやがったのか。
俺も信用無い物だ、すこし腹が立って来た。
「うりゃー」
ロープに飛んでからのジャンプキック蹴りをお見舞いすると、腕をクロスさせ防御した敵に左右のハイキックを計2発、着地前に叩き込む。更に着地と同時ローキック、高い所から右フックが飛んで来たが回り込んで腕を決めて足払いと同時に投げ飛ばす。
”びたーん”
だが、巨人は尚立ち上がる。Sランクの耐久力ってすごいな?これくらい痛めつければ大概謝って逃出しそうなものだが。
「ゴリアーテ、負けるなー!デューク、勝たないでー!」
アンナの高い叫び声が良く響く。ハッキリ言って耳障りだ。なぜメンバーの俺を応援しないのだろうか。
リング上からアンナを睨んでいるとゴリアーテの右足ミドルキックが眼前に迫っていた。奴に取ってはミドルキックでも俺に取ってはハイキック、側頭部直撃だ。仕方が無いのでダッキングで躱すが、しゃがんだところを上から鷲つかみにされ、放り投げられた。くぅー、軽量級は辛い。
「デュークー!負けちゃダメー!」
だーかーらー。アンナは俺に如何して欲しいんだ。俺は遂にリングから身を乗り出して文句を言う。
「勝つなとか、負けるなとか何方かにしてくれない?集中できないんだけど。」
「あっごめん。でも人生って〇か×、イエスかノーだけでは割り切れない事もあるよね?…」
「意味わかんない!あ゛ぁーデカブツ、掴むんじゃねえ。少し大人しくしてろー、話が出来ねー!」
本気で蹴った。顔に当たったんだと思う。首がグニャってなった様な感触がした。
何年ぶりだろう本気蹴り。魔物相手でも返り血が酷い事になるから手を抜いて来たのに。
振り返ると妙な体制で崩れ落ちている巨体。それを見て全身から冷汗が滝の様に出た。殺っちまったかな?流石に此処では不味い。
”カンカンカンカンカン…” ゴングが連打され、タンカを持った屈強な男達が白衣の女医を連れてリングに駆け上がる。
「あーん、引分けに金貨1枚も賭けてたのにー、デュークの馬鹿ー」
えっ?勝つな負けるなってそういう事だったの?
「はははは、デュークの馬鹿ー。ホテルに泊まるお金も無いからー!」
えっ?金貨って俺たちの生活費だったの?
「クルッポー」
えっ?何言ってるか分かんないから。
喧噪の中、地下スタジアムの片隅でデュークを見つめる視線が二つ。
「あれが貴方が推薦するデューク君ですか?凄いですね、特に最後の攻撃。あれは私でも厳しい。」
「はい、団長。彼を正式に迎え入れるべきです。丹念に体を調べましたが入れ墨等は無く何処か特定の組織に属している様子は在りません。数日間過ごして調べましたが白です。」
「ほほう、その美貌を使ってパンツの中まで調べたのかね?」
「いえ、さすがにそこまでは。でもパンツ1枚にはしましたわ。」
スサノハさんが妖艶に微笑む。
「そうか、ではパンツの中身はこの私が調査しよう。」
「えっ? っ? 団長? ちょっと待って下さい、団長!」
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