第10話 脱出!花火大会
奴隷たちの中でも屈強な男達が例の俺を刺したのと同じ虹色に光る不思議な鉱石の欠片を握りしめている。その数ざっと20人。
「ピュレーンは連れ去られたが俺たちは作戦を決行する、皆生きて此処を出るんだ。そして彼女を取り返そう。」
リーダーの押し殺した声に奴隷たちは声を出さずに頷く。
俺は部隊を後ろに引き連れると単身先頭に立つ。
「ぐぅっ」「誰だきさ…ぐふぉ」
悪いが見張りの二人は早速喉を掻き斬らさせて貰った。勤め先が悪かったな、仕事だからと言って悪い事をしているとこういう目に会うんだ。職業選択の自由をもっと有効に使うべきだったな。
「さあ、ゆっくり後から付いて来い。門を破っても直ぐに出てくるなよ?火炎魔法が落ちてくる手はずになっているから黒焦げになるぞ、いいな?」
奴隷達は魔法と聞いて息を飲み込む。
洞窟から外にでる。澄んだ空気だ、美味い。思わず深呼吸した。
ふと見ると敵が二人、距離は5m。すかさず手裏剣を投げる。一人は声も無く倒れたがもう一人は当たり所を外したので直ぐに距離を詰めるが、
「脱走だ!」
大声を上げた男の喉に速攻でナイフを付きたてる。
声を聞きつけた敵が槍や長剣を持って集まってくる。これで全員か?どうやら柵の中にはこいつら6人しか残っていない様だった。だが同時に柵の向こう側も騒がしくなって来たので急がないと。
一人5秒きっちり30秒で敵を地面に沈めると、奴隷軍の男達が念の為に止めを刺して行く。
「扉を破るから一旦下がってろ。俺が戻って来るまで入口に近づくんじゃないぞ?」
そう言って俺は助走をつけると扉に全力で体当たりした。
◇ ◇
「クルッポー」
「敵が騒がしい、突入しましょう!」
アンナが先頭を切って突入する。どうやらフォーメーションの話などスッカリお忘れだ。
クックは暗闇の中じっとしている。こっちは座って首元の羽繕いを続ける気のようだ。
「スターマイン!(連射小爆発)」
オマイの爆破魔法が丸い火球となり色鮮やかに空から降り注ぐ。
火球の猛攻に敵は次々に吹き飛ばされるが一応手加減しているのか地面に転がった男達は未だ生きて居る。
俺は目の前で始まった大花火大会を掻き分けオマイの傍にたどり着く。
「エルフの女の子を見なかったか?」
”どーん、どどーん”
「ははは、聞こえないなぁ」
俺は声のあらん限り大声で叫んだ。
「エールーフーの女の子ー!!マリアムじゃなくて!」
一瞬オマイの手が止まり、攻撃の音が止んだ。彼の顔面には驚きと不安が浮かびあがっていた。
「ガブ、もしかして貧乳に興味あったの?」
◇ ◇
「ちっがーう!」
俺は一生懸命、中で有った事を説明した。
するとオマイもさすがに慌てただした。
「ちょっとクックに聞いて来る。見てなくても気配で感じていたかも。」
もう粗方片付いて居たので丁度いい、これ以上やると又キャンプファイヤーになってしまう。
俺は洞窟内に合図すると奴隷軍のリーダーに指示し皆で手分けして倒れている敵を縛って回る。
「貴方達には暫くの間、ソニンの町近くの開拓村に身を潜めて貰います。」
おいおいマリアムさん。それって俺の住む村の事じゃないか?
奴隷たちは助かった喜びで皆歓喜している。
「それで貴方達の中にエルフは居ませんでしたか?」
皆口々にピュリーンが連れ去られた事を訴える。
「それは女性ですか?男性ですか?えっ?女性のエルフ?そうですか...。その人の事は我々に任せて下さい。他にもエルフは居ましたか?」
マリアムさん熱心に聞き込みをしている。
そこへオマイがクックを引っ張って飛び込んで来た。
「マリアムさん飛竜貸して!西に逃げたらしい!」
◇ ◇
結局追いかける事は出来なかった。
オマイは操竜が出来ないし、そもそもあの白竜は本来一人乗りなのである、二人乗りでは500mも飛べない。
珍しく地団駄を踏んで悔しがるオマイを宥めて俺たちはソニンに戻る事にした。
っと、その前に。俺は敵のカシラを絞って吐かせた情報を有効活用、情報にあった敷地内のとある地面を掘る。
あった!大きな木箱だ。中身は銀のインゴットである。小さなインゴットで1個10kg程度だろうか?それが1000個有った。
流石に持って行けないので急いで離れた場所に穴を掘ってそこにどんどん放り込んだ。
残り20-30個を袋に詰めて戻ると、奴隷達が持っている光る石と交換を持ちかける。
俺の体を軽く貫く石だ。絶対何かの役に立つ。
奴隷たちはすぐ換金できるか分からない奇妙な石よりも銀塊を選んだ。
石を持って居なかった人たちが羨ましそうに見ていたが今は仕方が無い、許して欲しい。
此処を出たら皆にもっといい暮らしをさせてやる。そのプランは既に俺の中に有ったのだ。
読んで頂き有難うございます。
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