副作用
――あの男なら……。
博士は助手のサトウを見て思った。
サトウは気の弱い性格で、研究所内で常にイジメの対象となっている。博士が開発したばかりの、抗イジメ薬の治験者として最適だと思われたのだ。
その日。
博士は自分の部屋にサトウを呼んだ。
「今回の抗イジメ薬の治験者、それを君になってもらいたいんだ。君のためにもなると思ってね」
詳しく説明するまでもなく、同じ研究室で働いているサトウは状況がすぐさま呑みこめたらしい。
「喜んでお引き受けします」
「きっと君の精神に、どんなイジメにも耐えられる免疫力が備わるはずだ」
「ありがたいことです」
博士は薬を渡して言った。
「薬は毎日飲んで、一週間ごとに報告してほしい。効果や副作用をみたいのでね」
一週間後。
サトウには明らかな変化が見られた。
顔の表情が明るくなり、ひどいイジメにも少しずつ耐えられるようなったのである。
サトウが笑顔で報告に来た。
「博士、すごい効果です。イジメがたいして気にならなくなりました」
「そいつはよかったな。これからも薬を飲み続けてみてくれ」
二週間後。
「もう、どんなイジメもだいじょうぶです。おかげで仕事も順調です」
サトウがはつらつとして報告をする。
「薬の効果はまちがいないようだな。ところで、副作用らしきものはないかね?」
「いいえ、とくにありません」
「では、今回で薬の治験は打ち切りにしよう。それで君に、なにかお礼をしなきゃならんのだが」
「では、ひとつお願いが」
「なんだね?」
「博士、女王様になってください」
「女王様だと?」
「はい」
サトウはバッグから、なにやら怪しげなものを取り出した。
「ボク、イジメられるのがうれしくって」