2話 トラブルメーカー再び
裏山に用意されていた部室の、急すぎる爆発ーーそれを遠目で始終目撃していた少年が、ガッツポーズで喜んでいた。
そこは部室の様子がよく見える、ビルの屋上部。少年はそこで、両手を高く上げ、歓喜の声を響かせる。
「やったぞ!とうとうやれたぞ!忌わしき樋口颯斗をーーいや、姉上に付き纏う虫けらを排除できたぞ!」
失礼極まりない、人権無視上等のこの少年は、隣にいる自分より年上の青年に同じ口調で話しかける。
「貴様の火薬のおかげだ!たまには役に立つのだな。腐っても元マフィアだけの事はあったなフィフス!」
フィフスと呼ばれた青年は、呆れ顔で渋々返事する。成人を越えている20代前半なのだが、目の前の高校生に頭が上がらない。
「蓮崎……蓮崎藍河よ。お前の暗殺が、今年に入ってこれで丁度50回目を迎えたわけだけど……そのガッツポーズもこれで50回目だけれど……いくら何でも、小屋爆発は超絶やり過ぎたんじゃないか?それと、俺の方が年上だから『さん』をつけろ。フィフスさんだ」
「よしフィフス!樋口颯斗の遺体を確認に行くぞ!」
「人の話聞いてる!?」
フィフスは、この少年ーー蓮崎藍河の下僕のような扱いを受ける日々を過ごしていた。
1年前のフィフスは、相棒の女マフィアーーエイトとコンビを組んでいた。
2人一組で、様々な任務をこなしていたマフィアの下っ端。けれどある日、組織の『マーメイド奪取作戦』の時。目の前の藍河や、先程炎に包まれた樋口颯斗らが、それを阻止。
その際、マフィア組織『God jack』は壊滅し、現在フィフスはこうして藍河の下僕の様な扱いを受けていた。
ため息を吐きこぼし、話の続きを無理やり再開させた。
「いくら人気のない裏山にある部室だからって、これだけ派手に爆発したら学校の職員らが黙ってないだろ?それにお前らの大事な部室か……」
藍河はそれを聞いて、フッと笑う。
「問題ない。何故なら、あの古びたオンボロ小屋は、廃棄処分する予定だった只の倉庫だからな。本物の部室は、ちゃんと校舎の中にあって、今頃姉上達が部品の整理をしてらっしゃる所だろう。そうとも知らず樋口颯斗は、私が渡した偽の地図にまんまと騙された。という訳だ。」
この蓮崎藍河という男は、姉に溺愛する余り、相手が姉の彼氏であろうとも、容赦なく敵意を向ける。
1年前ーー姉と颯斗が互いに想いを寄せていた事を知っていた藍河は、姉の幸せを思い、颯斗の背中を後押しした。全ては我が姉上の為……2人を結ばせるという結末を選んだのだ。
けれどーー藍河の本当の狙いは……
その彼氏を亡き者にする。というもの。
そんな企みが、失敗に失敗を重ね、50回目を迎えた今ーー暗殺が成功したか否か、確認に向かおうと期待を胸に抱いていた。
フィフスは、そんな藍河を傍に見て、何度も何度も心の中で叫んでいた。
『歪んでいる』
それをこの藍河に言っても、暴れられるのがオチ。黙って仕方なく従っていた。
「よし行くぞフィフス。小屋の残骸もとっとと処理してしまなくては」
藍河はそう言い残し、動き出そうと屋上から飛び降りようとした。フィフスも黙ってあとを付いていこうとしていたのだ。
刹那。
目的地の裏山とも全く関係の無い方角ーー遠く離れたビルの屋上が一瞬、点のように小さく光る。
藍河の後ろにいた元マフィアのフィフスは、その点に即座に気付きーー
反射的に、目の前の藍河をその場に突き飛ばした。
「蓮崎逃げろ!」
突然次の瞬間、刹那の弾丸がフィフスの腹部を貫いた。
反応に遅れた藍河は、倒れながら後ろを振り返る。
「!?フィフス!」
フィフスの腹部から血が吹き出し、直ぐに経験から、藍河はこれが敵の攻撃であると直感する。
『長距離狙撃』
フィフスの反応が間に合わなければ、藍河が代わりに撃たれていただろう。
藍河はその場で受身を取って起き上がり、すぐさま行動。
「くっ、しまった!私とした事が!迂闊に敵の攻撃を!」
右手裾に仕込んであったアンカーを、校舎の中へと通じる出入口に向け射出。
左手で、撃たれたフィフスの身体を抱える。
フィフスの止血より、狙撃第2射から逃れる方が先決なのだ。
壁や障害物といった、射線を妨げる物が何も無いここ屋上は危険すぎる。
敵が何であれ、まずは自身の身体と重症のフィフスを逃がさないと。
出入口に深く刺さったアンカーを、そのまま巻き戻す。
フィフスを抱えた身体が浮き、高速で出入口へと引っ張られるのだった。
けれどーー
藍河は狙撃ばかりに注意を向けていたからーー
接近していたもう1人の男に気が付かなかったのだ……
懐まで接近していたーー刀を持った青年に。
「ーー残念だね。逃げられるとか、思っちゃった?」