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サイキッカー辛過ぎワロタ  作者: 鉄飛行機
エピソードⅠ
6/24

5話 悩みの向き合い方

 5話


 1時間後。『Godjack』アジト入口。

 迫りくる弾幕の中、俺――樋口颯斗は立っていた。右手を前に差し出し、『サイコキネシス』の盾。『サイコフィールド』を展開していた。

 銃弾は全て俺の目前で静止し、惜しくも銃声だけが響き渡っていた。

 そして銃声が止んだと同時に、俺は『サイコフィールド』に押し返す力を加えた。

 すると静止していた銃弾が全て、向こうで銃を持って構えているマフィア数人の元へと返る。来た時と同じ力。

 本来俺がなっていたであろう蜂の巣。今はマフィア数人が地面に横たわる。

 「少し前の俺なら……こんな超能力の使い方は出来なかっただろうな。力の使い方はおろか、長時間強い力を維持することが出来なかったよ……」

 痛みに苦しむマフィアを跨ぐようにして、飛び越える。

 「俺のトラウマだったはずの『サイコキネシス』。けれどもう違う……!今は仲間を守る力!俺は仲間の為に全力を出す!そのために特訓したんだよ!」

 横たわるマフィアに最後一言を言い残す。まぁもっとも痛み苦しむマフィア達からしたら、とてもそれどころじゃないと思うけれど。

 「急所は外したからな」

 

 その様子を、監視カメラで見ていたボスが、余裕の笑みを浮かべていた。

 「よくあれだけの兵を一撃で……腐っても『サイキッカー』か」

 そんな事を言いながら、淹れたてのブラックコーヒーを嗜む。

 「まぁ、それも次で終わりでしょう。所詮は高校生ということだ」 


俺は敵をかわしつつ、広いエリアに差し掛かる。そこはトラックが何台も収納できそうな広さのスペース。訓練場か実験場か、そう言った所だろう。

 中を真っ直ぐ進む。すると背後から突然聞き覚えのある声と、馴染みのある感覚が俺を襲った。

 「よくここがわかったのだな。だが、ここで終わりだ」

 この感覚――公園でセカンドとかいう男に背後を取られた時と同じ感覚……!

 俺は咄嗟に体を横に跳んで逃がす。すると紙一重で、セカンドの鍵爪を回避する。

 「あっぶね!そう何度もやられるかよ!」

 「ほう。よく避けたな。一度私の攻撃を喰らっただけで」

 「毎日あんたの息子から暗殺されかけてるんでね。自然と殺気とかそういうのに敏感なんだよ」

 「息子……?あいつは出来損ないだ。私の子供は、優秀な紅葉だけだ」

 まただ。藍河だって血の繋がった息子だろうに。なぜそこまで拒絶するのか……

 「何やら深い事情がありそうだな。藍河はじゃあお前にとってなんだ?」

 「愚問だな。私にとって子供は、私の手足になるべき存在。我がくノ一を引き継ぐ存在でなければならん。だから藍河はいらん」

 俺は聞いていて馬鹿馬鹿しくなってきた。自分の手足?何言ってるんだこのおっさんは。 

 「……なら紅葉は?あんたの手足なのか?」

 「当然だ。あいつは私の思い描く優秀な忍びへと成長した。盗み。破壊活動から諜報活動まで難なくこなした。けれどあいつは甘さを捨てきれずにいた――」


 ※


 同時刻。牢屋。

 象が溺れる程の巨大水槽。その中でアクアが手錠で繋がれていた。

 水槽越しに、黒スーツ姿の紅葉と人魚姿のアクアは向かい合っていた。

 アクアの眼が覚めて数分。ひたすら沈黙を作っていたのだが、アクアの口が先に開く。それは何時もと変わらない優しい口調。

 「……やぁ、紅葉。どうしたのよその格好……似合わないぞ」

 「……」

 やっぱり沈黙か。

 けれどアクアが再度話し始める。

 「颯斗がね……言ってたわよ?紅葉とまた遊びに行くんだって……彼、とてもいい笑顔だった」

 「……」 

 「……どうしたの……?また前みたいに楽しいお話いっぱいしよ……」

 「……」

 「そろそろ教えてよ。あなたの『悩み』。紅葉の口から直接聞きたい……私達『友達』でしょ……?」

 『友達』――その単語を聴いた紅葉は、また悲しい涙を流す。

 そしてここに来て初めて、言葉を話すのだった。

 「……こ、こんな酷い私を……まだ、『友達』と呼んでくれるの……?」

 その問いにアクアは即答する。何の迷いもなく即答する。

 その次の瞬間、紅葉は膝をついて大泣きする事になるのだった。

 「当たり前でしょ。紅葉」

 


 「――だからあいつに、友達であるマーメイドを誘拐させた。これを期に、紅葉は最強のくノ一へと成長させるため。それをお前ごとき高校生に邪魔させはしない」

 それを聞いて俺は2つの事を安心する。1つは紅葉が自分の意思でマフィアに協力をした訳ではないということ。これはかなり救われた情報だ。

 もう1つは――

 「お前が解りやすい悪党でよかったよ。正直紅葉の親父と戦うなんて気が引けていたんだけどな。これで思う存分叩きのめせる」

 「たかが高校生に私が負けると思っているのか?」

 「お前がどれだけ強い忍びだかなんだか知らないけれど!こっちは負けられないんだよ!」

 「私をなめるな!」

 セカンドは怒って動き出そうとした。その時――

 クルッポー

 この部屋に1匹の鳩が迷い込んだ。俺達の上をグルグルと飛び回る。

 セカンドは勿論、鳩からすぐに意識を俺へと向け直す。当然俺も鳩なんかに構っていたら、目の前の忍びに殺される。けれど、俺は鳩の足についている機械的な物に気が付いた。

 「これって……!?」

 セカンドが動き出そうとした。その時、鳩の足についている機械的な物――

 ドドドドドドドドド……

 小型のミニガン。セカンドに向けて発砲された。

 セカンドは咄嗟に気づき、それを後ろに飛んで回避する。

 「なんだ!?この鳩は!?」

 セカンドを攻撃した謎の鳩。その鳩は攻撃をし終えると、元来たところへと返って行った。そこには見慣れた少年が立っていて、その少年の腕に鳩が止まる。

 「何を遊んでいる!樋口颯斗(ひぐちりくと)!」

 てっきり来ないと思っていた……蓮崎藍河(れんざきあいが)だった。

 「遅いよ……全く」

 「ヒーローは遅れてやってくるものだろ?」

 「お前がヒーローなら、俺はきっと賢者だな」

 冗談を言い合うと、藍河はふっと笑う。普段は滅茶苦茶でお互い毛嫌いし合う仲だけれど、こういうときは本当に心強い。

 藍河の強さは知っている。

 セカンドは勿論この状況をよく思っていない。

 「何しに来た藍河……?私の邪魔をしに来たのか?」

 「滅相もございません父上。今ここに害虫が出たとの事でして、それを駆除しに来たのです。お怪我は?」

 藍河はセカンドに速足で近づいた。そして手の届く距離まで近づいたところで、急に銃声音が鳴り響く。

 廊下で倒れていたマフィアから奪い取った銃。その弾がセカンドの頬ギリギリをかすり抜ける。

 そして不意打ちを決めた藍河が余裕の笑みを浮かべるのだった。

 「――害虫の駆除です。くそ父上殿」

 藍河の攻撃を紙一重でかわしたセカンドは、鍵爪の装備した右腕を振るう。それを咄嗟に後ろに飛んで回避する。

 「奇遇だな。私も害虫駆除だ。飛んでいる蠅を叩き潰さなければな」

 「実の息子に対して酷い言いようだな」

 「お前を息子だと思ったことはない!」

 「それは私の台詞だ!貴様をここで潰す!」

 親子の激しい戦いが始まった。何か藍河の援護をしないと。俺はそう思い、右腕に念を込める。だが、藍河はそれを見て怒鳴り散らした。

 「樋口颯斗!貴様はいい!次の敵に備えて力を温存しておけ!そこで黙って見学していろ!」

 温存って……負けたら元も子もないんだぞ? 

 でもいくらそんな事を言った所で、藍河は勿論負ける気などさらさらない様子だけれど。

 藍河はセカンドの投げる手裏剣を飛んでかわし、銃弾1発を心臓目がけて発射する。命中はしたのだが、激しい鉄の音が辺りに響きわたる程度だった。

 傷1つない様子。

 「……まさか防弾アーマー?やっかいだな……」

 「残念だったな。首から下は全て防弾仕様の特殊アーマーだ。だから私は、首から上にだけ防御していれば問題ない」

 そう言って、セカンドは自分と同じ姿の分身を2体出現させた。それらも本体同様、両手に鍵爪を装備している。

 藍河は腰に隠し持っていたナイフを2丁抜き取り、此方に向かってくる分身2体同時に、投げつける。2体の脳天に同時に刺さり、消滅する。

 次に、本体だ。セカンドの場所は――部屋の隅でその光景を見ていた俺は、藍河が分身に気を取られている間に消えていたことも、次どこに出現したのかも全て見えていた。

 「藍河!後ろだ!」

 俺の声に咄嗟に反応して、前へと体を逃がす藍河。背中に多少の浅い傷を負ったが、うまく避けた方だ。

 これが……忍びとスパイの戦い。『サイキッカー』の俺が常人に思えてくる光景だった。

 セカンドが少し優勢か。

 防弾アーマーがある。無理もない。先程から、藍河の攻撃が何1つ届いていないのだから。

 数発心臓部に命中させ、多少凹みが出来ている程度。

 「……強くなったな藍河。やはり私の血を引いているだけはある」

 「これは全て、貴様を倒すため手に入れた力だ!私は戦う!姉上と、その笑顔のために!」

 セカンドの数ある攻撃で、藍河の傷は時間が経つごとに増えていく。それに引き換えセカンドは心臓部の凹みが大きくなっていくが、未だに傷は無い。

 そして数分後、藍河の弾丸や暗器は全て使い果たし、深い傷から立つことがやっとという状態になっていた。

 「……残念だったな藍河。お前の弾は無い。立っているのもやっと。惜しかったな。あと1発あればお前が狙っていた心臓に穴を開けれたかもしれないが……私の勝ちだ」

 絶体絶命のこの状況。だが藍河は笑ってみせるのだった。

 「あぁ。確かに残念だった。あと1発あれば、俺が止めを刺せたものを……!」

 「なに!?俺がだと!?」

「姉上のためならば…あの人のためならば……私はなんだって利用してやる!」

 藍河がそう言い残し、ゆっくりと体が地面に向かって倒れこむ。するとセカンドから見て、ゆっくりと倒れると同時に右手を前に差し出していた俺の姿が現れる。

 「まかせたぞ……くそサイキッカー……」

 「くそは余計だろ?」

 『サイコショット』

 最大限に圧縮した空気を、今まで藍河が削ってくれた心臓部に命中させる。

 次の瞬間、心臓部に穴が開き、セカンドの体が地面に向かって崩れ去った。

 「……勝ったぞ。藍河」

 藍河は満足そうな表情で眠っていた。

 

 藍河のお蔭で、俺は力をほぼ使うことなく前へと進める。してもしきれない感謝を胸に、前へと走り出す。

 しばらく走ると、またも大きな部屋へとたどり着いた。そこには水が抜かれた大きな水槽。その中に黒スーツ姿の紅葉が、人魚の姿に変わっていたアクアの手錠を外そうとしている光景。

 紅葉が泣きながら外している。

 「ごめんなさい……!本当にごめんなさい!」

 俺は近づいて泣きじゃくる紅葉の頭を優しく撫でる。事情は大体解っているから。

 紅葉が好きで友達を裏切ったわけじゃない事。俺は勿論アクアも理解して納得しているから。

 けれど話は後だ。早くここから逃げないと……

 「何をしてるんだい?君たち」

 嫌な予感が的中する。出口には笑顔のボスが手を叩いて塞いで立っている。

 やはり黙って見逃してくれないか……

 「そこをどけ!俺達は帰るんだ!」

 ボスはただ笑って、アクアの方を見た。

 俺にじゃなくて、アクアにだ。

 「帰ってもいいのか?僕なら君を、人間にしてあげられるかもしれないのに」

 「えっ……?」

 それを聞いたアクアの心情が揺らぐ。

 俺は必死に、アクアを正気戻そうと努力する。

 「あいつの言う事を信じるな!あいつはただお前を混乱させようとしているだけだ!」

 俺は何度も何度もそう言って聴かせた。けれど、アクアはどこか暗い表情を見せ続けた。

 「もし私が普通の人間だったなら……みんなに迷惑掛ける事もなくなるのにね……」

 今までのアクアからは考えられないような発言。今までのアクアは何があっても物事を良い方へと考えて、俺達の気分をむしろ底上げしてくれる――そういう奴だった。

 そんなアクアがこういうことを言うなんて……

 ひょっとして――こいつは今までそんな事を考えていたのか……?

 「アクア……?」

 1度爆発したアクアの感情は更にヒートアップする。

 「私が今一番悩んでいる事はね!私のせいで皆が傷ついていくことよ!」

 アクアはアクアなりに、責任をずっと感じていたのだ。それを俺は今になって……

 「人間になりたければ僕の所へ来い」

 ボスは優しそうな口調で勧誘した。

 アクアがそう望むなら……俺はそう思った。けれど、アクアが俺にしてくれた事――

 俺はアクアがいてくれたからこそ、悩みを克服できたし、今こうして皆と笑い合える。

 今度は、俺がこいつを助ける番だろ。

 俺はアクアに近づいて、優しい口調で安心させるように一言話した。

 「アクアは今のままでいいんだよ」

 「で、でも私がマーメイドだから……颯斗達にいっぱい迷惑を掛けるのよ……私がマーメイドだから――」

 「そんなアクアだから――俺はいっぱい幸せを貰ったんだよ」

 俺がそこまで言った所で、アクアの溜めていた涙が溢れ出るのだった。

 そして掛け替えのない仲間――アクアや紅葉、そして目の前のボスに向かって俺は言った。

 「それに、友達の危機なら共に乗り越える。そしてまた俺の悩みも、共に考えて貰うんだ」

 

 「黙れ黙れ黙れ!」

 初めてボスの表情から笑顔が消える。

 突然怒り狂ったボスは、遠くにいるアクアを念の力で持ち上げ自分の所へと引き寄せる。その力は――

 「これは……『サイコキネシス』!?」

 「そうだ!僕もサイキッカーだ!君と同じだ!なのに……!何故君だけそのような仲間がいる!?」

 それを聞いて、思い出す。どこかで聞いた話だと。

 まるで俺と同じじゃないか……

 「お前も過去に……?」

 「そうだ!僕も昔、この『サイコキネシス』のお蔭で虐められたんだ!それでも僕は、僕の力を皆に見せつけ続けた!なのに周りの奴らは、僕を最後まで蔑み続けたんだ!この気持ちが解るか!?」

 どこからどこまで俺と同じかよ。けれどこれからが俺と大きく異なるところ。

 「だから僕は仕返しをしてやった!そいつらを片っ端から!」

 まるでパラレルワールドにいる自分を見ているようで心が痛い。もし俺はアクア達に出会わなければ、こんな末路をたどっていたのかと、そう思うとゾッとする。

 それと俺と同じ力――『サイコキネシス』で行う仕返しって……

 「仕返しって……?」

 「そうだな。想像に任せるよ。なんなら、今再現しようか?こいつでな」

 ボスはそう言って、念の力を強める。するとアクアが激しい頭痛に襲われた。

 俺はその光景を見て思い出す。あの時を……

 昔――少女を救おうとして、誤ってバイクを突き飛ばした時を。

 あのときのように力でアクアの頭を締め付けたら……

 「止めろ!」

 俺は『サイコキネシス』を使って、ボスの腕を押さえようとする。だがそれより強い力で、俺の体を吹き飛ばすのだ。

 「君と僕では『サイキッカー』としての器が違う」

 確かに、今まで力を極力使わなかった俺と、日々毎日使い暴れていた奴とでは圧倒的な力の差が生じる。

 けれど――俺は奴に持っていない物がある。

 「俺1人じゃ確かに勝てない。だから頼む紅葉!力を貸してくれ!1人じゃ勝てなくても、2人なら!」

 ニコッと優しい笑みを浮かべた紅葉。この笑顔が、奴に足りない力だ。

 「行きますよ颯斗さん!走って下さい!」

 紅葉が自分そっくりの分身を10体出現させる。それらは走ってボスに向かって散らばる。そしてボスが分身に気を取られている隙に、オリジナルが背後からアクアを連れ去ることに成功する。

 「何!?よくも僕の邪魔を!」

 「もういい加減にしろ!お前の気持ちはよく解った!降参しろ!」

 勝てないと解っていても俺はやる。正面から圧縮した空気を打ち出したのだった。

 『サイコショット』

けれど、それは当然交わされる。

 「君に僕の何が解る!?誰も僕の気持ちなんて解らない!それにさっき僕は言っただろ!?君では僕には勝てないって!」

 「確かに俺じゃあお前には勝てない。けれど俺も言ったよな?1人じゃないって!」

 ボスが『サイコキネシス』で握りつぶした俺――は紅葉が作り出した木の丸太に変身した。

 『変わり身の術』。忍者の定番だろ?

 オリジナルの俺は、敵が気付かない間に頭上へと移動していたのだ。

 「俺達の勝ちだ。残念サイキッカーさん」

 『サイコショット』

 


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