16話 世界1妙なメンツ
俺に突然襲いかかってきたサイボーグの少女ーー大凪楓柚。
「特徴といえば、その男の人でーー赤いコートを着ていました」
『赤いコート』その単語に心当たりのある藍河は、急遽俺達を場所を変えて呼び出した。
俺達コンサルテーション部の、部室である。
大事な、今後を大きく左右するための話し合い。そのはずだったのだが……
状況を理解していない、空気の読めない青髪の少女に、藍河は部屋の中心で叫ぶ。
「アクア貴様!私はそこのサイボーグに尋問しなければならんのだ!それを……なんだ!?この、パーティームードは!?」
部屋の壁にカラフルなリボンを飾り付ける青髪美少女ーー水玉アクアがポカーンとした表情を見せる。
「ふぇ?どうして?」
「間抜けそうな表情をするな!」
「なっ!失礼な!」
「いや違うか……!間抜けそのものだったな!」
「うるさーい!間抜けって言った方が間抜けなんだから!」
2人は今日も、俺と紅葉、そして後輩の楓柚を置いて口喧嘩を始める。
「だいたい!なんのパーティなのだ!?」
「そんな事も分からないの!?楓ちゃんの入部祝いに決まってるじゃない!」
アクアが急に言った愛称。楓ちゃん事大凪楓柚の入部式。
気持ちは分かるが、どうして今なんだ!?
またもアクアは全員を置いて、楓柚に抱きつくように飛びついた。
「楓ちゃんー!我がコンサルテーション部へようこそ!では、部長である颯斗から一言」
「勝手に決めんな!」
俺は思わず即答する。
「えー。普通ここは部長挨拶でしょ?他の部活動もみんなやってるよ?」
「そうじゃねぇ!まず後輩の事について、いろいろ聞いて確認しないとだろ!?」
「確認って?」
アクアはまるで状況をわかっていなかった。
俺は思わず溜息を吐きこぼし、後輩の楓柚に問いただした。
「あの……大凪さん?」
俺がそこまで言ったところで、紅葉がアクアと楓柚の側へと駆け寄った。
「違いますよー颯斗君。この子は楓ちゃんです」
呼び方に指摘が入る。
けれどどう考えても、今重要な事はそれではない。
「話が前に進まん!全員まず座れ!」
俺の一言で、場にいた全員が部屋に並べられていた席に腰を下ろす。
細長いミーティングテーブルが、四角に並べられ、全員の顔が見合わせられるようになっている。
俺と紅葉が隣合って座り、向かいにはこちらを睨みつけて座る藍河。そしてアクアは「怖い先輩だねー」などと言いながら楓柚を自分の隣に座らせる。
話を始めようと、俺が口を開いたところで、やはりこの男が痺れを切らす。
「おい樋口颯斗貴様……!姉上に指1本触れてみろ……!今日この会が、貴様の血で染まるぞ!」
ここにいる人間は皆、どうしてか話を脱線させる。
「は……!?おいおい藍河。お前いい加減にしろよ……!?俺は昨日の爆破事件、まだ許してねぇからな!本来ならここにもう1人、後輩君が座ってるはずだったんだそ!」
「だったら貴様が潔くあの時死んでいれば、今貴様の席にその後輩が座ってた……!なんて考えないのか!?」
このマジキチシスコンが、俺を殺そうとして、それを詫びるどころかこの態度。
「そんなに俺が邪魔か!?」
「ああ!分かりきったことを聞くな!隙あれば次こそ貴様の脳天を貫いてやる!」
俺は思わず立ち上がり、怒りで気が狂いそうになっていた。
「紅葉!先に謝っておく!俺は今からお前の弟を刑務所に送るぞ!」
けれどこのやりとりも日常茶飯事であり、見ていたアクア達はとくに気にしていなかった。
そんな時だった。
ガチャっとドアが開き、聞き覚えのある少年の声が俺達の口喧嘩を中断させる。
「あの!失礼します!」
俺はその人物の訪問に、目を疑った。
「失礼します先輩方。入部受付は、まだ間に合うでしょうか?」
ハキハキとした丁寧な敬語。好印象を思わせる笑顔。
もう顔を見せてはくれないと思っていた……
「君は……!豊本聖羅君!」
「誰だこいつは?」
藍河はしれっとそう言った。
「いやお前が昨日間違って殺しそうになった後輩だよ!」
そして俺はすぐに聖羅の元へ駆け寄った。
「え、えっと入部に来てくれたの!?」
「はい!どうかよろしくお願いします!」
丁寧なお辞儀で深々と頭を下げる。頭を下げたいのはこちらだと言うのに。
「ほんとに!?ありがとう!もう来てくれないかと思ってたから……!紹介します!1年の豊本聖羅君です!」
俺はすぐに部活仲間全員に、聖羅の顔を見せて紹介する。
聖羅もすぐに「よろしくお願いします!」と言い、再度頭を下げる。
けれどーー俺達は知らない。聖羅の本当の目的を。
(ふっ、ちょろいな全く。簡単に僕を信じちゃってさ)
絶えない笑顔で、心の声を閉じ込める。
後輩の追加に嬉しくなったアクアは、近づいて右手を差し出した。
「私は水玉アクア。よろしくね聖羅」
「はい!よろしくお願いします!先輩!」
聖羅は手を交わして笑顔をみせる。けれど、心の中でうんざりしていた。
(なんだ?いきなり呼び捨てか?年上だからって偉そうに……!まぁ、少しの我慢だ。どうやら部員はここにいるので全部のようだし。女は3人か……この中にきっとマーメイドが!)
するとテンションが上がったアクアが、ペラペラと自分のことを話し出した。
「私のことは気軽にアクアって呼んでね。私の正体はマー」
俺は咄嗟に急遽場違いな大声を上げる。
「アクアー!おいアクアー!わー!」
「ん?何?大声なんか上げて……頭おかしくなったの?」
「お前に言われたくないわ!」
あぶねー!あーっぶねー!
昨夜の黒ローブ襲撃の件もある!
無闇にマーメイドの正体を明かさない方がいい!
相手が部活の後輩でもだ……!
(ん?なんだこの男は?変な先輩が多い部活だな)
聖羅は首をかしげてそう思う。
俺の不審な叫びを見て、藍河は舌を鳴らして座り込む。
ドンドンドンと膝を揺らして不機嫌そうな態度を取る。
それを見た姉の紅葉は、嫌そうな表情を見せて言った。
「コラ藍河。貧乏揺すり止めなさい。みっともないから」
「はい!姉上!」
いつもの如く。すぐさま立ち上がって反省する藍河。
いつでもよく見る光景ーーなのだけれど。
「アクアごめん。ちょっとお腹痛いし帰るわ」
俺は唐突にそう言った。
「え?大丈夫颯斗?送ろうか?」
アクアは当然そう言ったが、俺は冷静に断る。
「いや、大丈夫。後輩たちをよろしくね。それと詳しいことは明日また集まって話そう。それまで自己紹介はおわずけだ。こんな部長でごめんね」
かなり強引だが、俺はそう言い残し部室を後にする。
しばらく1人で歩き、校舎を出て校門の前で立ち尽くす。
10分後。
「貴様にしてはよくやった……と言っておく」
無愛想な少年ーー蓮崎藍河が1人で現れた。
俺はニヤッとして顔を合わす。
「『話がある。外に出ろ』だろ?さっきのお前の、貧乏揺すりは」
「ふっ、貴様にモールス信号を教えておいて正解だったが、まさか使う日が来るとはな」
モールス信号ーー音や光で相手に言葉を伝える手段。
スパイである藍河が、よく仲間内で内緒話をする際用いられる技法の1つ。
「先ほどの貴様の反応……明らか『マーメイド』の存在を隠そうとしていた。部活メンバーしかいないあの場で、それを隠そうとしていたという事は……姉上が昨夜襲われたという、あの黒ローブの事に関係があるのだろ?」
「ああ。敵はマーメイドを狙ってたからな」
「私も……敵について貴様と話しておく必要があると思っていた……!場所を変えようか。とっておきの、隠れ家を知っている!」




