15話 サイボーグ少女の目的
「ボクは体のあちこちが機械……サイボーグです」
サイボーグーー少女は自身の腹部を俺に見せつけた。
制服のシャツを下から捲り上げ、そこにはSF映画にでも登場しそうな光景。
複雑そうな電子機械が、腹部に埋まって剥き出しになっているのだ。
腹部や義手の右腕。その言葉通り、サイボーグは実在してこうして目の前で立っている。
けれどそれ以外は至って普通の女子高校生。捲りあげたシャツの下だって、機械部分以外は普通の女の子なのだ。
「サイボーグの証明だからって……いくら周りに人がいないからといって……平然と女の子が公衆の場でシャツをたくしあげてるんじゃねぇよ!」
マーメイドやサイキッカーという異質の存在にすっかり慣れてしまった俺にとって、驚いたのはむしろそういうところだ。
思わず出た俺の叫びに、少女はキョトンとした表情を浮かべた。
それを遠目で見ていた少年ーー豊本聖羅は、俺の知らないところで顔を赤くして戸惑っていた。
(なっ!?なななななな!驚く事が多すぎる!)
「とりあえずサイボーグなのは分かったがお腹をしまえ!それと俺は、地球を滅亡させる魔王でも、人類を喰い尽くす悪魔でもねぇよ!」
それを聞いた少女は、シャツを下まで下ろし、注射針を生やした機械腕を俺の方に向け構えた。
「そう言ってボクを油断させるつもりですか?」
「ちげぇよ!誰にそんな事吹き込まれたかは知らないが、俺はそんなこと出来ないし!するつもりもない!」
「信用、できません……!」
右腕を構えたまま接近する。だから再度サイコキネシスで……!と思っていた。
ところで、突如青髪の少女が俺の前へと飛び出した。
「ーー待って!」
青髪の少女ーー水玉アクアの登場。
するとサイボーグの少女の動きが停止する。
「ーーあ、貴女は……」
動きは止まったが、生身のアクアに、少女の振りかぶる注射針を防げるとは思えない。
「危ねぇアクア!何やってんーー」
そこまで言いかけたところで、アクアは少女に向かって問う。
「大凪、楓柚ちゃんだよね……!?」
!?
アクアが、少女のだと思われる名前を口に出した。
大凪楓柚と呼ばれた名前。俺はその名前が記憶にない。
すると楓柚と呼ばれたサイボーグの少女は、再度キョトンとした表情を浮かべた。
「……水玉アクア先輩……?どうして貴女が?」
!?!?
知り合い!?
まてまて、アクアにサイボーグの知り合いがいるなんて聞いてない!
「どういう事だよ!?2人はどういう関係なんだよ!?アクア先輩って言うって事は後輩何だよな!?」
迫り来る混乱に、アクアは冷静にセリフを続けた。
「知り合いって訳じゃないよ。この子は大凪楓柚ちゃん。私達コンサルテーション部の、栄えある新入部員よ」
流石はアクアだ。見事に俺を置いてけぼりだ。もう訳がわからない。
「俺は何も聞いてねぇ!何か決まったら言うだろ普通!」
それは俺を敵視していた少女も同じ事。混乱してか困った表情をしている。
「あ、あのアクア先輩……?このサイキッカーさんはもしかして……?」
「この人は樋口颯斗。昨日話したでしょ?コンサルテーション部の部長だよ」
それを聴いた俺は次の瞬間、大声で混乱と不満をぶちまけた。
「俺が部長なのかよー!ってか!昨日会ってたんならちゃんと説明しとけー!」
あと俺にもちゃんと事前に説明して欲しい。
プルルルルル……
アクアのスマートフォンが鳴り響く。
俺と楓柚をまたも放ったらかしにして、その場で電話を始めた。
「はいもしもしー」
すると電話の向こうから、俺達の耳にも届く大声が返ってきた。
それはとても聞き覚えのある、俺の大大大嫌いな男の声。
【アクア貴様ー!なぜ止めた!?もう少しで樋口颯斗が息絶える瞬間が見えたというのにー!】
どうやら俺達の様子を、何処か離れたところで見ているらしい。
俺はアクアの電話を無言で取り上げ、スーッと息を吸い、同じく大声で向こうの男へ怒鳴り散らす。
「やっぱりお前かよー!このシスコン殺人鬼が!」
最初から薄々予感はしていたのだ。
俺に危険が起こると、必ずこの蓮崎藍河が絡んでくる。
【はぁ?何を言っている?私が貴様如きを始末するのに、そんな女を差し向けると思っているのか?】
「今お前アクアに、息絶える瞬間が見れたのに!とか言ったよな!?」
【貴様の息絶える姿は見たいに決まってるだろ。当然の事だ】
「それを世間じゃ『自白』って言うんだよ犯罪者!」
【貴様を始末するのに、そんな弱そうな女を差し向けると思うのか?馬鹿が。私が直接貴様を葬らないと気がすまない。とっとと地獄に堕ちろ!樋口颯斗!】
「ちょっとは詫びろよ!お前が地獄に堕ちろ!」
俺は怒りで気が狂いそうになる。藍河の口の悪さは、今日もイキイキとしていた。
けれど確かに藍河の言う通り、こいつは何度も俺を暗殺しようとしたことがあるが、他人を使って襲撃を行った事はこれまで1度も無い。ましてやひ弱そうな少女を差し向けるなど、藍河はやらない。
藍河の性格は救いようがないほど悪いが、女の子を危険な目になど合わせない。そういう男だ。
だから俺は端末を耳に当てながら、目の前の大凪楓柚という少女に聴いた。
「大凪楓柚とか言ったな?誰に言われて俺のところに来た?」
「……そ、その……名前とかは分からないです」
名前も分からない相手の言う事を信じてここに来たのかよ……
「じゃあそいつの特徴とかないのか?例えば髪型とか口癖とか、服装とかは?」
楓柚は考えこみ、しばらくしてある特徴を上げた。
「えっと……特徴といえば、その男の人でーー赤いコートを着ていました」
赤コートーーその単語で電話の向こうの藍河が反応する。
【何!?赤コートだと!?】
「ん?赤いコートに心当たりでもあるのか?赤コート着てる奴なんて何処にでもいそうだけど?」
【この時期のこのタイミングだ!可能性は十分にある!】
藍河は焦るように口調を強くする。
【樋口颯斗!その大凪楓柚とかいう女を連れて来い!貴様に話しておかなければならないことがある!危険はすぐそこまで来ているのだぞ!】




