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サイキッカー辛過ぎワロタ  作者: 鉄飛行機
エピソード2
20/24

13話 「地球を救うためなんです」(挿絵あり)

「この僕に……失敗など有り得ない……!」


黒いローブを身にまとう少年は、自身の震えるスマートフォンを取り出して呟いた。

「……本部からの電話……司祭からか?」

超一流エリートエクソシストである少年。本来なら、任務完了の報告を済ませていたであろう時間。その報告が無いことへの催促の電話だろう。

けれどあくまで少年は、毅然とした態度で端末を耳に当てた。

動揺を隠して、普段の自分を演じるのだ。

「……はい。こちらネロ……いや、ここでは豊本聖羅(とよもときよら)ですね。今からそちらへ連絡を入れようと思っていたところでした」

「安心しろ俺だ。カインだ」

電話の相手が同僚エクソシストのカインだと分かった途端、聖羅の態度と口調が一変する。

スーッと肩の力を抜き、気だるい表情で言い返す。

「なんだカインか紛らわしい。何か用?僕今忙しいんだけど。時間が勿体ないから、とっとと用件済ませてくれ」

話す相手によって態度を変える。豊本聖羅はそういう少年だ。

「……相変わらず俺の扱い酷いよなお前。いや、俺だけじゃねぇ。周りの神父達にもだ。上の人間ばっかりに媚売って……!そんなんだから、お前は友達1人もいないんだよ!」

怒るカインに、聖羅は眉一つ動かさず冷めた口調で言い返す。

「友達?ハッ、何言ってんの?要らないよそんなの。必要性皆無だよ」

聖羅の発言に呆れたカインは溜息を吐きこぼし、諦めたように話題を元に戻す。

「もういい。お前に言い返すのも疲れた。とっとと本題に戻るぞ。マーメイド撃滅の件、どうなってる?司祭らが不安がってたぞ。ネロが報告よこさないからって」

それは今先程任を失敗したところだ。

けど失敗と認めないから……聖羅は強がるように言い訳をする。

「司祭に安心しろと伝えてくれ。思わぬトラブルが入り遅れはしたが、必ずマーメイドの首を土産にして帰ると。僕は優秀なエクソシストのネロだぞ?失敗するはずが無いだろ」

強がりながらも、それを口にする事により、まるで自分に言い聞かすように話していたことに気づいていた。

けれど初めて相手を取り逃がした聖羅は、この後当たり前のように言ったカインの台詞が、酷く心に突き刺さる事となる。


「……そうだよな。悔しいけど、ネロは優秀エクソシストな事は事実だからな。失敗なんてするはずが無いよな」


優秀な筈なのだ。

(僕は……優秀なんだ……!)

優秀であるが故にーー失敗してはいけなかったのだ。

聖羅は生まれて初めて……プレッシャーという見えない恐怖を感じていた。

「……ああ……当たり前だ」

そう言い残し、通話を終了させる。

薄暗い街灯の下。電柱にもたれ掛かるように、膝を抱えて座り込む。

落ち込む聖羅は、黒ローブの中から、お守りとして持っていたある物を取り出した。

聖羅愛用の、五芒星のアミュレット。

天使の言語で文字が刻まれている。それは、聖羅にしか読めない特殊な文字。

お守りから力を貰うーー

お守りが、聖羅にもう一度力を与える。

決意を改めて……

次こそ必ず、マーメイドを撃滅する為にーー

優秀なエクソシストであり続ける為にーー

アミュレットを強く握り締め、強い眼差しで台詞を吐き捨てた。


「僕は、神に選ばれたエクソシストだ……!」



翌日。学園校門前。

先日の傷ーー小屋爆破と黒ローブ襲撃。それらが1日で完治する筈もなく、樋口颯斗(ひぐちりくと)はフラフラと足をふらつかせながら登校していた。

今日は部活動新入生入部の日。待ちに待っていた後輩……が出来るはずだったのだが、昨日見学に来てくれた後輩がたったの1人。

しかもデンジャラスシスコンのせいで爆発事件に巻き込まれたのだ。入部してくれるはずが無い。

溜息を何度も吐き捨てながらも、部長である水玉アクアの手作りポスターに目を通す。


ーー人に言えないお悩みを、親身になって考えます!コンサルテーション部!特異体質や人間じゃない人でも大丈夫!新入部員募集!


魔訶不思議意味不明の見出しで、校内だけではなく、1部ネット上でも話題となっていた。

ボランティア精神で、アクアのやる気と根性には素直に尊敬する所があるが、普通の人間は近寄り難い。

そして何より、ポスターの最後に添えてある、アクアの手作りイラスト『マーメイド宇宙人ワレワレ君』がとてつもなく気持ち悪い。

「……こんなんで入部したくなる訳ないよな」

重い足を持ち上げ、校門を跨いだ所だった。


「あの、樋口颯斗さんですか?」

突然背後から名前を呼ばれ、俺は後ろを振り返る。

同じここの学校の制服、袖が両腕を覆うアームカバーとなっている。ショートカットヘアーの似合う少女で、木の葉をモチーフにした髪飾りを身につけていた。

けれど俺はどんなに考えてみても、この女の子には見覚えが無い。

「えっと……誰?樋口颯斗は俺だけど?」

「そうですか」

どこか無表情のその少女は、頷いて淡々と台詞を続ける。

「貴方が樋口颯斗さんという事で了解しました。突然ですが、ボクのお願いを聞いてください」

本当に突然そう言った。

急なお願いとはなんなのか、とりあえず俺は話だけ聞いてみることにした。

「えっとごめん……君が誰なのか俺分かんないんだけどさ。お願いの前にどちら様ですか?」

「いえ。ボクが何処の誰でもいいんですーー」

そこからは、俺の思考を待つこと無く、ショートカットの少女は動き出す。

右手のアームカバーの袖の中からーー手首程の大きさの、光る金属製の注射針が現れ、俺の顔面目掛けて振りかぶっていた。

挿絵(By みてみん)

「ーー地球を救うためなんです。死んでください」

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