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サイキッカー辛過ぎワロタ  作者: 鉄飛行機
エピソード2
19/24

12話 颯斗の思い切った奥の手

「紅葉!俺にいい考えがある!付いてきてくれ!」


俺が思いついた紅葉への作戦。

黒ローブに追い詰められたこの状況の中、もうこの手段しか、打開の方法が思いつかない。

成功するかどうか、紅葉は勿論どんな考えなのかさえも知らないのだがーー

和服姿の紅葉が、首を縦に振って即答する。

「分かりました!颯斗君の考えなら安心して付いていきます!私、信頼していますから!」

『信頼』

それは彼女にとって当たり前に出た言葉かもしれないが、俺にとっては、幼少期から夢見ていた言葉。

こんな俺を、『信頼』してくれる仲間に出会えたんだ。

俺はなんとしても、この人を守りたい。

『信頼』には、『信頼』で返さないと……!

だから俺も、信頼して紅葉に提案した。

「先週の話を憶えているか!?」

紅葉はキョトンとした表情を浮かべるが、すぐにその『先週の話』が何のことを指しているのかを直感し……瞬く間に表情を赤く染めていった。

激しく動揺し、首を何度も左右に振り回す。

「……っ!む!無理無理無理!無理です!」

けれど俺はそれでも、強い眼差しで手を差し伸ばす。

「頼む!紅葉!俺なら大丈夫だ!」


恥ずかしさが紅葉を襲う。

けれどこの場を生き延びるには、もうあの手段しかない。紅葉もそれは分かっていた。

だからーー

恥ずかしいけれどーー

顔面を赤く染めながらーー

俺を後ろから、俺のお腹に手を回すように抱きついた。


黒ローブは突然の雰囲気場違いな行動に、呆れ声で言った。

「……何のつもりだ?死を覚悟したから、彼氏の背中で死にたい……って事なのか?」

ーー違う!

俺達は、決して諦めた訳じゃない。

死ぬつもりは、毛頭ない!

「残念だけど、俺達は大人しく死んでやる気はないからな。紅葉を確実に守れるように、俺が盾になるって事なんだよ」

黒ローブからは、紅葉がただ抱きついただけだと……そう思っている。

俺はニヤリと笑みを浮かべ、背中に手を回しーー高速である物を黒ローブ目掛けて投げつけた。

黒ローブは慌てて対応。

ページをサッと捲り、先程と同様に、右手を蒼く光り輝かせる。

『ガブリエル』

右手を咄嗟に液体化させて防御。

俺が高速で投げつけたある物は、液体化する右手によって勢いを殺される。

止められたある物が、右手の中に溺れたように浮いていた。

黒ローブはその物を見て、『サイキッカー』とは掛け離れたある物だった事に驚いた。

「なっ……!苦無……!?」

そして驚いている間。俺達2人はその体制のまま、黒ローブへ弧を描くように接近した。

けれど、黒ローブの反応が一枚上手。

「一体何の真似だ!?ヤケになったかサイキッカー!」

液体化する右手を、接近する俺達めがけて振り払う。

だがこうなった俺達は止められない。

右手が俺達に命中したーーと思わせたが、その瞬間俺達の身体がスッと消え……

黒ローブの背後の暗闇から現れた俺の、いつもの構え。

それは、先程破られてしまった俺の必殺技。

『サイコショット』

完全に隙をついた俺の圧縮空気砲は、黒フードの背中に直撃し、向こうの電柱へと吹き飛ばした。


今度こそ敵の意表をついた攻撃。俺と紅葉が繋がれたまま綺麗に着地する。

俺のサイコキネシスと、紅葉の忍術の重ね技。

けれど忍術を使ったのは紅葉ではなく俺。黒ローブからはそう見えている。

それを更に印象づけるために、俺はとっておきのセリフを吐き捨てるのだ。

「残念だったな黒ローブ!俺は『サイキック忍者』だ!」



先週の出来事に遡る。


放課後。街のカフェで制服姿の俺と紅葉は、それぞれコーヒーと抹茶を飲みながら話し合っていた。


その日は、蓮崎紅葉(れんざきもみじ)というくの一の話。

「紅葉ってさ。どんな忍術でも使えるの?」

それは、俺の何気ない一言から始まった。

「え?まぁ、父上や親戚から1通りの忍術は教わりました。中には難しい忍術もありましたが、一応全ての忍術が使えます」

「全ての忍術!?凄いな紅葉は!」

俺は忍術なんて勿論使ったことが無いのだが、紅葉がやってのける忍術はどれも人間離れした凄さだ。

それに全て使えるとなると、度重なる努力と修練を積んだに違いない。ただただ感心した。

「そ、そんなことないですよ。私なんてまだまだです」

少し顔を赤くしたが、誤魔化すため抹茶の湯呑みを口に運ぶ。しかしすぐに、思い出したように台詞を続けた。

「あ、でも……忍術の中には、私の嫌いな術もあるんです」

「嫌いな……術……?」

「はい。『禁忌の術』と呼ばれる、恐ろしい術の事です。しかし、禁忌と呼ばれるのですが、1人前のくの一になる為なのだと、以前父上に無理やり憶えさせられた術なんです。実践は……した事がありませんが」

どこか話辛そうに、湯呑みを握って体を震わせていた。

俺はそれに気がついて、すぐに会話を中断させようとする。

「もういいよ紅葉!嫌なことは無理やり話さなくていいんだよ!ごめん!俺が変な話振ったりしたからーー」

けれど紅葉からすぐに否定が返ってくる。

「いいえ!颯斗君には私の全てを知ってもらいたいんです!辛い事も嫌な事も……全部です!」

紅葉の強い眼差しに、俺は黙って頷いた。全て聞いてあげようと。そして一緒に考えてあげようと。

「ありがとうございます。禁忌の術の中には、人を殺したり操ったりする術が存在します」

「殺したり!?操ったり!?」

予想より遥かに恐ろしい術だった。流石は禁忌の術なんて呼ばれるだけのことはある。

「はい。けれど、それらの発動条件としては、『相手が自分の事を虜にしている事』というのがあります……くの一っぽいですよね?」

紅葉は苦笑いでそう言った。確かにくの一ならでは……といった印象だ。

けれど、すぐに紅葉は苦笑いすらできなくなる。

「私は……そういう相手の心を利用するっていうのが嫌なんです」

暗く、紅葉の感情が沈んでいく。

俺は少しでも明るくしようと、冗談を言うことにした。

「じゃあさ。紅葉は俺のこと、殺したり操ったり出来るわけだ。なんちゃって」

紅葉はすぐに意味を理解して、表情を赤くする。

「バカバカバカバカ!殺したりする筈ないです!」

「冗談だって。けど、操ったりは出来るわけだよね?例えば……俺の体で忍術使ったりなんてものできちゃう訳だ」

俺の冗談に、紅葉は当然脳内にハテナを浮かべた。

「え?それは使えると思いますが……どうしてです?」



現在。俺は生まれて初めて、『影分身の術』を体験したのだ。

「あわわわわわ」

恥ずかしさでとうに限界を迎えていた紅葉が、俺が術で感動していたことに気づくことはない。


「サイキック忍者だと!?」

黒ローブが慌てて起き上がる。慌てる理由は、全て次にある。

「ああそうだ!俺はサイキッカーでもあり忍者でもある!」

という俺の嘘を信じていた黒ローブが、慌てて駆ける。何故ならーー

「ーーこいつらは!元々俺に勝つつもりなんか無く!最初から!?」

液体化の右手を、高速で振りかざす。

けれど全てはーー忍者の後手。

「バイバイ!忍者は逃げ隠れが本職だからな!」

黒ローブが右手を振り払う瞬間ーー俺達2人は、切り株となって姿を消した。

忍術の基本技ーー『変わり身の術』

まんまと敵を逃がし、1人取り残されるように立ち尽くす黒ローブは怒りと悔しさから叫び上げた。


「うわぁぁぁぁ!くっそぉぉぉぉ!」


フードをバッと退かし、さらけ出した表情で立ち尽くす。

「この僕が……!?失敗……!?有り得るのか!?そんな事が!?くっそぉぉぉぉ!」

人生最初の任務失敗。同時に人生最初の屈辱に苦しんでいた。

「僕はネロだぞ!?最強の優等生のネロだ!その僕が!?」

その時、黒ローブの内ポケットに入っていた携帯端末が、鬱陶しく鳴り響く。

そろそろ任務完了の報告をする……時間の筈だった。

「この僕に……失敗など有り得ない……!」

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