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サイキッカー辛過ぎワロタ  作者: 鉄飛行機
エピソード2
16/24

9話 テレパシーに強がり

アクアと莉奈に自慢のお手製パンケーキを食べさせるべく、キッチンを支配する男子高校生の俺。

フライパン等の調理器具を巧みに扱い、高校生離れした手際の良さを見せつけながら、パンケーキ作りを進めていく。

途中で俺が、料理のコツや食材を扱う極意を、目を輝かせながら語っていたがーーアクアと莉奈が話を聞いていない事に、夢中な俺は気が付かなかったようだ。

「やっぱりこじらせてるね、莉奈ちゃんのお兄ちゃんは」

《友達いない。可哀想》

「あんなに楽しそうな颯斗はそうそう見れないよ。よっぽど料理好きなんだね。けど主夫力高すぎる男の人も、ちょっと近寄り難いって言うか」

《そうなの?》

「いやー料理できる人は勿論カッコイイけど、程々がいいよやっぱり……颯斗ってさ、なんでも完璧にしたい!ってタイプでしょ?それだと彼女は色々とプレッシャーを感じるんだと思うよ。まぁ、紅葉は料理上手そうだし大丈夫だと思うけど」

近々親友の紅葉に、料理を教わるという約束をしていた事を思い出した。

アクアが同性で1番信頼を置ける、大切な親友ーー蓮崎紅葉(れんざきもみじ)

しばらく沈黙していた事に、莉奈の指摘によって気がついた。

《アクア?どうかした?》

「ん!?いやいや何でもないよ!ちょっと考え事してただけ……」

それは、アクアの言えない考え事。


「ほらパンケーキ出来たぞ。会心の出来だ」

俺は焼き立てのパンケーキが乗った皿を、座るアクアと莉奈の前に並べる。

こんがりきつね色のパンケーキの上に、香ばしいチョコレートソースを掛けてある。

もちろん全てに手間暇掛ける俺。チョコレートソースもお手製だ。

これが絶妙なバランスの甘さを引き立てる。我ながら料理に神がかってるよなぁ俺。


「……うまー!お店で食べるパンケーキよりも美味しいよ!ナニコレ!」

食べたアクアは思わず立ち上がって叫び出した。

《お兄ちゃんのパンケーキ大好き。優しいお兄ちゃんも大好き》

「ありがとな莉奈。作った甲斐があるよ」

満面の笑みを浮かべる莉奈の頭を、俺は優しくポンポンと叩く。

それを聴いていたアクアが、莉奈の視線の前へひょいと顔を出した。

「わ、私は……?莉奈ちゃんごめんね美味しくないパンケーキで」

少し寂しそうな表情なアクア。莉奈は困ったような顔をして、赤くなった頬を隠すように俯いた。

《うぅ、このパンケーキの次に好き、かも……》

それを聴いたアクアは目をキラキラと輝かせたが、俺は兄として厳しく注意した。

「莉奈。ちゃんとアクアにお礼言ったか?お前のためにいろいろしてくれたんだ。そういう時は『ありがとう』って言えよ」

《う……》

莉奈はしばらく恥じらって、下を俯きながらだがペコリと頭を下げた。

《ありがとう……ございました》

「莉奈ちゃーん!可愛いよー!」

アクアは興奮のあまり、莉奈に飛びかかる。

本当に、アクアには感謝しきれない。

そんな時、部屋のインターホンが鳴り響く。

ピンポーン。

ん?誰からだ?そう思ったところで、アクアが笑って言った。

「あ、きっと紅葉だ。颯斗がパンケーキ作るからって呼んでおいたの」

「いや、そういうのは作る前に言えよ。まぁ、作るの好きだからもう一度作るけど」

俺はドア窓を覗き込む。するとアクアの言う通り、相手は紅葉だったので家に上げる。

「おじゃまします。アクアもありがとう」

華麗な和服姿で現れた紅葉は、何度も言うが俺の恋人だ。俺なんかに付き合ってくれている、不釣り合いな美少女彼女だ。

紅葉は絶大な人気を集めていて、そのおかげで俺は学園中の男子生徒を敵に回しているのだが、決して紅葉は悪くない。


アクアは自分のカバンを手に取って立ち上がる。

「さてとっ。私はそろそろ帰らないと。用事があるのを忘れてた」

「え?もう行っちゃうのか?せっかく紅葉も来たのに」

俺は気遣ってそう言った。けれど……

「ううん大丈夫。それに彼女が来てるのに、他の女の子にそんな事言うもんじゃないよ」

アクアは笑って手を振って、台詞を続けた

「紅葉もまた明日学校でね。明日は新入生入部の日だから、気合い入れないとだよ。それじゃあね」

アクアは帰ろうと振り返る。ところで莉奈のテレパシーがアクアを呼び止める。

それはーー俺達の知らないところでのやり取り。


《アクア。返事しないで聴いて》

「!?」

《このテレパシー。アクアにしか聴こえないから……あの、アクアはお兄ちゃんの事……好きなのに》

けれどアクアは最後まで笑って、怪しまれないように言葉を選んで返事する。

それは紅葉と俺に向けてーーけれど紅葉と俺は知らない、莉奈に向けた台詞だった。

「こーんなひ弱な残念君の何処がいいんだか紅葉は。颯斗も護ってもらってばかりじゃなくて、ちゃんと紅葉の事を護らないとだよ。お似合いなお二人さん」

「なんだよ急に?」

「別にーなんとなく言いたくなったの」

アクアはそう言って、靴を履いて再度手を振った。

アクアの様子に何処か違和感を感じていた莉奈は、心配そうに個別テレパシーを送る。

《アクア……ありがとう。何時でも遊びに来てね》

「莉奈ちゃんまた来るね。おじゃましました」


バタン。

樋口家のマンションを後にして、数メートル進んだところで走り出す。

けれどしばらくして、ゆっくりと立ち止まる。

唇が震え、走ってはいられなかった。

「また……嘘、ついちゃった……!」

寂しい。悲しい。けど、紅葉は大好きな親友だからーーこんな感情を持つ自分が許せなかった。

「ごめんなさい……ごめんなさい……!」

自分に何度も言い聞かせる。そんなアクアに、聞き覚えのある少年の声がアクアを振り向かせた。

「アクア?こんなところで何してる?」

部活仲間であり、友達でもあるーー蓮崎藍河(れんざきあいが)だった。

「藍……河」

「どうした?誰に泣かされた?」

言われて初めて気がついたのだ。自分でも涙を流して泣いている事に。

「藍河……うぅ……!藍河……!」

1度流した涙は止まらない。

藍河はアクアに駆け寄って、落ち着かせようと……慰めようと声をかける。

「私に話してみろ!気が済むまで話し相手になってやる!」



1時間後。

遅れてマンションを出た俺は、紅葉を家まで送るべく2人で歩いていた。

日がすっかり暮れ落ち、人気も少ない薄暗い街灯の下を歩く。自宅から蓮崎家までは、どうしてもこの道を通らなければならない。

けれど俺がいるし、何より紅葉はくの一だ。どんな不審者が現れようとも、おそらく敵はいない。

相手がーー普通の不審者ならの話だ。

「おい。可哀想な残念カップルよ」

その声は突如、闇の中から現れた。

残念呼ばわりしたそいつは、俺達の行く手を阻むように立ち塞がっている。

踝まで伸びた漆黒のローブを身にまとい、一体化の黒いフードを深く被って顔を隠していた。

そして黒ローブは、変声機のような物で声を濁している。

俺はそんな人物に対して警戒して、紅葉を背後に隠す。

「……偏見で人を判断するのは好きじゃないんだけどな……どう見たって敵って感じだよな!」


黒ローブは懐から1冊の本を取り出した。

「今夜滅されるのお前達だ。悪く思うなよ。神の導きのままに」

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