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サイキッカー辛過ぎワロタ  作者: 鉄飛行機
エピソード2
14/24

7話 愛されるバカと裏の顔

身体の至るところに包帯を巻かれ、紅葉達の2つ年下の後輩少年ーー豊本聖羅(とよもときよら)が、寝ていたベットから起き上がる。

部屋に1人取り残されるような形となったが、聖羅にとっては都合が良かったのだ。

何故なら聖羅は、ある目的の為にこの部活へと侵入していたから。その目的とはーーマーメイドの始末。

超一流修道院の、超一流祓魔師として今回のマーメイド撃退の任を受けた……筈なのだけれど……

「この僕が……!敵のトラップにまんまと……!クソっ!僕の正体に気づいている様子は無かったけれど……けどいきなり小屋爆破は予想出来ない!」

先程の少年ーー樋口颯斗もその事に激怒していた。

つまり、今聖羅が任務中に負傷を負い、こうして足留めをくらっていることは全て、あの男のせいなのだ。

「蓮崎……藍河とか言ったなあいつは……!あいつを先に始末する必要があるか?この僕が任務失敗など有り得ないからな。こんな所で、呑気に寝ている暇はない!まずは1度、この場から逃げないと!」

聖羅は身体の痛みが気になるが、我慢出来ない程ではないので立ち上がろうとした。

ところで部屋の襖がバタンと開いた。

「お、なんだ気がついたのか?割と元気そうじゃないか」

怪我をさせた張本人ーー蓮崎藍河(れんざきあいが)の突然の登場だった。

「なっ!」

(しまった!逃げようとしたところで見つかった!)

聖羅は思わず感情を殺して笑顔を作る。動揺を悟られないように、あくまで礼儀正しい後輩を演じる。

落ち着いて、怪しまれないようにセリフを続けた。

「す、すいません先輩!ここまで傷の手当をしてもらって。今僕の方からお礼を言いに行こうとしていたところです」

(くそっ!なんてタイミングの悪いやつだ!僕は一刻も早くマーメイドを始末しなくてはいけないというのに……!)

ニコニコ。

あくまで上部だけのニコニコ。

そんな笑顔の仮面の前で、藍河はセリフを吐き捨てる。

「礼などいらない。貴様は一応私のせいで怪我を負ったのだからな。いや、この場合、こいつの事を庇って死ななかった樋口颯斗(ひぐちりくと)のせいか……うん。そうしよう。あいつが悪い」

藍河はうんうんと頷き、理不尽を言いまとめる。

そんなセリフを、聖羅は笑顔で聞き続ける。

(滅してやりたい……!この男!)

「あ、あの先輩……僕、これ以上先輩たちにお世話になるわけにはいかないので、そろそろ失礼しようかと」

「ん?そうだな。貴様をお世話し続ける程、私も姉上も暇じゃないからな」

それを聴いていた少女が、間に割って入って来た。

「ちょっと!何言ってるの藍河!」

姉の紅葉だ。弟に向かって説教を始めるのだ。

「貴方が怪我させた後輩さんでしょ!?責任もって看病しなきゃダメでしょ!」

けれど姉の注意は弟の耳には届かず、弟は姉の登場にただただ歓喜していた。

「姉上ー姉上ー」と、目を輝かせていた。

聖羅は内心渋い表情で考える。

(人数が増えた……!早く何とかしないと!)

「あ、あの……本当に僕は大丈夫ですから。後は自宅で安静にしています。それと家族も心配するといけないので。本当にお世話になりました」

ペコリと律儀に頭を下げ、少し強引にこの場を収めようとしたのだ。

本当は聖羅に家族などいないのだけれど。

「そ、そう?本当にごめんなさい。ご迷惑をおかけして」

紅葉も謝罪と同時に頭を下げる。それを見て、藍河は慌てて紅葉の体を起こす。

「姉上が謝ることじゃないですよ!」

(ああ謝るのは本来姉じゃなくてお前だよ!)

なんて心の中で叫んだりして。

表情は一見笑顔を絶やさない。

寝ていたベットの、枕物に立てかけてあった聖羅自身の通学カバンを手に取る。

そして再度、頭をほぼ直角に曲げ下ろす。おそらく誰もが見習うべく、教本通りの礼儀作法。

「ありがとうございます。このご恩は忘れません」

そして聖羅は先輩の蓮崎姉弟に玄関先まで見送られ、この家を後にした。

(……あの姉の方がマーメイドなのか?それとも他にも部員がいるのか……?やはり、まだしばらくここの人間の事を調べる必要があるな)

背を向けた途端、聖羅の笑顔はすっと消え、渋い表情で歩き出す。

そんな聖羅を見送っていた紅葉は、自身の後輩の姿が見えなくなったところで、はぁと溜息を吐きこぼす。

「どうしよう……絶対あの後輩さん、入部してくれないよきっと。もう、藍河のバカ」

「はい!私はいつまでも、姉上に愛されるバカであり続けます!」

全く反省の色を見せない藍河を見て、またも溜息を吐き出した。



同時刻。

自宅マンション前。


夕焼けに照らされたアスファルトを歩いてたどり着く。

身体中包帯を至る所に巻かれていた俺ーー樋口颯斗(ひぐちりくと)は、ボソッと独り言を吐き捨てる。

「莉奈のやつ……心配してるだろうな」

普段ならもう家に帰っているだろう時間になっていた。

そうでなくても、同じ部屋に暮らす妹ーー樋口莉奈(ひぐちりな)へメールを送る。今日は先程まで気を失って倒れていたから、それどころでは無かったのだ。

マンションのエレベーターを使って上に上がり、部屋の前へと差し掛かる。

「……きっと文句言われるだろうな。お腹空いたとか……1人で退屈だったとか……」

何を言われるか、俺は覚悟を決め部屋のドアを開けた。

すると頭の中に、叫び声のような莉奈の声が流れ込んできた。


《お兄ちゃん!助けて!》

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