悪いくまさん。
西の豊かな森には、悪いくまさんがいました。
赤く色づいた葉っぱも落ちる頃、くまさんはぐっすり眠りはじめました。
ある日、くまさんを心配してウサギさんが彼のお家を訪ねました。
「くまさん、くまさん、ずっと寝ているけど大丈夫?」
くまさんは何も答えませんでした。
「くまさん、くまさん。私は帰るけど、もうすぐ冬だからお体に気をつけて。」
ウサギさんが帰っていっても、くまさんは何も言いませんでした。
またある日、シカさんがくまさんのお家を訪ねました。
「くまさん、くまさん。久しく会っていないけれど、遊ばないかい?本格的な冬が来る前に僕はくまさんと遊びたいな。」
くまさんは何も答えませんでした。
「くまさん、くまさん。僕何か悪いことしちゃったのかな。ごめんね。」
シカさんは謝りながら帰って行きました。
だけどくまさんは何も言いませんでした。
またまたある日、今度はトリさんが来ました。
「くまさん、くまさん。最近外に出ていないって聞いたよ。もう冬も深まって、雪のせいでくまさんのお家に来れるのは私くらいだ。少し私とお話ししよう。」
トリさんの説得にもくまさんは答えませんでした。
「そうか。寒いから、あったかくして寝るんだよ。」
トリさんが去っていってもやっぱりくまさんは何も言いませんでした。
それからも色々な動物がくまさんのお家を訪ねましたが、結局くまさんは何も答えませんでした。
それからそれから。
雪が溶けて蕾が膨らみ、風は陽気に春の匂いを運びます。
春が来たのです。
「よく寝たー!」
くまさんのお家から大きなあくびが聞こえました。
くまさんはやっと目を覚ましました。
「引っ越してきて、初めての冬眠が心配だったけど、ちゃんと寝られたな。」
くまさんは大きな口と目でニッコリ笑いました。
「あー、早くみんなと遊びたいな!」
くまさんはよく眠って元気満タン。
みんなのお家にすぐに遊びに行きました。
「ウサギさん、ウサギさん。遊ぼう!」
「私、ご飯食べるの忙しいからくまさんとは遊べない!」
ウサギさんは頬を膨らまして言いました。
「わかったよ。また、遊んでね。」
くまさんは少し落ち込みました。
今度はシカさんのお家に行きました。
「シカさん、シカさん。遊ぼう!」
「僕は遊ばないよ。」
シカさんはくまさんを見ないで言いました。
「えっどうしたの。あんなに楽しそうだったのに。」
くまさんはびっくりしてお土産のハチミツを落としてしまいました。
「自分で考えて。」
くまさんはハチミツのツボを拾ってシカさんのお家を後にしました。
やっとの思いでくまさんはとぼとぼと思い足を動かします。
ハチミツを入れたツボが重くなったように感じました。
「トリさん、トリさん。ちょっと開けておくれよ。」
くまさんはトリさんのお家を訪ねてお願いしました。
「おお、くまさん。心配したんだよ。森のみんな、心配したんだよ。」
さぁさぁ、とトリさんはくまさんをお家の中に招きました。
「なんで心配したの。」
くまさんには理由がわかりませんでした。
「そりゃ冬の間、ずっと家から出ないからみんな心配してたんだよ。」
「えーっ!僕、冬眠してたんだよ。そういえば言ってなかったね。」
くまさんは驚いて持っていたハチミツのツボを落としそうになりましたが、今度は落とさずにすみました。
「そうか、くまさんは冬眠してたのか。みんな知らなくて心配したんだ。」
トリさんに言われてくまさんは納得しました。
「そうなんだ。言うの忘れてた。
でも、みんな心配してないよ。
だってみんな僕のこと嫌ってるもの。
ウサギさんはほっぺを膨らまして、シカさんは僕とは遊ばないって言って僕の方を見もしなかったもの。」
くまさんはその時のことを思い出して悲しくなりました。
そしてハチミツのツボを抱きしめて顔をうずめてしまいました。
トリさんは笑って言います。
「それは、みんながくまさんのこと好きだからだよ。
みんなくまさんが冬眠してたこと知らないから、裏切られたように感じて怒っちゃったんだよ。
謝れば許してくれるよ。」
それでもくまさんは俯いたまんま。
「そうなんだ。
謝るの怖いな。
それに、どうすればよかったんだろう。」
「怖いなら一緒に謝ろう。
それに君も誰も悪いわけでもないよ。
僕らも、君も知らないことが多すぎたんだ。
これから知っていこう。
そして知ってもらえるように、理解してもらえるように努力しなきゃいけないよ。
こんなことがないように。」
くまさんは顔をうずめたままだけど、しっかりとうなずきました。
それから、みんなのお家に行ってお話ししました。
みんなでごめんねと謝りあって、それから笑って仲直り。
なんだか前より仲良くなったみたい。
くまさんは森に来た初めの頃、悪いくまさんと呼ばれていました。
なぜならくまさんはいつも失敗ばかり。
自分で気がつかないうちにみんなを傷つけちゃう。
人よりも大きな口や爪や体があって、習慣も違う。
だからみんなくまさんを悪いくまさんだと思っていました。
だけどその度に学んで、どうにかどうにか頑張って生きてる。
悪いくまさんは頑張り屋のくまさんでした。
だんだん森のみんなもくまさんが頑張り屋さんの、優しいくまさんだとわかりました。
何年も何年も経っていつしか悪いくまさんは、森のみんなに愛されるくまさんになりました。
めでたしめでたし。