終幕
今日は、青空である。
先日の、雲ひとつ無い青空、とまではいかないが。
冬が近いのか、荒野に吹く風は刺すように冷たい。
僕とニーナは、そう多くない荷物を携えて、洋館を後にし、今この荒野を歩いている。
まず、今朝方の、贄の儀式について語ろう。
僕は今朝の早朝、召喚にあったとおり、山腹にある、虚階の祠に向かった。
そこで僕は、先日屋敷を襲った、領主ルイン、と対峙する。
僕がそのまま、運命に甘んじていたとしたら、贄の儀式はつつがなく進行し、今、僕がこうしてここに立っていることも無かっただろう。
僕がそのとき、領主ルインに対して行った手立ては、これだけだ。
「僕は、あなたの領の領民であることを辞めて、この領から出て行こうと思います」
領主ルインに対して、そう言い放っただけだった。
ニーナは僕に問う。
「ワタシたちがリョウミンでナくなることで、ダレかがバッせられたりしないのかな」
僕は、ニーナにこう答える。
「領民は、贄の神託を受けた際に、その領民の中から贄を選び、領主に供しなければならない」
ニーナの顔に、「そんなことはワカってるよ!」とでも言いたそうな表情が浮かぶ。
僕は続ける。
「この言葉が語っていることは、領民たちは、人身御供の生贄を選んで差し出す必要があった、ということ。領民たちはこれを守ったわけだから、領民たちは責務を全うしたことになる」
「でも。そのヒトミゴクウになったワタシタチがいなくなったら、そのウめアわせは、ダレかがしないといけないんじゃ」
「だけど、言い伝えの言葉は、そこを語っていない。……ここは賭けだったけど、実際、僕は咎められずに祠を出ることができた」
そう。これは詭弁としか言いようのない賭けだったのだけど、領主はそれを受け入れ咎めなかったのだった。
そうして僕たちは今、『領民であることを辞め』て、洋館をあとにし、新天地を目指して歩いているのだった。
詭弁の件については、ルールと、その形骸、というのが、僕の受けた印象だ。
血肉を持たない領主は、その呪いのルールに則って存在している。
不死、という強力なルールを与えられている一方、ルールに刻まれていないものことについて、ルールの意図を追及する、という柔軟さは失われている。
そういうことかもしれないな、と僕は考えていた。
だけれども、そんな辛気くさいこと、そんなことより。
今こうして、ニーナとともに、新たな道を歩いていく。
青空のもとでこうしていられること、そのことがなにより、嬉しいのだった。
--シャナンのことは、とても、とても、残念だったけど。
The end.