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脱出小説  作者: 舎模字
8/8

終幕

 今日は、青空である。

 先日の、雲ひとつ無い青空、とまではいかないが。


 冬が近いのか、荒野に吹く風は刺すように冷たい。

 僕とニーナは、そう多くない荷物を携えて、洋館を後にし、今この荒野を歩いている。



 まず、今朝方の、(にえ)の儀式について語ろう。


 僕は今朝の早朝、召喚にあったとおり、山腹にある、虚階(きょかい)(ほこら)に向かった。

 そこで僕は、先日屋敷を襲った、領主ルイン、と対峙する。

 僕がそのまま、運命に甘んじていたとしたら、(にえ)の儀式はつつがなく進行し、今、僕がこうしてここに立っていることも無かっただろう。


 僕がそのとき、領主ルインに対して行った手立ては、これだけだ。


「僕は、あなたの領の領民であることを辞めて、この領から出て行こうと思います」


 領主ルインに対して、そう言い放っただけだった。



 ニーナは僕に問う。


「ワタシたちがリョウミンでナくなることで、ダレかがバッせられたりしないのかな」


 僕は、ニーナにこう答える。


「領民は、(にえ)の神託を受けた際に、その領民の中から(にえ)を選び、領主に供しなければならない」


 ニーナの顔に、「そんなことはワカってるよ!」とでも言いたそうな表情が浮かぶ。

 僕は続ける。


「この言葉が語っていることは、領民たちは、人身御供の生贄を選んで差し出す必要があった、ということ。領民たちはこれを守ったわけだから、領民たちは責務を全うしたことになる」


「でも。そのヒトミゴクウになったワタシタチがいなくなったら、そのウめアわせは、ダレかがしないといけないんじゃ」


「だけど、言い伝えの言葉は、そこを語っていない。……ここは賭けだったけど、実際、僕は咎められずに(ほこら)を出ることができた」


 そう。これは詭弁としか言いようのない賭けだったのだけど、領主はそれを受け入れ咎めなかったのだった。


 そうして僕たちは今、『領民であることを辞め』て、洋館をあとにし、新天地を目指して歩いているのだった。


 詭弁の件については、ルールと、その形骸、というのが、僕の受けた印象だ。


 血肉を持たない領主は、その呪いのルールに則って存在している。

 不死、という強力なルールを与えられている一方、ルールに刻まれていないものことについて、ルールの意図を追及する、という柔軟さは失われている。


 そういうことかもしれないな、と僕は考えていた。

 だけれども、そんな辛気くさいこと、そんなことより。

 今こうして、ニーナとともに、新たな道を歩いていく。

 青空のもとでこうしていられること、そのことがなにより、嬉しいのだった。


 --シャナンのことは、とても、とても、残念だったけど。


 The end.

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